なるほど、確かにエースとしての自覚を見失ってはいないようだ。
韓国代表を迎えた「バスケットボール男子日本代表国際強化試合2018」の第2戦、チームは【87-99】で敗れたものの、比江島慎はチームトップの18得点をあげた。
別に疑っていたわけではないのだが、ワールドカップ・アジア地区予選のWindow3に、日本に帰化したニック・ファジーカスと、アメリカNCAAのゴンザガ大学でプレーする八村塁が参戦すると決まってから、少し不安に思っていることがあった。それはここまで「日本のエース」として注目され、実際にも得点面でチームを引っ張ってきていた比江島が、その自覚を失うのではないかと思ったからだ。
かつて比江島は「自分はチーム(シーホース三河)でも3番手。(桜木)ジェイアールがいるし、金丸(晃輔)さんもいるから」と言っていた。しかもそれも渋々言うのではなく、はっきりそう自覚しているかのように言っていたのだから、日本のエースになりうる素質を持っていながらもったいない。そう思わずにいられなかった。
いまさら確認するまでもなく、比江島の独特なリズムから生み出すドライブと、そこから繰り出される多彩なフィニッシュは、これまでの日本人にないものだ。ダンクをする身体能力もあり、ドライブからアシストに転じることもできる。アウトサイドのシュートに若干の難はあるかなと思っていたが、それもB.LEAGUEで揉まれてかなり精度を上げてきた。
そう考えると、けっして比江島ひとりに頼るという意味ではなく、彼がこれまでどおりゴールにアタックし、そこで得点をあげるなり、アシストすることは新加入の2人がいようとも変わってはいけないと思ったのだ。
しかし韓国代表を大田区総合体育館に迎えた第1戦、比江島は“らしさ”を出せないままベンチに下がっていった。それはいわゆる“ファウルトラブル”のためだったが、それでも彼のオフェンスがファジーカスや八村とどのように融合するのかを見てみたかった。
むろん今回の日韓戦はあくまでも「Window3の準備」とフリオ・ラマスが言うとおり、さまざまな選手の組み合わせやセットプレーなどの確認に費やそうとしたのは理解できる。2戦目で露呈したディフェンスの綻びもその一環と言っていいだろう。それを理解したうえでやはり比江島とファジーカス、八村による攻撃の厚みを見てみたかったのだ。
ファウルによって自分のペースを乱し、一方でファジーカスは28得点・13リバウンド、八村は17得点7リバウンドをあげてチームの勝利に貢献したとき、比江島の心に去来するものが「僕は3番手」でないことを祈った。
初戦を終えたミックスゾーンでそれについて尋ねると、彼は「確かに昔はそんなこと(自分は3番手と言ったこと)がありましたね」と言わんばかりに頷いて、こう続けた。
「僕のなかでまずは彼らを生かすことを考えていたんですけど、試合前にもラマスから『いつもどおりやってくれ。いつもどおり起点になってくれ』と言われたので、今までどおりエースという自覚を持ってやろうとはしました」
今日に関してはそれができなかったけど、第2戦ではシュートの本数を増やしていきたいとも。選手の組み合わせもプレータイムも異なるので単純に比較するわけにはいかないが、それでも第2戦はシュートの本数も得点も増えたことは、少なくとも比江島が自ら語ったとおり「エースの自覚」を見失っていない証拠である。
ファジーカスと八村が入ったことで明らかにインサイドでの得点パターンは増えた。彼らを使うセットプレーも新たに加わったと比江島は明かす。八村に関しては「リバウンドを取ってからプッシュすることもできるので、自分がウイングを走ることもできる」と新たな形を見出している。
それでもまだ、自分のプレーと彼らのプレーをどのように融合させるのかを見つけるところまでは至っていない。Window3のオーストラリア戦(6月29日・千葉ポートアリーナ)とチャイニーズ・タイペイ戦(7月2日・チャイニーズ・タイペイ)までにその一端でも見つけることができれば、見ごたえのあるゲームになることは間違いない。
ファジーカス、八村の加入がチームに大きなプラスになることは誰もが認めるところだろう。しかし彼ら2人に頼っているようでは、進歩はない。これまでどおり、比江島が自らの感性に従ってゴールへアタックし続けることが、真の意味で日本の「希望」になる。
文・三上太 写真・安井麻実