メディアホテルと呼ばれるホテルに泊まっている。
といっても世界のメディアがすべて泊まっているわけではない。
むしろ、律儀な日本人メディアが6名と、アメリカ、フランス、セルビアのメディアがそれぞれ1人か、2人くらいしか泊まっていない。
アリーナまでの無料シャトルバスが出るというからそのホテルにしたのだが、そのシャトルバスも1日に最大で2本だけ。
ホテル代は通常料金である。
朝食はついている。
といっても、その分がホテルの料金に上乗せされているだけで、料理の内容は毎日同じ。
ビュッフェ形式のそれは、主食が食パン、マフィン、パンケーキにシリアルが置かれ、スクランブルエッグとソーセージ、ベーコン、ベイクドビーンズ。
フルーツとヨーグルトはあるが、野菜はない。
あとは3種類のジュースと、カフェ文化が根付くオーストラリアならではのコーヒー各種である。
それくらいあれば十分だと思われるかもしれないが、それがまったくそのまま何日も続くのだから、さすがに飽きてくる。
そんな代わり映えしない朝食に刺激が加わったのは10日目、つまり9月30日の朝だった。
同室のカメラマンが朝方まで仕事をしていたため、一人で食事をしていると、見知らぬ男性から声をかけられた。
「キミはバスケット関係者かい?」
そうだよ、と答えると、中国人か、と聞いてくる。
そうではない、日本人ですと答えると、少しホッとしたような表情になり、
「それはよかった。実は私の娘はオーストラリア代表なんだ」
と言ってきた。
この日の夜、オーストラリアは中国と対戦する。
Who? 誰だと聞くと
「サラ・ブリッツァブスだ」
彼女は大会中に負傷したエースのベック・アレンに代わって、グループフェイズの4戦目からスタメン出場を果たしている29歳のパワーフォワードである。
チームメイトのケガを喜んでいるわけではないが、娘がそうしてゲームに出て、そしてセミファイナルに進んだことを父親は「I’m happy!」と言っている。
同じ娘を持つ親として、その気持ちがわからなくもない。
そのブリッツァブスのオーストラリアは、しかし、中国に敗れた。
<59-61>
あまり大げさな表現は使いたくないが、それでも「死闘」と言っていいほど、終始白熱したゲームだった。
場所はオーストラリア・シドニー。
にもかかわらず、応援の声量は五分五分、いや、むしろ中国のほうが多かったのは、シドニースーパードームが建つオリンピックパーク界隈には中国人が多いからだろう。
NHKに映像を配信している現地スタッフがそれを教えてくれた。
オージーたちに負けない応援の力が、残り3秒で中国のワン・スーユーのフリースローを2本とも沈めさせ、最後の攻撃にかけたオーストラリアのドライブを外させたのかもしれない。