「レベルアップしてチームに貢献したいという想いで、早く臨みたかったです」
これは、今年度の男子日本代表チームの第1次強化合宿に参加した際の、小川敦也の言葉だ。この第1次合宿はディベロップメントキャンプと称し、過去に代表選出の経験が少ない選手を招集。今夏のパリオリンピックを前に、可能性のある選手を見極めようという狙いがあり、したがって参加選手にとっては代表への登竜門のような意味合いもある。もちろん、21歳の小川にとっても貴重なアピールの場となるわけだ。
ただ、冒頭の言葉にある「チーム」は、代表チームではなく宇都宮ブレックスを指す。メディアデーに設定された5月24日は、B1はファイナル第1戦の前日。リーグ全体の勝率1位だった宇都宮はファイナルに進出していてもおかしくなかったが、クォーターファイナルで千葉ジェッツにアップセットを許し、既に優勝争いから脱落していた。「早く臨みたかった」という理由を、小川は「チームが望むような結果で終われなかったというのもありますし、自分としても、チャンピオンシップ(CS)の1試合目はベンチに入ったんですが、2試合目と3試合目はベンチに入ることもできずに、試合に絡めないという苦しい思いをしたので」と述べている。
今シーズンはB1もB2も、レギュラーシーズンで好成績を収めて上位シードを勝ち取ったチームがポストシーズンで敗れるケースが相次いだ。第1シードだった宇都宮もその一例になってしまったが、それはリーグ全体のレベルが上がり、その中でここ一番での勝負強さを備えるチームが増えてきた証左。小川も、紙一重の差が明暗を分けたと振り返る。
「優勝できるチームだったと思いますし、それを目指してやってきて、慢心もなかったと思います。チームでも言ってたのは、レギュラーシーズン1位だろうが何位だろうが、CSは0-0のスタートということ。CSに来るチームはどのチームも強いですし、ほんの少しの差だったと思います」
しかしながら、宇都宮でプレーしたことは小川にとって少なからずプラスだった。昨年12月に3度目のインカレを終えた後、4年生のシーズンをスキップしてプロに転向することを決断した小川は、昨シーズンもプレーした宇都宮を再び選択。Bリーグで2度の優勝を誇る強豪で、プロのレベルの高さをより強く感じることができた。
「遂行力や精度が大学までとは全然違うものだなと思いました。一つひとつのプレー、ポゼッションが全然違う。ブレックスに入って、スキルも日々伸びていってるなと感じるんですが、それ以上にバスケットに対する考え方とか姿勢がすごく変わったなと思います。先輩たちも、佐々(宜央ヘッドコーチ、その後退任)さんや他のスタッフの方も自分のためにキツい言葉もかけてくださって、プレーもそうなんですが試合に対する気持ちの部分がすごく尊敬できるので、いつも勉強させてもらってます」
宇都宮は、Bリーグの中でも特に地域に根差したクラブの一つ。市街地を歩けばポスターやフラッグが至る所にあり、昨年開業したライトレールにはラッピング車両も走る。ホームで戦うことも含め、そういった環境が小川のプロ意識を日々醸成している。
「ブレックスは本当に栃木、宇都宮中から応援されてるという感覚が、生活していく中でもあります。実際にコートに立ってみても、全員が同じ黄色を着て背中を押してくださるので、1つでも多く勝って恩返しできるようにという想いが強くなってます」