相手が繰り出すさまざまな状況に、素早く、的確な対応をしていく。
恩塚亨ヘッドコーチと女子日本代表の目指す「カウンターバスケット」である。
相手ディフェンスが収縮すればキックアウトから3ポイントシュートを放ち、クローズアウトに出てくればドライブで抜いていく。
文章にすれば、たったそれだけのことのように思うかもしれないが、人間の体はそう簡単には反応しないものらしい。
いや、あるいはそれだけだったら、判断・実行も容易にできるのかもしれない。
しかし収縮させるまでにはいくつもの動きの組み合わせがあり、3ポイントシュートを打つ選手がノーマークになるためにも、いくつもの動きが絡み合っている。
ディフェンスがどう対応するかも、事前にはわからない。
ドライブにしても、そのままレイアップシュートへ、というのであれば、どれだけ楽だろう。
実際には抜かれたはずのディフェンスも追いかけてくるだろうし、ヘルプディフェンスだって待ち構えている。
その後ろではローテーションも始まっている。
そんなカオス(混沌)のなかで、スペースを作ったり、それを見つけて飛び込んだり、離れてみたり。
その場に止まることもまた、よい状況判断だったりする。
ここまで書いてようやく、「カウンターバスケットは簡単じゃないのだ」と認識されるのかもしれない。
こんな書き出しで始めたのは、彼女がワールドカップ前の国内最後の国際大会となった「三井不動産カップ2022・宮城大会」までメンバーに残った要因に触れた気がしたからである。
彼女とは朝比奈あずさのこと。
その朝比奈が12日におこなわれたGAME2の第2クウォーター残り3秒、渡嘉敷来夢の1対1に合わせて、得点を決めている。
この場面を振り返ってみたい。
前日のGAME1で渡嘉敷が最初に決めたシュートの再現のように、スタガースクリーンから、2枚目のスクリーナーだった渡嘉敷に対して、1枚目の朝比奈が反転、スクリーンをかける。
前日よりやや低い位置でパスを受けた渡嘉敷が1対1を始めた瞬間、朝比奈は「スペースを取ろうとした」と、渡嘉敷から離れるような動きをした。
渡嘉敷の1対1を成功させようと考えれば、賢明な判断と言えよう。
チームが掲げる「カウンターバスケット」を理解している証拠でもある。
しかし、前日の1対1が記憶に残っていたのか、朝比奈を守っていたラトビアのディフェンスが渡嘉敷のほうへスッと寄っていく。
それを見た朝比奈は、渡嘉敷から遠ざかる動きをキャンセルし、素早くゴールに向かって走り込む。
その絶妙なタイミングに、渡嘉敷も冷静にディフェンスの頭の上からパスを出す。
パスを受けた朝比奈はゴール左側からシュートを決めるだけだった。
「日本代表の試合で自分が点数を決められることは、たった2点かもしれないけど自分にとって大きい価値があると思います。でももっと点数にも絡めるような選手になりたいと思っているので、自信にもなるけど、これからもっと成長したいなって思っています」
現在、筑波大学の1年生。18歳。
ほんの5ヶ月前までは高校生である(といっても、あの桜花学園のキャプテンで、エースだったのだが)。
本人もまさかここまで残るとは思っていなかったと言う。
それでも今年度の女子日本代表候補として5月のオーストラリア遠征、6月の千葉大会(トルコ戦)、そして今回の宮城大会(ラトビア戦)まで名を連ねられたのは、センターというポジションも関係しているかもしれない。
今はまだ髙田真希と渡嘉敷がいるが、次世代のセンターはまだ判然としない。
ならばと、自他ともに認める「合わせ」のうまさで未来を切り拓いてほしい、そのきっかけにしてほしいという思いが恩塚ヘッドコーチのなかにあったのだろう。