シューター軍団のなかの “変化球” として
インターネットの「精選版 日本国語大辞典」によると、変化球とは「《名》野球で、投手の投球が、打者の近くで曲がったり、急に落ちたり、また、投球ごとに球速が変わったりして、打者が打ちにくいボールをいう」と出ている。
2月8日からハンガリー・ショプロンで始まる「FIBA女子オリンピック世界最終予選(以下、WOQT)」に向けて強化合宿を始めた日本代表候補選手のひとり、東藤なな子は自らを「変化球」に例えた。
「シュート力は自分にも絶対に必要だなと思っているし、課題でもあると思っているけど、変化球みたいな感じじゃないですけど、自分が出たことによって、3ポイントシュートだけじゃなくて、ペイントエリアの中にアタックして(ディフェンスの)収縮が生まれるとか、相手からしたら『日本がちょっとリズムを変えてきたな』という感覚になるようなプレーができたらいいなと思っています」
女子日本代表を率いる恩塚亨ヘッドコーチは、WOQTに向けた選手選考のコンセプトを「走りきるシューター軍団」と言っている。強化合宿が始まった時点で大会までは1か月もない。強化のための時間はあまりに少ないと言えるが、そうであるならば、さまざまなことにトライするのではなく、日本の強みを最大限に発揮するため、振り切った考え方で戦い抜くことを決断したのである。ベテランの吉田亜沙美や、高校生の絈野夏海が招集されたのも、その観点からだと認めている。
20名からなる候補選手のなかで、東藤は、今シーズンのWリーグにおける3ポイントシュート成功率が31.15%で24位(2024年1月9日現在)。今回の日本代表候補20名だけを拾い上げて見ても9番目と、いわゆる「シューター」ではない。
一方で彼女は、出場した東京2020オリンピック以降、3ポイントシュートにも力を入れ始めている。それまでは苦手としていて、練習も積極的にしていなかったが、より高みを目指すためには3ポイントシュートが欠かせない。持ち味であるドライブを生かすためにも、また日本が世界で勝つためにも身につけるべきスキルだとして、スキル指導に定評のある鈴木良和・女子日本代表アシスタントコーチとともに、一から見直し始めたのである。
むろん簡単に身につくスキルではない。上達したかと思えば、スランプになり、それを脱したかと思ったら、ディフェンスに阻止され、調子を掴み損ねる。その繰り返し。シュートを、しかも長い距離のシュートを、安定して高い確率で維持することはそれほどまでに難しい。
そんななかにあって、恩塚ヘッドコーチがWOQTに向けては「走りきるシューター軍団」を標榜したわけだ。
「シュート力のある選手がいる中で、自分もシュート力をアピールしていかないといけないという思いはあります。でも、そのなかで自分だけにある持ち味はアジア競技大会でも通じたドライブや、フィニッシュにいききる力だと思っています。シュート力も見せていかなきゃいけないし、その持ち味も忘れずにアピールしていかなきゃいけないなって思っています」
以前取材したことのある高校バスケットのコーチがこんなことを言っていた。
「2ポイントシュートを狙うために3ポイントシュートを打っているし、3ポイントシュートを狙うために2ポイントシュートを打っているんです」