今年のNBAは例年通りに開幕した。
昨年はロックアウトのため、キャンプやプレシーズンゲームも行われないまま秋が訪れた。何とかオーナーと選手間での交渉がまとまり、ようやく開幕を迎えたのはクリスマスシーズン真っ直中だった。
NBA挑戦を目指す並里 成(沖縄)をはじめ、ロックアウトのせいでアピールする場を失った選手も多かったことだろう。しかし、開幕が遅れたことでチャンスをつかんだ人もいる。
── スパーズで働くことになったきっかけは?
吉田氏:昨シーズン、フロリダ大学時代のボス(マット・ヒーリング氏)がスパーズに引き抜かれました。ロックアウトが解ける少し前、12月に入るか入らないかくらいの時期に、ボスから連絡をもらい「手伝って欲しいのだが、いつからだったらこっちに来られる?」と、まず聞かれました。昨シーズンはたまたまロックアウトがあったため、開始時期がずれたことも僕としてはタイミングが良かったです。大学院生でもあったので、「ギリギリ12月10日前後には行けます」と応え、そこからはもうバタバタでした。ペーパー提出も人に頼みながら、終わり次第、朝一で飛行機に飛び乗りました。そしてサンアントニオに到着するや否や、トレーニングキャンプのサポートを行い、そうこうしているうちにチームの方から「今シーズンの契約をしましょう」と言う話しになり正式にスタートしました。引っ越しの準備をするため、すぐにフロリダに戻ってUHAUL(アメリカの引っ越し専用レンタルトラック)を借りて、クリスマスの日に家財道具一式を詰め込み、17時間かけてサンアントニオまでドライブ。深夜に着いて新居に荷物を下ろし、翌朝にはゲームがあったので、そのままチームと合流し、開幕を迎えました。
── 本当にチャンスが転がって来たというのが、その慌ただしさからも感じられます。昨シーズンからインターンではなく、正式契約できたのですか?
吉田氏:最初はペイド・インターンと言って、インターン扱いではありますがお金はキチンと支払われます。もともとサンアントニオには、インターンしかストレングスコーチのポジションはありませんでした。もう一人のインターンは以前から働いている人ですが、新しく来たボスのスタイルがまだ把握できていません。そこで、教えなくてもできるような即戦力が必要だという話になり、ずっとボスの下でやって来た僕に連絡をくれたわけです。昨シーズンは遠征には帯同せずホームゲームだけのサポートでしたが、チームが遠征中もケガ等で残っている選手をケアする役割を行っていました。そして晴れて、今年の7月から正式にフルタイムで働くアシスタント・ストレングスコーチとして契約できました。正式名称は、アスレティックパフォーマンスコーチという分野になります。
ケガしないような体作りから栄養管理まで。ゲータレードの好みも熟知
── おめでとうございます。その役割とは?
吉田氏:基本的にNBAはシーズンが長くゲームが多いので、疲労回復や選手の状態を把握し、その間にできるだけケガをしないようにケアします。簡単に言えば、筋肉が固くなるとケガにつながりますので、ケガをしないような体作りをするアプローチをします。あとは、良いパフォーマンスを発揮させるためにも、できない動きをできるようにサポートしています。
オフシーズンであれば、筋力を上げることもできますが、シーズン中はなかなか時間も取れません。筋肉痛になると選手も嫌がりますし、パフォーマンスも良くなくなります。どちらかというと選手の動きを直すこと、コレクティブエクササイズと言われていますが、良い動きと悪い動きがあって、悪い動きになると体は言うことを効かなくなります。そのため、パフォーマンスを上げながらケガのリスクを下げるアプローチを、練習中や移動中に行います。また、練習前や試合前のアップメニューを作ったりもしています。試合中は、選手たちの水分の補給状況を管理し、水をあげたり、電解質のドリンクをあげたりしながら、足が痙ったり、熱中症になるのを防ぎます。
選手の栄養管理もしています。チームで出される食事を見て、良いものと悪いもので分けたり、できるだけ良いものを出すようにメニューを考えたりしています。また、試合前後で食べるものを考えたり、栄養面でトレーニング後のシェイクやサプリメントなどを紹介したり、実際に与えたりします。運動面だけではなく、栄養面なども含めて体の管理をするのが僕の仕事です。例えば、どの選手がどの味のゲータレードが好きかなども全て把握しています。
── ちなみにダンカン選手たちはどの味のゲータレードが好きなんですか?
吉田氏:アメリカにはいろんな色のゲータレードがありますが、(ティム・)ダンカンはパープルが好きで、G2というカロリーの低いタイプを飲んでいます。(マヌ・)ジノビリは日本でも売ってるオレンジが好きですね。練習場では、バイタミンウォーターを飲む選手もいます。(トニー・)パーカーはそういうドリンクではなく、冷たくない常温の水を飲んでます。(ボリス・)ディアウもそうですね。フランス人2人は常温の水です。ゲータレードも冷たいのが良いと言う選手もいれば、常温が良いという選手もおり、選手によってそれぞれです。
── 冷たいのと常温では摂取時に何か違いはあるのでしょうか?
吉田氏:よく言われるのは、ある程度冷たい方が吸収は早いと言われています。恐らく…。
── 練習や試合中において、水分補給時のワンポイントアドバイスは?
吉田氏:少ない分量をこまめに飲むことが必要です。練習が長くなると、エネルギーが枯渇していきますので、ある程度エネルギーを補えるスポーツドリンクを飲んだ方が良いでしょう。一気に甘いものを摂るとインシュリンというのがいきなり上がって、すぐに急降下してしまいパフォーマンスが下がってしまいます。よく言われるように、ポカリスエットを2倍に薄めて飲むことは良いと思います。運動し始めの時は、筋肉を破壊するエネルギーが抑制されますので、とくに練習1時間前にある程度のエネルギーを入れておくことが必要です。あとは絶対値として日本人はエネルギー摂取量が少ないです。練習量に対してのエネルギー摂取の比率が低く、練習をがんばることでどんどん体が細くなってしまいます。ほとんどの日本人選手は、体重を上げることを考えた方が良いでしょう。軽い方が走れたとしても、走っただけではバスケットは勝てません。もう少し、体を大きくすることも大事になります。全体的に2kgプラスするだけでもチームとして良くなると思います。
── 日本の選手が海外の選手と対戦すると体を当ててくる回数が明らかに違うそうで、それだけで体力を消耗すると言う話しを聞いたことがあります。
吉田氏:そうですね。もちろん慣れもあるとは思います。練習中や試合中からキチンとボディコンタクトをしていれば、それこそ良いトレーニングになります。そういう環境は日本に入れた方が良いですし、そのためにも体作りが重要となります。