久々に生で見た河村勇輝はまったく変わっていなかった。
『走らんか! 福岡第一高校男子バスケットボール部の流儀』(井手口孝著 竹書房)の取材を始めたときはちょうど彼が同校を卒業していたばかりで、直接的な関わりはない。
しかし彼が ── より厳密に書けば、彼らが ── 夏・冬2冠を達成してから、3年が経とうとしている。
東海大学を中退し、今では横浜ビー・コルセアーズに所属するプロ選手である。
気軽に「勇輝」などと呼んだことはないのだが、こちらには同郷としての馴染みがある。
たとえて言うならば、甲子園に出てくる出身県の高校を、母校でもないのに応援してしまうのと似ているかもしれない。
彼は映像系の取材を終えると、「よろしくお願いします」とペン記者の前に立った。
その謙虚な姿勢にすでに心が浮き立ってくる。
「僕の役割であるゲームの流れを変えることであったり、ハードなディフェンスをして、ペイントアタックをして、ゲームをコントロールするっていうところに関しては、できた部分はあると思います。でも(第3Qの終盤)トム(・ホーバスヘッドコーチ)さんにも怒られたように、シュートの部分であったり、いろんな課題はまだまだあるので、これに満足せず、今後またウィンドウ4であったり、ワールドカップに向けても、自分がメンバーに入れるかどうかはまだわからないですけど、毎日毎日、日々成長しながら、そういった場所に行けるように頑張りたいなと思っています」
SoftBankカップ2022で男子日本代表が男子イラン代表に連勝を飾って以来、ネット等で河村の記事は散見された。
それでも彼に話を聞こうと思ったのには訳がある。
冒頭にも書いたとおり、彼が変わっていなかったからだ。
いや、変わっていなかったように見えるだけで、どこか変わったところがあるのかもしれない。
いや、あるはずだ。
それを聞き出したかった。
河村は、自分らしくプレーできている要因について、ホーバスヘッドコーチのバスケットが自分に合っているからだ、と言った。
「ただ僕が意識してやっているというよりは、自分のプレースタイルであったり、自分の強みを発揮することがトムさんの戦術に合うっていうのが一番だと思うので、本当にトムさんと一緒にバスケットできてることがすごく嬉しいことですし、やりやすさを感じているので、思う存分自分の強みを発揮するだけだなと思っています」
ディフェンスではフルコートでプレッシャーをかけ、オフェンスではアナリティックバスケット ── 簡単に書けば「期待値の高い」シュートを、その優先度に沿って選択していくバスケット ── の起点になっていく。
考えてみると、それは彼が福岡第一時代にやっていたバスケットに似ていなくもない。
いや、オフェンスは異なるのだが、少なくともディフェンスではコートを所狭しと動き回り、相手にプレッシャーをかけ、気付くとボールは福岡第一の手中にある。
相手によっては嫌だったろう。
さぁ、楽しいオフェンスだと振り返った途端、いきなり足下に彼らがいるのだから。
イランのポイントガードもそうだったに違いない。