UFCで一番メジャーな日本人格闘家である岡見勇信選手は以前、チェール・サネン選手と対戦して敗れた後、そのサネン選手が所属するジムに出向いて自分の弱点を克服するなど、おおよそバスケでは考えられないような強化が格闘技や武道では日常茶飯事に行われている。それが出稽古だ!
日本にいながらアウェイを味わえる出稽古
ロンドンオリンピックを間近に控える柔道も、様々な形で出稽古を行い、出先では”歓迎”されることも多いと格闘技雑誌で読んだことがある。生きるか死ぬかのような歓迎ぶりは、日本にいながら、日本人同士でありながら、さらに無観客ながらも着実にアウェイの恐怖を味わえる実戦型の強化となっている。その経験が世界の舞台で勝ち上がれる礎になっているのかもしれない。
もちろん日本人のレベルを上げるため、お互いに切磋琢磨しているケースの方が多い。ボクシングミドル級日本代表の村田諒太選手もまた、いろんなジムに出向きながらプロボクサーと拳を交え、ロンドンオリンピックに備えている模様が、ちょうどテレビで流れていた。
出稽古は同じ競技同士だけにあらず。体が資本のアスリートにとって、フィジカルトレーニングは競技に関係無く、いろんなコーチの門を叩きながらパフォーマンス向上を図るというのは良く聞く話であり、一種の出稽古として考えることもできる。プロ野球やJリーグでは、オフシーズンになると自主トレの模様がニュースになる。違う競技の選手や敵対するチームの選手との合同トレーニングや異種競技の練習法を取り入れながら試行錯誤している。それは全て、自分と向き合い、そして自分を超えるためのアスリートとして必要な時間である。
アメリカへ出稽古中のニッポントルネード
オフシーズン期間を有効活用するため、日本から一歩踏み出して異なる環境に身を置く集団がいる。アメリカの独立リーグIBL(インターナショナル・バスケットボール・リーグ)に参戦した「ニッポントルネード」だ。日本人を主として構成されたチームが、バスケ発祥の地であるアメリカへ渡り、自分磨きの”出稽古”を行っていた。
IBLとは、4月〜7月にアメリカ北部を中心として開催されるリーグであり、NBA経験者やEURO LEAGUEのトップでプレイしている選手も多く参戦していると言う。またbjリーグで活躍する外国人選手の中には、IBLを経験している選手も多い。あくまでこのリーグは、次のシーズンへ向けてアピールするためのリーグであり、ここで生計を成り立てられるわけでは無い。
今年5月には、bjリーグがIBLとの強化育成プログラム協定を締結したことを発表。それゆえにbjリーガーも参戦しているニッポントルネードのことは大きく扱われるのかと思っていたが、これまでのところ一切紹介されていない。
ニッポントルネードの動向に興味を持っていたところ、突然、参加選手の一人である大分ヒートデビルズの早川大史選手から連絡をいただいた。一昨シーズンはペルーへとプレイグラウンドを求めて日本を発った早川選手。それまでは隣国である韓国までしか渡航経験が無かったが、たった1度の経験で一気に殻を破り、今ではステップアップできる環境を求めて軽やかに海を渡っている。経験が人生の原動力であることを身を以て証明してくれた。
最初に連絡をいただいたのは、まだシーズン中であった。IBL参戦のきっかけやリーグの状況などを伺った。
足りない部分を補うスキルトレーニング
Q:IBL参戦を決めたきっかけは?
早川選手:今回のニッポントルネードの活動は、IBL参戦とパーソナルコーチによるスキルトレーニングをするという目的があります。日本ではまだ珍しい専門的なスキルコーチから自分に必要なスキルを教わり、それをIBLのゲームで実践する、そしてまた更に必要なスキルを教わるという反復練習をしています。
bjリーグやペルーリーグでプレイして、自分は圧倒的にスキルが足りない事に気付かされました。それを克服したくて、今回の参加を決めました。
Q:IBLの試合環境はどのような感じですか?
早川選手:観客は大体50〜300人くらいです。チケットも1000円以下なものもあり、地元の方が気軽に観に来ています。
Q:現地での練習環境は?
早川選手:練習環境はスキルコーチであるJasen Baskettコーチの運営するEmerald City Basketball Academy(ECBA)で、個人スキルを教わりながらトレーニングしています。練習頻度は強制ではなく自己管理ではありますが、ほぼ毎日行っています。
Q:IBLを通して自分が成長したい点は?
早川選手:もちろん来シーズンへ向けたスキルアップです。昨シーズンに足りなかった部分をしっかり補いたいです。
他にもいくつかありまして、まずはメンタル面です。どんなにディフェンスを頑張ってもある程度は得点は取られてしまうので、気にせず集中して次のオフェンスへ切り替えが出来るようになりたいです。どんな厳しい状況や環境でも気にせずプレイするように心掛けています。良い意味での諦めであり、バスケに重要な切り換えの早さをメンタル面でも養いたいと思っています。
それとチャレンジする気持ちです。IBLは本番のシーズンではないので、練習中のスキルやゲーム中に思いついたことはどんどんトライしています。既にプラスになっていることがたくさんあります。また、バスケだけではなく、人間的にも成長していきたいです。
Q:今後の目標や夢は?
早川選手:まずは来シーズン、bjリーグで日本一になることです。その先は、ユーロで一番になることです。その後の野望もありますが、それはここでは言えません。