一方で、ストレッチ4の金脈を探り当てたホーバスヘッドコーチは、オフェンスだけが彼を起用した理由ではないと言う。
「やっぱりアジアカップの経験が大きかったね。彼は本当にレベルアップをした。ディフェンスもオフェンスも。アジアカップに行く前、彼はディフェンスの足が動かなかったし、手も全然使えていなかったんです。でも今日(GAME1)はスイッチングディフェンスで相手の一番上手の選手(イラン#13 モハメッド・ジャムシディ)に何回も素晴らしいディフェンスあって、本当に良くなったかなと。彼のデベロップメントが本当に凄かったんです。アジアカップの経験あったから今回もすごい自信があるんですよ。彼がもう絶対に使える。ディフェンスも、リバウンドも行けるからね」
もはや絶賛である。
「今までワールドカップ予選のWindow2まで、ストレッチ4があまりいなかったんです。私たちのオフェンスではストレッチ4、ストレッチ5が大きな意味を持つんですね。彼は絶対にストレッチ4じゃないですか……3ポイントシュートも入るし、すごく大きい存在かなと思います。自分の役割も十分わかっているし、周りの選手たちの役割もわかっているから、もう私ね、本当に、英語で言うと『comfortable』です。彼が出るときに全然心配しないんです。逆に自信があるほどです。彼のことを尊敬しますよ」
ホーバスヘッドコーチを快適にさせた33分43秒だったというわけだ。
もちろんその絶賛に胡座をかいたら、即座に奈落の底行きだろう。
しかし本人は冒頭にも記したとおり、胡座をかくほどの余裕を持ち合わせていない。
出場時間が最多だったことさえ、試合後のスタッツでプレータイムを知り、「そういうふうに自分が期待されているってことがあるんだなって思いましたけど、その期待にすべて応えられているわけじゃないんで、そこはちょっと悔しいなとも感じています」と満足しない姿勢を示している。
ディフェンスも、ホーバスヘッドコーチが指摘する「足が動いていない、手が使えていない」というより、本人としては「気持ちの問題だった」と認める。
そうした素直さは高校生の頃と変わらない。
「でも(アジアカップのときに)ディフェンスの悪さを指摘されて、やっぱりできないんだと思ったからこそ、今回は3ポイントシュートを打つことも仕事だったと思うんですけど、どちらかというと『自分はディフェンスができない』っていうイメージがあったので、その悪いイメージを何とか払拭しようと思ってディフェンスを頑張ったんで……やっぱり気持ちの問題ですね」
指摘されたのは事実だが、言われたからやるというよりも、彼は自分を高みに引き上げるためにディフェンスで気持ちを出さなければいけないと、自ら気付いたのだろう。
だからこそ、ホーバスヘッドコーチが驚くほどの短期間で、彼が求めるレベルまでディフェンスを引き上げることができたのである。
しかし、繰り返すが、まだ胡座をかける状態ではない。
いや、たぶん現役を終えるまで、彼がそうすることもないだろう。
「トムさんがいつも言っているでんすけど、代表チームに決まっている選手はいないって……もちろん何人かはいると思うんですけど、自分がそのなかに入っていると思っていなくて、今でもずっとトライアウトだと思っています。今日の試合前もこれだけのプレータイムをもらえるなんて全然思ってなかったですし、ましてやスタメンで出るとも思っていませんでした。その点では与えられたチャンスを一つひとつ全力で頑張っていくことが大事かなと思っています」
地道に、一つひとつ、コツコツと ──
自らのキャリアを積み上げていった上に、自身初のワールドカップ出場という光も見えてくる。
文 三上太
写真 日本バスケットボール協会