もうひとり。
渡嘉敷来夢はこの日、4得点に終わった。
個人ファウルも4つまで積み上げて。
彼女に寄せられている期待と、それらの数字だけを見れば、けっして満足いくものではない。
しかし、どこかにフラストレーションを溜めながら、彼女自身は笑顔を保ち、冷静であろうとしていた。
特に「あれはいいプレーでしたよね」と自賛する赤穂ひまわりへのアシストは、彼女が冷静であることを裏付けるものだった。
第4クウォーターの立ち上がり、バックダウンでディフェンスを押し込みながら、逆サイドからカットしてきた赤穂のレイアップを導いたバウンズパスである。
かつての渡嘉敷であれば、思うように動けないフラストレーションから、あるいはそれを見落としていたかもしれない。
しかし今は違う。
恩塚ヘッドコーチの考えるバスケットには慣れていない部分も多いが、そのなかで自分のできることの幅を広げようとしている。
思いどおりにいかないワールドクラスの戦いを「楽しい」と言い、こう続けている。
「あとは、もうちょっと動きの中でボールが欲しいんですよね。シールして構えて、パスを受けて、シュートではなく、動きながらのプレー。そこは自分が動けばいいのかなとか思っているんですけど……」
自分に流れがないなかでも “恩塚バスケット” をこれまでの自分にはない「新しいバスケット」として捉えているところに、31歳になった彼女の伸び代を感じ、やはりワクワクしてしまうのだ。
むろんワールドカップは日本だけのものではない。
日本戦を軸にしながらも、できるだけ多くの試合に触れ、そのなかでのワクワクを少しでもお届けしたい。
韓国を圧倒した中国の成長ぶりにもワクワクしたし、この日のラストゲームとなったオーストラリアとフランスのゲームでは、ローレン・ジャクソンがコートに現われただけでワクワクした。
彼女は9年前に慢性的な膝のケガで代表を退いた、オーストラリアのレジェンドである。
ワールドカップへの参戦は12年ぶりとなる。
結果としてはフランスに57-70で敗れるのだが、12年ぶりに見た彼女はディフェンスで、いくつかの老獪さを見せてくれた。
第2クウォーターに3ポイントシュートを決めて、ワールドカップでの通算得点を歴代3位の600点に乗せたことも付け加えておきたい。
一方のフランスは、エースガードのマリアナ・ジョハネスが大会直前にケガで不出場を決めると、センターのサンドリン・グルーダも欠いていたため、今大会はどうなるのかと思っていた。
しかしこの日はガビ・ウィリアムズが止まらなかった。
これまであまり注目していなかったのだが、彼女もまたフランスを代表する選手であり、さらに成長も続けているのだろう。
おもしろい。
やはりワールドカップはおもしろい。
世界はワクワクで溢れている。
FIBA女子ワールドカップ2022「G’Day Straya!!」
1日目 世界はワクワクで溢れている!
2日目 動き出した若者たちの未来(ワールドカップ)
文 三上太
写真 FIBA.com