最後の記者会見が終わると、メディアワーキングルームの責任者であるディビット・カルバートが声をあげた。
「ビールを用意したぞ。さぁ、飲んでくれ!」
取材を終えた記者やカメラマンが、カートに詰め込まれた氷の山から瓶ビールを抜き取り、キャップを捻り開けている。
9月21日から始まった女子バスケットのワールドカップも最終日を迎えた。
結論を書こう。
アメリカの4連覇である。
中国も善戦したが、後半に突き放されてしまった。
3位は地元のオーストラリア。
序盤こそいい形で入ったカナダは、しかし「LJショー」に手も足も出なくなってしまう。
LJ ── 本稿で何度か出てきたローレン・ジャクソンである。
今大会に向けて代表復帰を果たした41歳のレジェンドは、8試合目となる3位決定戦で30得点を挙げた。
それまでの7試合で積み上げた得点は43点。
つまり1試合平均で6.1点しか取れていなかった選手が、メダルのかかった大一番で全盛期さながらのプレーを見せたのである。
しかも最後の最後で彼女はプレースタイルを一変させた。
それまではピック&ポップが彼女の主な動きだったのだが、きょうはピックをかければダイブをし、ローポストでのポストアップもいとわなかった。
オーストラリアのヘッドコーチ、サンディ・ブランデロはそれがチームの戦術だったと認める。
「彼女は最高のシューターの一人です。しかし、私たちは彼女にペイントエリアのなかにダイブをするように求めました。今夜はそれが私たちにとって有利だと思ったので、そのプレーを実行したかったのです」
それまでとは異なる、しかも身体的により負担のかかるプレーを求められて、それを平然とやってのけてしまうあたり、やはり彼女はレジェンドの名に相応しい。
ジャクソン本人もこう言っている。
「私たちは試合の序盤からアウトサイドのシュートチャンスを逃していたので、私がインサイドで存在感を示し、みんなにフィジカルなプレーをするようにしたかったんです。トーナメントの最後に3ポイントシュートに頼ることはできないからです」
チームの戦術ではあったけれども、数多くのトーナメントを戦い抜いた彼女だから遂行できたプレーだともいえる。
今大会をオーストラリア代表として、本当の最後にする。
大会中にそう語っていた “LJ” にとって、地元開催のワールドカップは最高の ”ラストダンス” になったわけである。
ファイナルは今大会最多、15895人の観客を集めた。
隣に座っていた某専門サイトのライターが「このうち1万人くらいは中国人じゃないですか」と言っていたが、あながちそれも大げさではないように思える。
序盤から「U.S.A.!」コールと「加油(ジア・ユー:頑張れ)!」コールが乱れ響くのだが、明らかに「加油!」コールのほうが大きい。
その声援に後押しされた中国は序盤から粘り強く戦い続けた。
しかし後半に入ると、中国の勢いが少しずつ失速し始める。
気を見るに敏。
アメリカはリードを20点近くに広げると、あとは悠々とゲームをコントロールしていく。
残り5分、アメリカは主力メンバーをベンチに戻していく。
まだ安心してはいけないんじゃないか。
そう思ってしまうのは、アメリカという国をよくわかっていないからだろう。
替わって出てきたのもアメリカを代表する選手たち。
力が大きく劣るわけではない。
20点差をキープする力は十分に持っている。
あるいは突き放す力もあるのだが、この日はこのまま試合終了。
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