ここでも吉田は底辺からの再出発を意識している。今の自分はチームを引っ張っていた時期の自分ではない。2年のあいだに日本のバスケットも変わったし、当時のチームメイトたちもそれぞれレベルアップをしている。まずは自分が彼女たちと同じスタートラインに立つところから始めなければならない。そう吉田は考えているわけである。
それはゲーム前の彼女の行動からも見て取れた。格下ともいえるインドが相手だったが、吉田は準備を怠らなかった。所属チームであるJX-ENEOSサンフラワーズでおこなっているルーティンと同じものを日本代表でもおこない、国際大会だけれども必要以上に気負わず、いつもの吉田亜沙美であろうとした。
「Wリーグの試合前のルーティンと同じ感覚でやりました。そこを崩して、日本代表だからこれをやるというのではなく、いつものパターンのほうが自分のプレーができるので、そこはいつもどおりを意識してやっていました」
入念なストレッチ、ボールハンドリング、ランニングをおこない、最後はゴール下から徐々に距離を取っていくシューティングへ。その「いつもどおり」こそが11アシストを生み、体力的に苦しいときの得点に結びつけた。
復活の狼煙である。
ホーバスも「よく(周りが)見えているし、6か月何もしていない割にはよく動けているね。2年前よりディフェンスもよくなったんじゃない? ヒザの調子がいいんだろうね」と絶賛している。
しかし本当の戦いはこれからだ。明日16日はチャイニーズ・タイペイと、そして17日にはオーストラリアと対戦する。オーストラリアもまたアジアカップからメンバーを入れ替えた。アジアカップのときにはWNBAのプレーオフに参戦しているため出られなかった203センチのビッグマン、エリザベス・キャンベージと、ベテランのマリアンナ・トロ(196センチ)を招集した。2人のビッグマンが加わったことは間違いなく結果をつかみに来た布陣であり、日本にとっては脅威である。それをどのように崩していくか ── 。
ベンチで戦況を見守りながら、大事なポイントでコートに立ち、勝利につながる流れを生み出す吉田亜沙美。彼女の真の復活はそこにある。
文・写真 三上太