とはいえ、高校とナショナルチームのレベルを一緒にするわけにはいかない。
ましてや若手中心とはいえ、相手はアジアの強豪イランである。
ディフェンスにしても圧倒的な差を見せつけられるはずはない。
むしろサイズのない河村や富樫勇樹にはミスマッチでポストアップしてやろう。
それくらいしたたかに考えていただろうし、実際にそんなプレーも随所にしていた。
しかしそのミスマッチが、自分たちのオフェンスで仇になるとは想像していなかったのではないか。
結果的にGAME2で河村は3つのスティールをしている。
特に、もうひとつ波に乗り切れなかった第1Qの残り2分6秒、彼のスティールから馬場雄大のダンクシュートを引き出したシーンは、このゲームのハイライトのひとつと言っていい。
「高校の頃はディフェンスもやっていたんですけど、やはりオフェンス面での負担がすごく大きくて、得点面も含めて全部やらないといけないなっていう感覚はあったんです。でも今の僕の大きな役割は、まずフルコートでディフェンスをして、スティールができればしますし、相手のカードがうまくエントリーできないように少しでもプレッシャーをかけることだと思っているので、高校の頃との違いがあるとすれば1対1のフルコートでのディフェンスだったり、相手がローポストでのミスマッチをついてくるときのコンタクトを嫌がらずに戦う部分かなと思います」
少なくとも今大会は富樫のバックアップとして、まずはディフェンスで相手にプレッシャーをかけてやろう。
常にスティールを狙いながら、しかしそれをかわされても、すぐに戻れるさまざまな準備をし、相手の攻撃を停滞させてやろう。
そこにフォーカスできたことが3年前とは大きく違うところなのである。
むろん、それでよしとするホーバスヘッドコーチでもない。
河村のディフェンス、特に「オンボールプレッシャーは特別」と認めつつ、しかし一方でホーバスヘッドコーチの頭のなかではそれが当たり前になりつつある。
だからこそ、河村は試合中にホーバスヘッドコーチからの注意も受けた。
冒頭のコメントで示した「怒られた」とは、河村自身が3ポイントシュートを打てるチャンスがあるにもかかわらず、リングを見ずに、パスに終始したことにあった。
ホーバスヘッドコーチとしては、それでは町田瑠唯と同じではないか、と言うわけである。
その町田はご存知の通り、東京2020オリンピックで1試合でのアシスト記録を作り、WNBAへの門扉を開いた。
しかし、同じ手は、ましてや男子では通用しない。
そのことを河村自身もわかっている。
だからこそ、第4Qの残り1分17秒で3ポイントシュートをきっちりと沈めてみせたのだ。
小さいヤツは世界のバスケットでは通用しない。
そんな悪しき、そして古くさい思い込みを打破すべく、172センチの河村は相手の死角からボールを狙い続けている。
文 三上太
写真 日本バスケットボール協会