「合宿が始まると、新しいチームを作ります。このメンバーで初めて集まって。いい練習もやった。けど、試合をしないとわからないんです」
チャイニーズ・タイペイを静岡・浜松に迎えた「バスケットボール男子日本代表国際強化試合2023」。その初戦を108-86で勝利した日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチは、記者会見の冒頭で、この試合の意義をそう話した。
練習でいくら良いプレーをしても、実戦でそれを出せなければ、成果とは言えない。特に今はワールドカップに向けたトライアウトの真っ只中。練習で評価を上げても、実戦で力を発揮できなければ、むしろ評価を下げることにもなりかねない。むろん実戦がすべてでもないのだけど。
すでに当確ではないかと思われる選手はいるが、そんな彼らでも確定ではない。当落線上にいる選手であればなおのこと、こうした強化試合の一つひとつも試金石になっていく。
「自分の出来ですか? うーん、悪くなかったって感じじゃないですか」
初戦を終え、比江島慎は自らの出来をそう振り返った。
出場時間は10分36秒。その間にあげた得点は2ポイントシュートが1本と3ポイントシュートが1本の計5点。
彼を知る人であれば、もう少し得点シーンを見たい。そう思う人は少なからずいたはずだ。それは本人も理解していること。そのうえで比江島は現状について、こう言っている。
「もちろん僕もどんどんシュート打たなきゃいけないとか、ポンポン打ちたい気持ちはあるんです。でも状況をしっかり見極めながら、ドライブが必要なときはドライブもしなきゃいけないし、カッティングの動きなども、もっともっと精度を上げていかないといけない。そういうことも意識しながら。しっかりと流れを見るという経緯はあると思っているんで」
福岡・百道中学から京都・洛南高校に進み、ウインターカップ3連覇の立役者になると、青山学院大学でもインカレを制するなど、学生バスケットの中心にいた。プロになってからも「ヒエジマステップ」と呼ばれる独特なリズムでゴールに迫り、日本一も経験している。NBAのサマーリーグに参戦したこともあるし、日本代表でも中心選手のひとりとして、今ほど注目されていない時期のチームを、飄々と牽引していた。トム・ホーバスヘッドコーチからも「あなたの経験が欲しい」と伝えられたと言う。
気づけば32歳。今回の男子日本代表では最年長である。聞き慣れない言葉だと苦笑しながら、それでも後輩たちにいじられているんでしょう? という記者の問いかけに、
「あ、はい……僕はね、そっちの方が居心地がいいし、僕なりの最年長のやり方でいいとは思ってはいるんで……無理にじゃないですけど、しっかりしなきゃいけないとか、もちろん意識しながらですけど、あんまり意識しすぎないようには……いい意味でも悪い意味でも」
この歯切れの悪さ、表現の拙さみたいなものが、彼の魅力のひとつでもある。