NBAの試合前のウォームアップ方法とは?
── 日本での試合前、当たり前のようにフットワークからのアップを見せられますが(笑)、NBAでは少しシューティングしている程度しか見たという記憶がありません。アップメニューも仕事の一つということですが、実際、どのタイミングでどのようなアップをしてるのでしょうか?
吉田氏:NBAは基本的に個人任せなので、チームでどうこうするというのがあまり無いです。なので、ウォームアップのメニューも個人で行うケースが多いです。試合前に行っていることを大まかに言うと、開場前にそれぞれのスキルドリルを行って一汗かいて、テーピングを巻いたりします。スパーズのホームであるAT&Tセンターはメインアリーナしかないので、若手から入って、最後にダンカンやパーカーらベテランが来て、それぞれアップしています。また、ウエイトルームでは、体に刺激を与えるような軽めのトレーニングをします。ルーキーはビデオセッションがあり、チームの動きを把握する時間もあります。試合時間が近づくとチームミーティングを行って、選手が入場があり、レイアップを少しやって体を温めます。その後はまた個人任せに戻り、ストレッチする選手、シューティングする選手などそれぞれが準備しながら、ウォームアップは完了。実は試合前も結構な時間をかけて、選手たちは動いてます。
── チームとして選手のパフォーマンスを向上するために具体的な指示はあるのでしょうか?
吉田氏:ある程度、最低限な要求はありますが、もっとスピードを上げてくれとか、体重を増やしてくれ、というような具体的な要求はありません。一番大切なのは、しっかりと体をフィットして、NBAで戦える体を作ることです。
── 体が資本のNBAにおいて、スパーズはベテラン選手も多いですが、長く現役を続けられている秘訣とは?
吉田氏:やっぱりケアはしっかりしています。スタッフも、コーチも、ベテラン選手自身も体を管理する意識は高いです。大学生とか若い選手はまだまだやらされている感がありますが、ベテランは試合日程を考えて体を調整しているのを見ると、やっぱりプロだなと感じます。スパーズはGMも含めてケアを意識しているチームですので、僕の立場としてはとてもやりやすいです。
── NBA選手を見ていると年月が経つにつれて、ルーキーシーズンの面影が無くなるほど体が大きくなりますが、そのルーキーたちとコンディショニング面ではどのように取り組みはじめるのでしょうか?
吉田氏:まずは体の正しい使い方を目標に取り組んでいます。股関節が固い選手はケガのリスクが高くなりやすいので、そこを改善するアプローチをします。しかし、強制しても選手たちは嫌がりますので、トレーニングをしながら少しずつ変わるようなメニューを与えながら、選手一人一人の状態を見てアプローチしています。
NBAで通用する体作りの基準値とプレイヤー経験があることのメリット
── NBAで活躍するためにはこのくらいの体作りができないと通用しない、という基準のようなものは、すでに吉田さんの頭の中で想定されているのでしょうか?
吉田氏:プレイを実際に見て、その選手がどのレベルにあり、どんなプレイができているのか、どこをもう少し伸ばせばさらに良くなるか、ということは僕の中にはあります。実際、コーチや選手の考えもありますので、押しつけがましくならないようにしながら、良い方向へ導けるようにしています。最低限これくらいのことはできないといけないという基準は一応、自分の中にあります。
しかしNBA選手は、ある一つのことが突出してるタイプも多いです。そういう選手は、長所を生かしながら、さらに伸びる点を探しています。また、ケガなどで制限される選手もいますので、そういう場合はケガを考慮したプログラムにします。
よくプロならば、これぐらいのスクワットを上げなければいけない、これぐらいのスピードで走らなければいけないという話があります。しかし、その目標値を掲げて実際にクリアしたからと言って、日本人がNBA選手になれるわけではありません。実際にはさほど出来無いNBA選手もいます。目標として持つことは良いですが、それができたら先につながるというのは分からないわけで、それぞれのパフォーマンスが一番評価される点なのです。
── 日本リーグ時代の所沢ブロンコス(現bjリーグ埼玉ブロンコス)でプレイした経験もあり、プレイヤーからストレングスコーチへ転身したわけですが、プレイヤーだった経験をどう生かしていますか?
吉田氏:やっぱりバスケットボールに必要な動きを見た時の判断がしやすいです。股関節のこの部分が使えないからこの動きができないなど、すごく判断がしやすいです。単純にリサーチをベースにして、筋力をこれくらいプラスしましょうではなく、実際にパフォーマンスから考えてブレイクダウンするので逆算できます。ディフェンスが苦手な選手がいたとしたら、その動きを分解していって、どこに動きの原因があるかを見つけることができます。バスケットをやっていた分、感覚として分かりやすいというのはありますね。客観的に見られるという点では、バスケ選手ではない方が良いのかもしれませんが、ただ選手たちの要望を深く聞き入れるのは理解しやすいです。
── 逆にフロリダ大学の時はバスケ以外のスポーツ選手も見てたわけですが、難しい面もありましたか?
吉田氏:基本的な動きは同じなので問題は無いのですが、最終的な感覚や伝え方の部分で、実際に使う動きや使わない動きが自分一人では判断できなかったです。今ではある程度できますが、当初は実際に選手たちに動き方を聞いてから判断していました。動き自体が分かれば、どの競技でもサポートできます。バスケに関しては、自分が経験してる分、聞かなくてもできるのが大きな違いです。