ゴールデンウィーク恒例の「内閣総理大臣杯争奪 第44回日本車椅子バスケットボール選手権大会」が開催された。今年はオリンピック・パラリンピック イヤーだけあって選手たちも力が入り、応援に駆けつけた観客も多いように感じる(日本は11大会連続12度目のパラリンピック出場決定済)。白熱の試合が続く中、8連覇を目指す宮城MAXが、8大会ぶりの王座奪還を目論む千葉ホークスを寄せ付けずに73-44で快勝し、今年も日本一の称号を勝ち獲った。
Text & Photo by Seiichi Izumi
■チームを成長させた準決勝NO EXCUSE戦
「ここだけの話だが……」と前置きをした上で、メディアに囲まれた宮城MAX・岩佐 義明ヘッドコーチは、「今日は絶対に負けないと思っていた」と言う。その自信の源は、前日に69-63と辛くも勝利した準決勝・NO EXCUSE戦にあった。
宮城MAX#4藤本 怜央選手とNO EXCUSE#15香西 宏昭選手はともに日本代表のエースであり、今大会前までドイツ・ハンブルガーSVのチームメイトでもあった。その2人が対戦した準決勝は、息をもつかせぬ好ゲームとなる。前半は両エースの活躍が光り、33-33と同点で折り返す。
後半開始早々、宮城MAXは藤本選手が留守の間に得点源としてチームを引っ張ってきた豊島 英選手の連続ゴールでリードを奪う。第3ピリオド中盤、ローポインター(=持ち点が低い障害の重い選手を指す。障害の程度により1.0点から4.5点まで、0.5点刻みでの持ち点でクラス分けされる)佐藤 聡選手(1.0)が速攻を決め、48-37と二桁点差にリードを開く。
NO EXCUSEはタイムアウトを取り、「もう一度、自分たちのバスケットをしよう」と日本代表の指揮官でもある及川 晋平ヘッドコーチは、気持ちで引いていた選手たちの目を覚ます。追い上げる苦しい最中、香西選手は何度も笑顔を見せた。
「試合中に何度か心が折れそうになったこともあるし、疲労もある。そこで自分が笑顔を見せることによって周りも少しはリラックスできるかなぁ、と思って意識してやってます」(香西選手)。
笑顔の効果で本来の力を取り戻し、巻き返すNO EXCUSE。逃げる宮城MAXはエース藤本に託す。その期待に応えるように得点を重ねていった宮城MAXが、69-63で逃げ切った。
■基礎から徹底し、鍛え抜いたプレッシャーディフェンス
「トーナメントを戦って行く中での接戦は大きくて、それで負けてしまってはどうしようもないですが、勝ち抜けた経験は絶対に力になります」。岩佐ヘッドコーチは接戦を制した準決勝に手応えを感じ、だからこそ優勝を確信していた。
準決勝を勝ち切れた要因として「プレッシャーディフェンス」を挙げている。ディフェンスは基礎から徹底して鍛えており、その精度は高い。決勝戦では、“スーパーシューター”と藤本選手が称える千葉ホークス#15土子 大輔選手に対し、徹底マークを敷く。土子選手を押さえることは、一人の得点源を消すだけではなく、千葉ホークス全体のオフェンス機能を低下させる。
持ち点4.0と身体能力の高い土子選手に対し、佐藤選手、豊島選手(2.0)のローポインターが車椅子を当ててプレッシャーをかける。体格差で勝る土子選手が無理に抜こうとしたところ、豊島選手が巧みな車椅子捌きでオフェンスファウルをもらい、第2ピリオド開始早々に早くも3つ目のファウル。土子選手がベンチに下がると、起点を欠いた千葉ホークスのオフェンスはまったく機能せず、得点が止まってしまった。7分が過ぎ、ようやく#10千脇 貢選手のシュートで得点が動くが30-10と20点差で宮城MAXがリード。前半が終わって35-14とさらに点差を広げた。
ディフェンスが良くタフショットを誘い、落ちたボールをしっかりリバウンドで保持し、切り替え速く前線へボールを展開する宮城MAX。ゴールした後は、スローインからボールをもらったボールマンに対して豊島選手がプレッシャーをかける。千葉ホークスが8秒や24秒オーバータイムでプレーが止まるシーンも多くあった。
「豊島は抜かれてもバックコートまで戻れる力があるので、一人でも前からプレッシャーをかけさせています。本来は全員でプレスにいきたいところですが、逆に豊島一人でボールマンに当たらせることで相手は嫌がると思います」(岩佐ヘッドコーチ)。
豊島選手自身は、「切り替え時のディフェンスで持ち味を発揮するのが自分の強みでもあります。ボールマンにプレッシャーをかけたり、ファウルをもらったりすることで、駆け引きではありますが、うまくいった場合に非常に良い流れを引き寄せることができます。チーム全体として『行っても良い』という話だったので、自分の持ち味を生かすことができました」と大一番で、思い切ってディフェンスで勝負を賭けた。
しっかり守って流れをつかんだ宮城MAXが、平均73点を獲ってきた千葉ホークスを44点に抑えて勝利をつかんだ。
■敗戦で見えた課題はリオへ向けて進化する布石
思うようなオフェンスをさせてもらえなかった千葉ホークスの選手たちに、宮城MAXのディフェンスについて聞いてみた。
「自分たちのオフェンスの時にボールマンに対するプレッシャーが厳しく、かなり苦戦しました。バックコートに4人いる状態の時に、豊島選手一人に止められてしまい、なかなかボールを運べなかったです」と振り返るのは、藤本選手、香西選手とともにハンブルガーSVでプレーしたことで、1週間しかチーム練習ができなった千脇選手。ファウルトラブルとなった土子選手は、「相手にうまくディフェンスされました」と言うしかなかった。
しかし、千葉ホークスの2人はこの敗戦からすでに課題を明確にしており、チームのため、そしてリオパラリンピックへ向けた改善を誓っている。
「プレッシャーをかけられても、決めきれなかったのが自分たちの弱いところ。まず土子からボール展開を始めて崩して行くのが我々のスタイルでしたが、そこが止められてしまいました。他の4人でどうタイミングを合わせて打開していけるかが、新しい課題となってきます」(千脇選手)
「どのチームもそうですが、僕がドリブルをしてシュートエリアに入ると、必ずシュートチェックしにきます。そうなった時にうまく周りを生かしつつ、自分がフリーになるプレーをもっとしていかなければいけないですね。本当にもったいないオフェンスファウルでした。リオで戦うためにも、そこはしっかり改善していきたいです」(土子選手)
日本一を懸けた戦いは幕を閉じた。土子選手が話すように、東京体育館で戦った選手たちにはリオで開催される世界最高峰の戦いが待っている。
昨年10月、千葉ポートアリーナで行われたアジア・オセアニア予選時、宮城MAXからは4名(藤本選手、豊島選手、佐藤選手、藤井 新悟選手)、千葉ホークスから2名(土子選手、千脇選手)、さらにNO EXCUSEの香西選手や予選で敗れたが新星・鳥海 連志選手(佐世保WBC)など今大会を沸かせた選手たちが日本代表に名を連ねている。
リオパラリンピックの代表選手に関しては、さらなる選考が行われ12名が決まる。
これからますます目が離せない車椅子バスケ!
2020年東京オリンピック・パラリンピックへ向けても、リオでの活躍に大いに期待したい。目標は過去最高位の6位以上ではなく、アカツキファイブ女子日本代表同様にメダルを狙え。ガンバレ、ニッポン!
日本車椅子バスケットボール連盟 ⇒ http://www.jwbf.gr.jp/