オーストラリアとの激闘から2日たった。
少し時間が空いたことで筆者の気持ちも少し冷静になっているので、ここで改めてゲームのことを思い出してみたい。
やっぱりすごい!すごすぎる!!アメイジング!!!
実は未だにあの日の興奮を引きずっている。
日本の夜明け。歴史的一勝。CHIBAの奇跡。
どれもその通りだろう。どれも当てはまってしかるべきだ。
だがここであえて違う言い方をするなら、たかが一勝されど一勝、というのはどうだろうか。または始まりの一勝、だ。
ちょっとトーンが落ちて、先日の興奮からは遠退いてしまうかもしれないが。
いまだアジアで負けなしだったオーストラリアに勝てた最大の要因は、もちろん新たに加わった戦力、八村塁とニック・ファジーカスであることは疑いない。二人の高さ、得点能力、リバウンド、どれをとっても今までの日本にはなかったものを加えてくれた。何せ二人で49得点(/79)、リバウンドは19本(/44)も取っているのだ。
しかし言うまでもないが、これまでずっと代表で主力だった選手たちも、それぞれに重要な仕事をした。
インサイドの控えとして貴重な働きをした竹内譲次。リーグではディフェンダーとして一皮むけた印象だったが、このゲームではオフェンスオプションとしてもアグレッシブにゴールにアタックし、これまでには見られなかったようなプレーを披露した。
オフェンスのスイッチを入れたのは八村だろう。1対1から日本の最初の2ゴールを決めてみせた。その流れにのるようにリングへ強気にアタックするペリメーター陣の奮闘もあり、日本のオフェンスは思いのほか上手く回っていた(この時点ではまさか勝つとは思っていませんでした…)。そして竹内も1Q終盤に交代で入ってきてすぐのオフェンスで、果敢に1対1を仕掛けフィニッシュ。「八村とニックだけじゃない、バックコートだけじゃない、おれもやるぜ!」という、かれの闘う意思を強く感じさせる場面だった。
比江島慎はマッチアップしたオーストラリアのディフェンダーを、ときにNBAミルウォーキーバックスのガード、マシュー・デラベドワをすら巧みなステップで翻弄し、何度も決定機を作りだした。得点こそ6得点と普段の彼からすれば物足りない数字だったかもしれないが、ゲームの中での存在感、プレースタイルにピタリとはまった役割の遂行度は“アジアの比江島”の面目躍如だったと思う。
個人的には彼が日本のエースと呼ばれなくても関係ないと思っている。チームを勝利に導くただのワンピースだったとしても、彼のその瞬間、瞬間のコートを支配するかのようなプレーの輝きは、全く色褪せることはないからだ。むしろそのほうがイキイキプレーできるんじゃないかとさえ思っている。
そして控えのガードとしてオフェンスでもディフェンスでも決定的な仕事をした篠山竜青。4Qに同じくバックスのセンター、ソン・メイカーをかわして決めたフローターは鳥肌ものだった。目の前のメイカーは視界に入っていたはずだ。マークマンの八村を気にしてメイカーのヘルプが遅れたこともあるが、それでも「ここで、いけるかいけないか」、そして「いけるときは迷わずいく」といった勝負勘のようなものは、Bリーグという実戦の中で培われたものだろう。
ある意味では、竹内にしろ比江島にしろ篠山も、もちろんファジーカスもそうだが、彼らの立つBリーグのコートでの戦い、トップレベルのBリーガーの質の高さというものが証明されたと言えるのではないか。
そのトップレベルのBリーガーの集まりである日本代表、そこに加わったエース級の新戦力。
つまりこうだ。
日本は少なくともアジアで(ここでまだ“世界で”と言えないのが辛いところだが)充分戦える布陣になったということだ。
インサイドで計算できる選手が加入したことでスペースもできるようになり、その他のプレーヤーも自信を持って自分たちの持ち味を出すことができるようになった。
結果として何より大きかったのは、国際舞台で敗けが込んでいた日本が長らく待ち望んでいた一勝をもぎとったことだ。しかもアジアナンバーワンの強豪であるオーストラリアからだ。
勝利のブザーまであと数秒というとき、ベンチのメンバーは固まって飛び出す用意をしていたが、ああいう光景はカテゴリーがどれだけ上がってもワクワクさせられる。
勝負が決まりコート上で団子状態になったジャパン。
メンバーは皆、喜色満面で勝利の喜びを表していたが、その中でも比江島の表情はとびきり印象的だった。筆者はルーキーシーズンから比江島を撮影する機会を得ているが、大学で連覇を達成したときや天皇杯で優勝したとき、NBLを制覇したときですら、あんなに嬉しそうな顔を見たことがない。
終了のブザーが鳴る。転ぶ比江島に駆け寄り飛びつくジャパンの仲間たち。一瞬にして歓喜の輪が出来上がり、ブースターの喜びと興奮の大歓声も相まって、アリーナは熱狂の坩堝と化した。
そのとき、輪の中から飛び出した比江島がひとり、コートを突っ切るように走り出し、天を仰いだ。何とも言えない笑顔で。
勝利の余韻に浸って、盛り上がる観客席を見上げただけかもしれないが、それだけではなかったかもしれない、と思っている。
この勝利でチームジャパンの誰もが、勝つ喜び、格上を倒す喜びを少年のような素直さでもって思い出し、味わったに違いない。
だが、まだたかが一勝しただけだ。チームジャパンとして何も成し遂げてはいないことは選手もよく分かっている。今日行なわれるチャイニーズタイペイ戦に勝たなければ、結局はアジア地区の一次予選敗退という結末になってしまう。そして勝ったとしても二次予選に進めるだけのことで、本戦出場すらまだ先のはなしなのだ。
今日のゲームからまた切り替えて目の前の一勝をもぎ取ってほしいと思う。そして一つずつ勝利を積み重ねて、より大きな舞台で、より大きな一勝をつかみ取るのが日本代表の使命だろう。
先日のオーストラリア戦は、その始まりの一勝だ。
たかが一勝、されど一勝。
日本一丸で、その先にあるW杯での、そしてオリンピックでの、“たかが”ではない一勝を目指そう!
文・写真 吉田宗彦