そのメッセマンを、ベルギーというチームにとっての「“世界” を意味する」と言ったのは、彼女に代わってスタメン出場をしたベッキー・マッセイである。
同じくロスター入りしているビリー・マッセイとは双子の姉妹。
22歳と、まだ若い。
「やはりいつもとは違います。エマは、他のプレーヤーがオープンショットを打つために多くのディフェンスを連れて行くことができます。今回はそれを私たちで作らなければなりませんでした。彼女はゲームを別の方法で見ています。そうした特別な経験をしているのです。それは私たち若い選手にはない経験です。でもエマはトーナメント全体を通して、私たちがより良くできることを教えてくれましたし、(メッセマンがいるときとは)異なる方法を探すのを助けてくれました。コートにいようがいまいが、エマは私たちにとって常に大きな助けになるんです」
ケガをしたベテランは目の前の状況を受け入れ、代わりに出た若い選手はその偉大さを痛感しながらも、必死に戦い続けた。
結果は思い描いたものにはならなかったが、マッセイだけでなく、ベルギーというチームにとっても、オーストラリアとのクォーターファイナルは貴重な財産になったに違いない。
マッセイはこうも言っている。
「私たちは非常に若いチームであり、今回の負けは始まりだと思います。私たちはやるべきことがまだあるんです」
彼女もまた、ノギッチと同じようにすっきりした表情をしていた。
22歳の自分にできうるすべてを出せたからだろう。
そうやってまた彼女たちの世界は広がっていくわけだ。
ベルギーを破ったオーストラリアは明日、中国と対戦する。
その中国がワールドカップ ── 厳密にいえば、当時は世界選手権 ── で最後にセミファイナルを戦った相手が、ほかならぬオーストラリアだった。
そのときはオーストラリアが<65-66>で敗れている。
地元のファンの前で開催国が敗れているのである。
同じ轍は踏みたくない。
今大会の中国は安定した強さを見せていて、なおかつ勢いにも乗っている。
しかしオーストラリアにとっての追い風もある。
ベルギーにメッセマンがいたように、オーストラリアにはローレン・ジャクソンがいる。
現時点で、彼女がケガをしたという情報はない。
それどころか、クォーターファイナルでは12得点を挙げている。
ジャクソンにとっては今大会初の二けた得点である。
老獪なベテランが大一番を前に目を覚まそうとしているわけだ。
老いも若きも、ワールドカップという荒野を、駆け巡っている。
FIBA女子ワールドカップ2022「G’Day Straya!!」
6日目 はじまりはいつも雨
8日目 老いも若きも世界を駆け巡る
9日目 簡単に手に入れられないものにこそ、目指す価値はある。
文 三上太
写真 FIBA.com