4連覇を達成した今大会のアメリカにおいて、最も印象的だったのはキャプテンを務めたブリアナ・スチュワートである。
もともとオールラウンドにプレーできる選手だが、今大会はゲームの “裏方” に回るシーンも数多くあった。
リバウンドに飛び込み、ルーズボールを追い、WNBAで見せるよりも献身的にプレーをしていたのである。
「(ワールドカップに出場してくる選手は)みんなが最高のショットを決められることを知っているだけです。彼女たちにとって、私たちがWNBAのシーズンを終えるかどうかは、誰も気にしません。彼女たちはまだ私たちを打ち負かしたいと考えており、実際に私たちは何人かのプレーヤーが遅れて現れた事実があります。それでも私たちはすぐにチームケミストリーを構築することができ、素晴らしいグループになりました。だから、みんなここにいたいし、ここで学びたいし、勝ちたいと思っているのです」
こちらの事情に関係なく向かってくる相手がいて、合流が遅れてくるチームメイトがいる。
その事実を受け入れたうえで、素早くチームケミストリーを構築しようと思えば、そうした“裏方”の仕事が欠かせないことを彼女は知っているのだろう。
それはスチュワート自身が、今シーズンで現役を退いたスー・バードや、アメリカ代表から身を引いたダイアナ・タウラジといったアメリカのレジェンドたちから学んできたことでもある。
「私がスーとディー(=タウラジ)から学んだのは、試合に勝つ方法と、それをさまざまな方法で行うことでした」
勝ち方はけっしてひとつではない。
勝つために必要なことも、自然、ひとつではなくなる。
表も裏もない。
リバウンドも、ルーズボールも、ペイントエリアを攻めてくるビッグマンに体をぶつけることさえも、彼女にとってはすべてが勝つために必要なプレーだというわけである。
アメリカの強さは、そのようにして継承されていくのだろう。
一足先にアメリカ代表を去ったバードとタウラジ。
今大会を最後にオーストラリア代表を去るジャクソン。
彼女たちが、その上の世代から引き継いできた勝利に必要なものは、スチュワートら今の世界を席巻する選手たちに受け渡され、それをまた次の世代、そのまた次の世代へとつないでいく。
グループフェイズの最終日、スーパードームの前に設置されたファンゾーンでは、オーストラリア代表のサマンサ・ウィットコムとマリアンナ・トロが参加して、女の子たちと “ワールドカップ” を囲む撮影イベントがおこなわれていた。
それも次世代にバスケットボールをつなげる重要なシーンである。
女の子たちがおそろいで着ていたTシャツにはこうプリントしてあった。
「I AM A GIRL I CAN DO ANYTHING.」
私は何だってできる女の子よ。
ワールドカップ2022は閉幕したが、ここから広がっていく世界もある。
G’Day Straya(グッダイ ストラーヤ:こんにちは、オーストラリア)!!
オーストラリアなまりの英語で題したワールドカップレポートもここで閉じようと思う。
メディアホテルに持ち帰ってきた、ディビットがふるまってくれたビールもきれいに飲み干したことだし。
FIBA女子ワールドカップ2022「G’Day Straya!!」
9日目 簡単に手に入れられないものにこそ、目指す価値はある。
10日目 今をつなげて広がっていく世界へ
文 三上太
写真 FIBA.com、三上太