MJ曰く「これは日本式のバスケットなのか?」日本とアメリカのバスケは別物
── これまでもアメリカで通用した選手が、日本に帰ってくるとそれほど活躍できないというケースがありますが、その理由は何なのでしょうか?
西田氏:それはバスケット自体が違いすぎるのだと思います。マクドナルドが、そばやうどんがファストフードだった日本にうまく根付きましたが、アメリカで良いから日本で成功するかと言ったら一概にそうとは言えません。ハッキリ僕の中で分かったのは一昨年、マイケル・ジョーダンのところへ片岡と並里(成/沖縄)のDVDを持って行き、「日本にはこういう良い選手がいますよ」と紹介したつもりだったんです。しかし、ジョーダンに言われたのは、「これは日本式のバスケットなのか?」と。
日本には四季があり、世界でも有数な米の生産国としての土壌がある。そういうものとバスケットは何も変わらなかったと気付かされました。良いお米を作るために日本人は、それこそ世界中から情報を集めながら育てる土壌を作り、品種改良もしてきました。同じように世界基準やNBA基準を目指して情報を入手し、改良を行っている日本のバスケット界であれば、アメリカで活躍する日本人選手も同じように日本で花を咲かせることができます。逆もそうですね。全く品種改良をしないといけないくらい、バスケットが違うというのが僕の見解です。
── なるほど。
西田氏:ファウル一つとってもそうですね。アメリカでは吹かれないようなプレイも、日本ではピッと吹かれて止まってしまう。アメリカでできたプレイなのにそのままプレイしたら笛を吹かれてしまい、日本では通用しないことも多々ありますね。
中島GM:素朴な疑問ですが、どうしてアメリカと日本でルールが違うんですかね。本当にルールが全く違うんですよ。例えば、アメリカでは手に触ったらファウルであり、ビデオ判定されるくらいシビアに取られます。日本ではアップ&アンダーで相手の手を払って、自分から相手の懐に潜っても何も吹かれない。アメリカでは下手をすればテクニカルを吹かれるほどの悪質な行為であり、NBAでは必ずファウルになります。この違いは何なのでしょうか?
西田氏:バスケスキルは進化しているわけですから、それに沿って審判のスキルも向上しなければ本来はいけませんよね。オフェンスが向上すれば、それに立ち向かうディフェンスのスキルも上がってくるわけで、その差異を見極めながらジャッジも進化が必要なはずです。しかし、日本ではその差は広がる一方。なぜならば、日本の場合はスキルではなく、ルールとしての情報ばかりが先行しているからです。
中島GM:本当にこの違いはビックリします。この事実を知らない日本の現状、特に学生が非常に可哀想です。世界のフィールドに乗る権利さえ無いとも言えます。これは日本バスケ界にとって大問題です。選手が世界に出るよりも、その前にレフェリーや指導者が世界に出て情報を得ないといけません。特にレフェリーが外に出るのは大事です。日本でもノーチャージングエリアが採用になりましたが、その意味を分かってる人がいません。線が引いてあるだけという認識しかないのが、小中高校のバスケを見ていて本当に可哀想だと感じています。
西田氏:問題を起こさないように、波風を立てないようにする日本の風潮があり、ファウルしたこと自体が問題になってしまうところにも原因があると思います。スポンサーはチームの商品価値を見ています。その価値とは、みんなが触れたくなるものです。しかし、その「みんな」という不特定多数が問題でもあります。僕はそれが日本の土壌だと思います。もっと分かりやすくしなければいけませんし、見る側も玄人になって欲しいです。極端に言えば、ペイントエリア内に入ってしまえば、ヒジから上を触ってもファウルを吹きません、というルールにしてしまえば良いでしょう。仮にそうすれば、選手たちはそう思ってプレイしますし、見ているファンもそう思って見ていますので、ボールの動かし方が上手くなります。そしてどうすれば良いのだろうと思って、アメリカに行くようになりますよ。曖昧だから審判によって笛が違ってくるので、それぐらいルールは極端にした方が良いでしょうし、不平不満は軽減できるはずです。
中島GM:お客さんも興奮してレフェリーにクレームを言うケースが多く見られますね。僕としては、レフェリーにもっとお金を与えてプロ意識を持って取り組めるようにした方が良いと思います。日当ではなく、最低でも年間500万円くらい渡せるようになれば、アスリート同様に向上心を持つはずです。そして500万円あればアメリカにも行けるでしょうし、情報を得られます。今のままではどっちも何も言いようがない状態です。
バスケを通して教えられることが人生に生かされる
── バスケを熟知されている中島さんがGMをされる広島プロチームの今後の成長に注目です。お忙しい中、来ていただいた中島さんはここで退席されます。ありがとうございました。 そんな中島さんのバイタリティ溢れるお話を聞いていて、バスケットだけではなく、その後の人生におけるチャレンジ精神をニッポントルネードを通じて培ったのではないかと思わされました。
西田氏:バスケットはたかだか130年余りの歴史しかなく、震災が起きて体育館が無くなればバスケットはできなくなります。それ以上に飲み水を探したり、お金よりも先に生きることが大事であり、そのための強いメンタルをバスケットを通して教えられました。それは根性論として沸いてくるのではなく、水が無いから買いに行こう、水が売ってないならば汲みに行こうといった、そういった生きるための選択肢をすぐに選択できるような、気合いや根性で生きるのではなく自然に解決策を見つけられるような人を育てることをバスケットから教えられました。ニッポントルネードに関わった選手たちから、その後もどうしたら良いかと意見を求められますが、僕から指導することは何もありません。やりたいことがあれば、やれば良い。人の意見を求めていても、根底には自分が何をしたいのかという答えがあるはずです。
── バスケはトランジションゲームであり、切り替えや状況判断が大事になるスポーツです。バスケ選手と話していても、その判断力や決断力などに長けている人が多いと最近すごく感じさせられます。
西田氏:本当にバスケットのおかげで成長させられていますし、バスケ様々ですね。最近ツイッターなどを見ていてすごく感じるのは、青木康平くん(東京)にしても、岡田優介くん(トヨタアルバルク)にしてもそうですが、選手自身が気付いて自分で動き、個性を認めてプロモーションするのがうまい。素晴らしい世の中が来ました。昔は勉強でもしようものならば、軟弱ものでしたからね。笑
── 昨年5月にbjリーグがIBLと「育成強化交流プログラム」として提携しましたが、どのようなことが期待されますか?
西田氏:僕はいつも第3者的な目線で、バスケットはどうしたら楽しくなるんだろう、という見方をしています。毎年、NBAのドラフトに日本人の名前が挙がるかもしれないという緊張感を楽しめるようなリーグを作っていけば、もう少しメディア露出も多くなるし楽しくなると思っています。その時にニッポントルネードやIBLが何かをするのではなく、bjリーグが日本のプロリーグとして、いかに多くの方に喜んでもらうための企画立案をしていくことが大事です。端から見ていた時に、bjリーグはDリーグのチームオーナーになったり、とうとうNBAを排出するための1歩を打ったというような、何かが無いかと思っていました。そんなタイミングでIBLは、たまたまbjリーグと提携させてもらうこととなったわけです。