いくら日本がシューター軍団になったとしても、3ポイントシュート一本やりでは、相手に守られやすくなってしまう。ドライブも、3ポイントシュートを打つための手段に限定してしまえば、やはり守られやすくなってしまう。
フィジカルにアタックし、そのままゴールにねじ込むプレーがあればこそ、3ポイントシュートは効果的になる。東藤自身もそう考えているからこそ、自らを「変化球」になぞらえたのだろう。
「チームのために」が「自分自身のため」になる
東京2020オリンピックから約2年半。その間も女子日本代表の一員としてワールドカップやアジアカップなど、世界と戦う経験を重ねてきた。しかし同じウイングのポジションには林咲希らシューターがいて、赤穂ひまわりをはじめとする、東藤と同じようにアタックができるスラッシャーもいる。その壁は厚く、恩塚体制になってもバックアップに回ることのほうが多い。
それでいいと思っているわけではない。選手としての高みを目指す以上、チームを代表してゲームをスタートさせるスタメンを目指したいと思っている。それが個人としての目標のひとつでもある。
「自分を過信しているわけじゃないですけど、自分がスタメンになれる力がないとは思っていないんで、それを目指して今も練習しています」
ただ、バスケットボールがチームスポーツである以上、チームが勝つためにすべきことは、それだけではないとも認めている。日本代表であっても、それは同じである。
「チームが勝つための自己犠牲というか、チームが勝つために自分が何をすべきかを考えたいと思っています。自分の欲だけでプレーするんじゃなくて、チームの役割を自覚してプレーすることも大事だなって。代表歴を重ねるごとに欲も大きくなってくる分、欲を出しすぎるとプレーにも影響することも経験してきました。この両立が本当に難しいなって、最近……アジアカップくらいから感じているんです。そのときはどこかで自分を過信していたのかもしれません。だからあまりパフォーマンスが上がらなかったんだろうなって。だから、自分としては、日本代表に選ばれて、チームが勝つために自分がすべきことことにフォーカスしたほうが、自分のパフォーマンスも上がってくるのかなって思うし、それが自分自身のためにもなるのかなって思っています」
もはやスタメンが主力、ベンチメンバーがそうではないという時代は終わった。少なくとも日本代表チームではそうだ。12人すべてが世界と戦う力を持ち合わせていなければ、日本が世界で勝つことは叶わない。
東藤がWOQTのメンバーに選ばれるのか。選ばれたとしても、スタメンか、ベンチスタートかはわからない。しかし彼女が持つパフォーマンスを最大限発揮できれば、現代野球において、もっとも注目を浴びている変化球のひとつ、大谷翔平の「スイーパー」のように、カウントを取る球としても(クリエイト)、あるいは決め球としても(フィニッシュ)、WOQTで対戦国を脅かす強力な「変化球」になるはずだ。
そして、もうひとつ。サッカーで「スイーパー」といえば、ディフェンスで使われる用語である。ディフェンスもまた東藤の持ち味のひとつ。
攻守に渡る東藤の “スイーパー” が、3大会連続となるオリンピック出場のカギになる。
文・写真 三上太