関東大学3部リーグもさることながら、2部リーグの会場でも関係者やメディアの方々と話を交わせば、「マーテルを2部で見たかった」という声が多く聞かれた。マーテルとは、上武大学3年のマーテル・テイラーバロン選手である。3年生ではあるが、ある理由で今シーズンをもって、大学バスケットを引退しなければならない。多くの人が「2部で見たかった」と惜しむのはそういうわけである。
上武大学は昨年、1ゲーム差で及ばず3位。2部との入替戦へ進めずに終わった。その悔しさを晴らすべく臨んだ今年は16戦全勝で3部リーグを制し、リーグ編成の改正により2部昇格を決めている。2部10位の東洋大学との順位決定戦は94-74、96-70で圧勝。アメリカからやって来た留学生のマーテル選手は初戦に36点/18リバウンド、大学バスケ最後となった2戦目は25点/13リバウンドを挙げ、格上2部チームを相手にもダブルダブルの活躍で有終の美を飾った。
チームの核とも言っていいマーテル選手が、まだ3年生にも関わらず、大学バスケを引退しなければならないのには理由がある。
アメリカ・アリゾナ州で生まれ、ワシントン州で育ち、中学校1年の年からバスケットを始めたマーテル選手は、上武大学にやって来る前、アメリカで進学したハイライン・コミュニティカレッジで1年間バスケ部員として出場していた。大学バスケットには留学などで国を超えても4年間しかプレーできない国際的なルールがある。日米通算で4年間プレーしたマーテル選手は、そのために引退しなければならなかった。
「2部でもこのチームで戦いたかったですが、残念です」
日本に興味を持った高校時代。バスケットの縁が切り拓いた日本への留学
「日本の音楽や食べ物が好きだった」というマーテル選手は高校時代から日本語の勉強を始める。大好きな日本への興味を抱いたままハイライン・コミュニティカレッジに進むと、運命的な出会いが待っていた。
「バスケ部のマネージャーが土屋(文貴)さんという日本人でした(ゴールドスタンダード・ラボにて土屋さんとマーテル選手の話が紹介されていますので合わせてぜひ!)。その方から『日本でバスケットができるかもしれない』という話をしてもらい、そのきっかけで来日することができました」
大好きな日本にやって来て、さらに大好きなバスケットもできる生活が始まる。入学した2015年、上武大学は関東大学4部リーグだったが、その年のリーグ戦は平均32.2点/19.8リバウンドでチームを引っ張り、3部へと引き上げる原動力となる。しかし当初は、「日本は常に速い展開です。アメリカではもっと選手が大きくて、インサイドプレーが多い。日本はシュートとファストブレイクが多く、そのスタイルに最初に慣れなかったです」とB.LEAGUEにやってくる選手からもよく聞かれる“バスケットの違い”に戸惑いを感じていた。
それでも3部リーグに上がった2016年は、平均28.3点/15.6リバウンドで両方のタイトルを獲得。日本のバスケットにも順応できたシーズンだったが、最初に記したとおり3位という悔しい結果に終わっている。
迎えた今年はこれまで以上に警戒され、ダブルチーム、トリプルチームで相手に囲まれる。その中でもパワフルに得点を決め、次々とリバウンドを奪う。得点王こそ遠藤卓選手(文教大学)に抜かれるも平均22.3点。上武大学はマーテル選手一人のチームではなく、順位決定戦でも味戸将太選手(3年)や後藤拓人選手(2年)など、思いきり良くシュートを決める心強い仲間がいる。リバウンド13.9本は2年連続のトップの成績を収め、大学バスケのキャリアを締めくくった。
「俺たちはハングリーで、エネルギーのレベルを常に高く持って練習をしてきました。最後に2部に昇格できたことはすごくうれしいです」
日本国籍取得も視野に入れ、目指すはBリーガー!
大学生活はもう1年残っており、専攻する国際ビジネスの勉強に励む日々が続く。しかし、その目的は「もし、プロになれなかったときのバックアッププラン」と言い切る。マーテル選手が次の舞台として第1に考えているのはB.LEAGUEだ。
「バスケットが大好きですし、B.LEAGUEを目指しています。これからどこかのチームの練習生になれれば良いと思っています。まだ国籍がアメリカなので、出場するには難しい部分もあるとは思いますが、将来的には日本国籍を取りたいです」
196cm/96kgのサイズは、大学3部や2部リーグではセンターとして通用する。だが、B.LEAGUEではさらに大きなビッグマンが揃っており、外国籍選手として2つしかない出場枠を争わねばならない。今後はプレーの幅を広げることが求められる。
「Bリーグだとどうしてもビッグマンはアメリカ人になりますが、日本国籍を取得できれば日本人の3〜4番ポジションの選手とマッチアップできるようになる。上武大学ではアウトサイドのプレーはなかなかできませんでしたが、今はアウトサイドシュートやハンドリングの練習をしています。もう少しアウトサイドでのプレーができれば通用すると思っています」
プロは簡単ではなく、茨の道であることをマーテル選手自身が一番把握しており、覚悟を決めていた。残る大学生活は勉強とともに、バスケットのレベルアップを図る猶予期間として捉えている。来年、大学2部リーグでマーテル選手の活躍を見たいと思っていたが、それ以上にB.LEAGUEへのチャレンジは楽しみである。いきなりB1は厳しいとマーテル選手も感じており、下部リーグでしっかりとステップアップできる環境に進んでもらいたい。
上武大学がある群馬県には、現在B2中地区首位(8勝5敗)のクレインサンダースがある。大学に通いながらプレーするには最適であり、マーテル選手自身も群馬入りを希望していた。現段階で2人の外国籍選手しか契約していないB2やB3クラブに行ければ、コートに立てるチャンスも広がるはずだ。
文・写真 泉 誠一