「もう、ぜひあれをやってほしいなと思っていて、試合前から託していました」
女子日本代表のヘッドコーチ、恩塚亨が望んでいたプレーから、彼女の、2月13日以来となる代表戦は始まった。
女子ラトビア代表を迎えた「三井不動産カップ2022・宮城大会」のGAME1。
ベンチスタートの渡嘉敷来夢は、コートに入った最初のオフェンスでいきなりシュートをねじ込んだ。
立ち上がりから安間志織のドライブ、髙田真希のジャンプシュートなどで日本がリードを奪うが、ラトビアも3ポイントシュートで応戦。
逆転を許したところで、日本は “戦略的総取っ替え” をおこなう。渡嘉敷コートイン。
直後のディフェンスでは3ポイントシュートを決められるが、次のオフェンスで渡嘉敷が見せる。
平下愛佳への2枚目のスクリーナーとなった直後に宮澤夕貴のスクリーンを受け、右ウイングへ。
宮崎早織からパスを受けると、いったんボールを高く上げたあと、スイングしてからミドルライン方向へのドライブ。
相手のヘルプディフェンスも両手を上げて待ち構えていたが、渡嘉敷はやや体勢を崩しながら、強引にシュートを決めている。
しかし、その強引さ、より渡嘉敷に見合う言葉で言えば、 “野性味のある1対1” が、渡嘉敷不在の日本にはなかった攻撃パターンだった。
「ボールを持ったら積極的にリングにアタックしようとは思っていました。特に(今日のように)3ポイントが入らない時間帯が続いたときに、ディフェンスから走るバスケットもそうなんですけど、少しでもペイントでアタックしたり、ファウルでフリースローに繋げられたらいいなと思いながらプレーしました」
積極的な姿勢は、しかし、状況に応じたものだけではない。
世界という舞台もまた彼女を奮い立たせる。
「Wリーグだとあまり1対1で攻める機会がないので、1対1だったら積極的に攻めたいとは思っていたので、いつもはできない事ができて楽しかったなっていうのは感じています」
国内リーグに止まらないスケール感こそが、若い頃から「100年に一人の逸材」、「日本の至宝」などと言われてきた要因である。
身長193センチで、アスレティック能力も頭抜けて高い。
その成長過程は今さら言うまでもないが、一方でそんな渡嘉敷もすでに31歳となった。
自らも認めるとおり、ベテランの域である。
しかし昨夏の東京2020オリンピックは、その数ヶ月前に右ヒザ前十字靱帯を断裂したことで最終ロスターに残れず、史上初の銀メダル獲得に関わることができなかった。
その間に日本の女子バスケット界の顔は町田瑠唯になり、髙田真希になり、馬瓜エブリンに取って代わられた。
もし渡嘉敷が東京2020オリンピックにいたら、と思う一方で、彼女がいなかったからこそ、トム・ホーバス(現・男子日本代表ヘッドコーチ)が掲げた「スモールバスケット」は成立したのではないか、とさえ思える。
何が正解かはわからない。
正解なんてないのかもしれない。