── 昔からそういう考え方を持っていたのですか?
いや、昔からじゃない。JX-ENEOSサンフラワーズのヘッドコーチになってからかな。でもずっとそのことを考えているよ。たとえばオフェンス。これはJX-ENEOSだけじゃなく、日本の女子バスケット全体に言えることなんだけど、日本の女子はパスが弱い。だから合宿でも毎日パス練習をやっているよ。選手たちが当たり前にできていると思っていることが、実は当たり前にできていないからね。僕の目標は「世界で一番いいパッシングをするチーム」になること。オリンピックでメダルを獲って、相手チームのヘッドコーチから「日本のパッシングはすごい!」という言葉を聞きたい。
── いいパスとは、強いパスということ?
そう。でもそれだけじゃない。たとえば、いいドライブをしても、正確性に欠けたパスを出したらシュートが打てないでしょう? そこでもコネクションが大事。さっきの話はオフェンス、ディフェンス、リバウンドといったコネクションだったけど、オフェンスのなかにも小さなコネクションがたくさんある。いいドライブをして、いいパスをもらえれば、シュートの確率も高くなる。だから僕は今、パスの練習をしているんだ。もちろんみんなができていないわけじゃない。吉田(亜沙美)のパスはいいし、藤岡(麻菜美)もいい。いいパッサーはいるよ。でもまだ足りない。もっと強くなりたいから。
── 加えて、ホーバスHCはよく「頭を使いなさい」と言っています。それはどういうことですか?
形だけやっている選手はいらないよ。頭を使っていない選手は、ディフェンスをちゃんと見ていない。「どうしてディフェンスを見ていないの?」。そう指摘するのは当たり前だよ。形だけをやるんだったら、誰でもできるよ。
── 日本には上手な選手がたくさんいますが、まだまだ形だけの選手が多いと?
そう。日本代表の選手がそれではダメ。足りない。日本の目標はオリンピックでメダルを獲ることでしょう? 実際、みんなが「メダルを獲りたい」って言うけど、そんなに簡単ことじゃないよ。難しいよ。8位からメダルへ。その差は大きいよ。どうやったら8位からメダル圏内まで行ける? だから足りない部分は、当たり前だけど、僕は言うよ。僕が見て、足りないと思ったら、変えたほうがいいじゃない? うまくなったほうがいいでしょう? それが僕の仕事です。
練習中、常に厳しい姿勢を崩さないホーバスHC。細かいところまで目を光らせ、鋭く指摘していく。それはすべて女子日本代表のヘッドコーチとして、チームを東京オリンピックでメダル獲得に導くためである。普段は穏やかな笑顔をたたえるホーバスHCだが、その目の奥には、常に勝負師としての矜持が横たわっている。
文・写真 三上太