学生時代も含めると、実にさまざまな名将と呼ばれる人たちに師事してきた。だが、ホーバスヘッドコーチのバスケットは、これまでとはやや様相が異なる。
「考えることは増えましたよね。オフェンスの入り口はある程度の決まり事もありますけど、そこからは決まり事がなく、選手間のコミュニケーションというか、フィーリングで動かなきゃいけないんで、そういったところを考えながらプレーをしなければいけないんです。もちろん自分は感覚を大事にしているプレーヤーなので、それも大事にしつつ、考えることでもう一段階成長できるのかなとは思います」
ベテランと呼ばれる年齢になってもなお、成長を口にするのは、富永啓生をはじめ、生きのよい若者が同じポジションで大きく台頭してきたからでもある。馬場雄大や西田優大、金近廉がいて、チャイニーズ・タイペイ戦では原修太も結果を残した。同年代と言っていい須田侑太郎もいる。かつての日本のエースは、もはや代表入りすることさえ、安泰でなくなってきているわけだ。
「危機感はめちゃくちゃありますよ。1日1日がもう必死というか、最年長ってことになってはいますけど、ルーキーという気持ちで臨んでいます。今まではある意味で選ばれて当たり前みたいな立ち位置だったと思うんですけど、当落線上というか、誰が選ばれてもおかしくない状況というのは初めてなんで、めちゃくちゃ危機感はあります」
しかし過度に恐れることなく、強みである感覚的なプレーを状況に応じて繰り出し、それをチームの掲げるバスケットにフィットさせていく。低くない壁だが、乗り越えた先は世界が待っている。彼が渇望している世界のバスケットシーンである。
「単純に僕はバスケが大好きというか、世界に勝ちたいっていう思いだけで、B.LEAGUEを頑張れているし、人生をそれに捧げてきたっていう思いがあるんです。(八村)塁がいないのは痛いですけど、塁がいないからこそできるバスケもあると思うし、女子日本代表も東京2020オリンピックで(渡嘉敷)来夢ちゃんがいない中でも結果を出したので、全然モチベーションも下がらないし、むしろ塁がいないなかでも勝てるところを見せつけたいです」
待ちわびている世界に向けた原動力を聞くと、彼はそう返してきた。それは、これまで世界はおろか、アジアにも何度も跳ね返されてきたからこそのチャレンジだとも認める。
「心の中には(アジアや世界で負け続けてきたことが)もうずっとあるし、それで挑戦を自らやめれば一生後悔すると思うので、その後悔をしたくないっていう気持ちもあります」
瞬間的にではあるが、これまで飄々と日本を牽引してきた比江島の覚悟のようなものが垣間見られた。
かつては苦杯を飲まされたこともあるチャイニーズ・タイペイとの強化試合を連勝で終え、ポジション争いはさらに混とんとしてきたが、比江島のワールドカップに向けた思いはブレない。
「自分の良さは世界のことを知っていることです、もちろん、こういったアジアレベルではもう誰が活躍しても当たり前だと思っているし、でも世界になったら、自分のパフォーマンスも必要になってくるって自分を信じています。年齢的にも全盛期ですし、最終的に活躍できると思っているんで。成長し続けて、やるべきことを全部出し切って、頑張りたいですね」
文 三上太
写真提供:日本バスケットボール協会