自身の追加招集が発表されたすぐ後には、山本麻衣(トヨタ自動車)も代表参加を辞退することになり、代表はポイントガード不足に陥った。5月の合宿も、そして今回の合宿も登録ではシューティングガードになっている川井だが、「1番のほうが自分の良さは出せる」と自覚し、実際に恩塚亨ヘッドコーチからは状況に応じてPGで起用することも伝えられている。初めて代表候補に入った4年前は「何かやらなきゃ」と気負ってしまった川井も、経験を重ねた今は「私が評価された部分をそのまま出すには、トヨタと同じでいいんだろうなって思ってます」と自分らしいガード像を体現していきたいという。5月の合宿参加時とは状況が異なるものの、「自分にできることをやって、チームに必要とされる選手になる」という意識は変わっていない。
「アシストが得意な中で、昨シーズンはシュートを狙っていくことがシーズンを通してできたので、それを代表でもやることがカギになるかなって思ってます。途中合流だからといって遠慮することなくやるということは少しずつできてると思いますし、それをつかめるかどうかは自分次第。誰というよりは自分と闘ってるので、自分に勝ちたいです」
自国開催のワールドカップでの男子日本代表の戦いぶりを、川井は「私はバスケットを見るのも好きで、やっぱり面白いなって思いましたね」と純粋に楽しんだそうだ。先に世界で結果を出している女子代表としては、主役の座を奪われるような危機感を覚えてもおかしくないのではないかと邪推してしまうが、どうやら彼女たちにはその意識は薄く、日本バスケット界の発展という観点からシンプルに嬉しい出来事と受け止めているようだ。川井もまた、バスケットの持つ魅力が広まることを歓迎している。
「別に男子に負けてられないという感じではないと思いますし、逆にみんな嬉しかったんじゃないかと思います。バスケットが知られて盛り上がって、こんなに良いスポーツなんだということをわかってもらえたのが私も嬉しかったですし、今すごく良い傾向にあるんじゃないかと思います。女子もあれくらい盛り上げていきたいなって思いますね」
自身も代表の一員として、「選手である以上は高みを目指して、もちろんパリ(オリンピック)にも出たいし、自分自身上手くなることを目指してます」と今後を見据えつつも、「1個ずつ階段を上っていくことで先につながっていくと思いますし、今置かれている状況で必要なことをやれる選手でありたい」とステップを踏む重要性を認識する。そのためにも、やはり「自分らしさ」は川井にとって大切なキーワードだ。
「東京オリンピックのときは合宿にも来られなかったんですけど、チャンスがあって今回こうして呼んでいただいたので、自分のカラーを出して貢献していきたいです。人と比べることもないし、違うことをやろうとしてももう何十年もこのスタイルでやってきて、いきなり何かを変えることはできない。やっぱり自分らしくやることかなと思います」
27歳の川井が「何十年」というのは大げさな表現かもしれないが、比較的サイズのあるポイントガードとして、そのプレースタイルはそれほど川井の心身に染み付いたものだ。シュートという武器も加わった今、川井は代表に必要な戦力となっていく。
文・写真 吉川哲彦