11月30日、12月3日に富山市総合体育館で行われたFIBAバスケットボールワールドカップ2019アジア地区2次予選(Window5)において、日本はカタールを85-47、カザフスタンを86-70で下しグループFの3位に浮上した。振り返れば1次予選で4連敗を喫し、文字通り「後がない」状況からの6連勝。チャイニーズタイペイに69-70で敗れた2月の“どん底„を思い出すと、よくぞここまで…の感は強い。
もちろんこの快進撃の裏には帰化したニック・ファジーカス、NBAメンフィス・グリズリーズと2way契約を結んだ渡邊雄太、ゴンザガ大で目覚ましい活躍を見せる八村塁の存在があったことは否めないだろう。1戦目に58-82で敗れたオーストラリアを79-78で下し、チャイニーズタイペイを108-68で撃破したとき、SNSには「ニッポン強し!」「史上最強の男子代表」といった文字が躍った。さらに続く2次予選でカザフスタンを破り(85-70)、イランを70-56で一蹴したとなれば「ニッポン強し!」の声が一段と高まったのも当然かもしれない。
だが、この時点で日本の順位はまだ4位。ワールドカップの出場権が得られる3位以内を勝ち取るためには予選最後のホームゲームとなるカタール、カザフスタンの2連戦はなんとしてでも勝ち取る必要があった。チーム事情を言えばこの2連戦には渡邊、八村は参加できなかった。足の手術でWindow4の2試合を欠場したニック・ファジーカスのコンディション、さらにはオーストラリア(ブリスベン・ブレッツ)に移籍してプレータイムが激減した比江島慎の“ゲーム勘„も気になるところだった。その中で日本はどんな戦いを見せてくれるのか。いわばそれは本当の意味でAKATSUKI FIVEの真価を問われる2連戦だったと言えるだろう。
リードされた前半から一転、後半で一気に突き離したカタール戦(85-47)
試合後、「前半を1点(31-32)リードされて終え、38点差(85-47)をつけて勝つ試合などめったにない」と、フリオ・ラマスヘッドコーチが語ったように日本の出足は重かった。が、後半に入ると強度を増したディフェンスから徐々に流れを引き寄せる。6分41秒に比江島の3Pシュートで38-34と前に出ると、4分18秒に比江島のロングパスを受けた田中大貴が絶妙なアシストで馬場雄大の豪快なダンクを演出。場内が大きく沸いたこの瞬間、試合の流れは完全に日本のものとなった。コートに出た全ての選手が積極的にゴールにアタック。ファジーカスの19得点を筆頭に、馬場13得点、比江島14得点、田中12得点、竹内譲次9得点、ベンチから出た古川孝敏と張本天傑がそれぞれ8得点と、バランス良く加点したこともそれぞれがしっかりゴールに向かい自分の役割を果たした証と言っていいだろう。
中でも強く印象に残ったのはインサイドの守りに徹し、ファジーカスに続く8リバウンドでチームを支えた竹内譲次の存在だ。攻めてもまた果敢にペイント内に切り込みファウルを誘うなど終始アグレッシブなプレーが光り、攻守に渡って勝利に貢献。渡邊や八村など若手の台頭を前に「まだまだ負けられない」と語っていた竹内の『ベテランの意地と底力』が伝わる戦いぶりだった。
また、もう1つこの試合で注目を集めたのはポイントガードを務めた田中の安定力だ。2Q中盤に富樫勇樹が捻挫でコートに下がり、ハードなディフェンスでチームを引っ張る篠山竜青のファウルが嵩んだ状況での起用だったが、本人は「自分がガードとしてセットプレーでコントロールするというよりボールを早目にプッシュしてチームメイトの攻撃力を生かしたいと思っていた」という。結果7本のアシストパスでチームを波に乗せ、同時に相手のガードをきっちり抑え込み反撃の芽を摘んだ。「田中にはアシスト能力もあり(プレーに)万能性がある。この先も機会があればポイントガードとして起用したい」と述べたラマスヘッドコーチのことばと重ね合わせると、今後も期待できる日本の手札が1枚増えたと言えるだろう。
ニック・ファジーカスが“神„となったカザフスタン戦(86-70)
9月のWindow4の初戦で顔を合わせたカザフスタンに日本は85-70で勝利している。が、その試合で合わせて40得点した八村と渡邊が今回は不在。加えて3日前のフィリピン戦を92-88で勝ち取ったカザフスタンの“勢い„も要注意点の1つだった。ところが、その懸念が的中したかのようにカザフスタンは1Qだけで5本の3Pシュートを沈め、日本は25-19と6点のビハインドを背負うことになる。だが、ここで大黒柱の存在感を見せつけたのがファジーカスだ。
得意とするローポストのシュートで得点を重ねると、相手に傾きかける流れを見事に押し返した。比江島、馬場にエンジンがかった日本は2Q終盤で逆転に成功。後半に入るとじりじりと点差を広げ4Q残り5分半には75-63と二桁リードを奪う。しかし、その直後、日本にピンチが訪れる。竹内譲次が犯した4つ目のファウルがテクニカルファウルと見なされ退場となり、そのわずか20秒後には張本天傑もファウルアウトする事態となったのだ。
残り時間は約5分。ここでラマスヘッドコーチが選択したのは太田敦也(206cm)、竹内公輔(206cm)といったビッグマンの起用ではなく198cmの馬場を4番(パワーフォワード)に据えスモールラインナップで戦うことだった。そして、その馬場はカザフスタンが3本のフリースローで77-68の一桁差に詰め寄った残り3分、嫌な流れを断ち切る値千金のジャンプシュートで場内を沸かせる。チームに勢いをもたらすダンクをはじめ随所でポテンシャルの高さを発揮した馬場だが、とりわけ勝負どころで決め切ったこの1本は彼の着実な成長を表していたように思う。
41得点、15リバウンドの数字が示すとおり立ち上がりの苦しい時間帯を支え、チームをリードした勝利の立役者がファジーカスであることに異論の余地はない。が、肝心なのはそのファジーカスの頑張りに周りがどう呼応するかということ。その意味では先述した馬場の躍動感、エースとしての仕事を全うした比江島の頼もしさが印象に残る一戦だった。
新しいゲームをしよう!
さて、ワールドカップアジア地区予選もいよいよ大詰めを迎えた。来年2月に行われるWindow6の対戦相手はイランとカタール。いずれも敵地での試合であり、よりタフさが求められることは想像に難くない。この2試合に渡邊、八村は出場できない公算が高いとなれば尚のことだろう。が、「自分が成長できている手応えはある」(馬場)、「みんなが自信を持ってプレーしているのを感じる」(比江島)、「次もまた41点取りたい」(ファジーカス)と、選手たちのことばには自信に裏付けされた明るさがある。思うような展開に持ち込めず苦しんだカタール戦の前半を終えたあと、ラマスヘッドコーチはロッカールームで選手たちにこう言ったという。「これからの20分、我々は新しいゲームをしよう!」――どん底の4連敗も破竹の6連勝も全ては終わったゲーム。ここから日本が挑むのはワールドカップの扉をこじ開ける“新しいゲーム„だ。一段ギアを上げて勝利を目指すAKATSUKI FIVEの勇姿に期待したい。
文・松原貴実 写真・吉田宗彦