爽快シューター“ソウ”が女子日本代表に戻ってきた。
藤高(旧姓・栗原)三佳である。
2016年のリオデジャネイロ五輪では渡嘉敷来夢に次ぐチーム2番目の平均得点12.7点をあげ、日本の8位入賞に貢献。しかも6試合を戦って、3ポイントシュートの成功率は驚異の51.1%。つまり栗原が3ポイントシュートを放てば、2本に1本はリングを通過していたわけである。
当然、昨年のアジアカップを戦う日本代表に彼女の名前があってもおかしくはなかったが、そうはならなかった。
本人も「知らなかった」という右手親指を五輪期間中に剥離骨折していたのだ。診断を聞いたときはさすがにショックを受けたが、靭帯に関わる骨折だけに手術をしたほうがいい。藤高は手術を決意し、復帰へのリハビリにも懸命に取り組んだ。
それだけだったらアジアカップにも間に合っていただろう。
その年のWリーグの開幕には間に合わなかったものの、11月26日のデンソーアイリス戦から復帰。徐々に感覚を戻し、スタメンで起用されるところまで回復していたのだから。
しかし今度は左手中指を骨折してしまう。そのときも落ち込んだが、プレーオフの最中であり、チームも目標であるファイナルに向けてラストスパートをかけている時期だったので、栗原自身もそこまではやり通したいとケガを押して出場し続けた。
振り返ってもその判断に悔いはないだろうが、一方でそれが昨年度の女子日本代表を辞退せざるを得ない一番の引き金となってしまう。
シーズンが終わって、骨折した中指を治そうとしたところ、その部位が骨髄炎を引き起こしていたのである。
しかし人の禍福はまったく予測できない。
治療のため入院を余儀なくされていた藤高は汗をかくことさえできない日々の中で、インド・バンガロールでおこなわれたアジアカップをゆっくり観戦することができた。そこには、女子日本代表の仲間たちが頑張っている姿がある。エースの渡嘉敷はWNBA参戦のために出場を見合わせていたが、リオデジャネイロ五輪で共に戦った吉田亜沙美や大崎佑圭、高田真希、そして水島沙紀らトヨタ自動車アンテロープスのチームメイトもいる。
「みんなが頑張っていたから、自分も頑張ろうと思えたんです」
代表復帰へのモチベーションを藤高はそう振り返る。
リオデジャネイロ五輪での手応えもまた、もう一度世界へという気持ちを後押した。
「自分たちは本当に小さいチームだったので、(大きいチームに)向かっていって、挑戦して、勝つことがすごく楽しかったんです。五輪でも、アメリカ以外ならどのチームにも勝てるという自信が選手全員にあったし、そのアメリカ戦もチャンスがあれば倒しに行こうと言っていて、ああいう結果(64-110で敗れたが、前半は46-56と食らいついた)になったんです。それくらい五輪を通して日本は世界でも通用できるという自信がみんなにありましたね」
特に日本のオフェンスが効いていたと藤高は見ている。トランジションの速さに渡嘉敷という世界レベルの高さが加わり、さらに藤高らが放つ精度の高い3ポイントシュートが相手ゴールを射抜くことで日本のオフェンスは世界基準に達したのだ。
ヘッドコーチに就任して初めてその指揮下に入るトム・ホーバスのバスケットを「オフェンスはすごく速い展開で、チャンスがあればどんどん狙っていく」ものだと藤高は言う。自身のプレースタイルもそうした攻守のラリーのなかですばやく3ポイントシュートを打つことに見出している。
「積極的に打てるオフェンスは私自身もやりやすいというか、シュートも狙いやすいし、チャンスがすごくあります。そういうところをトムさんも期待してくれているのかな」
メディアに公開された練習では高い確率で3ポイントシュートを沈めていた藤高。まだまだ波はあると言うものの、少なくとも練習では入れるべきところできちんと入れられていると自信ものぞかせている。あとは実戦で入れられるかどうか。2017-2018シーズンのWリーグもケガの影響で20試合の出場に留まっているだけに、実戦での結果が彼女の世界への意欲をさらに高めるはずだ。
そういう意味でも8日(金)にアリーナ立川立飛でおこなわれる「バスケットボール女子日本代表国際強化試合2018 三井不動産カップ(対チャイニーズ・タイペイ。19:30 Tip Off)」は、藤高自身にとっても重要な試金石となる。
ワールドカップに出場する女子日本代表12名の枠をかけた争いはまだまだ続く。
「けっして楽しい気持ちではないけど、頑張り甲斐はありますよね。誰が出てもそのときのベストチームなので、たとえ自分が入っても、また落ちても、気持ちがアップダウンすることはありません。でも自分が入ってチームに貢献したいという気持ちはありますし、そうしたサバイバルゲームを生き抜くメンタルもしっかり持たないと試合でも結果を出せないので……そういう意味でも本番に向けてまだまだいろんな勉強かな」
いい意味で力が抜けている。結果に一喜一憂するのではなく、自分ができることを精一杯することでおのずと結果は出てくると信じているのだろう。つまりはいかにプロセスを踏むことが大切かを理解している。
むろん世界と戦うためには、そのレベルでのメンタルの強さが不可欠であることも十分にわきまえている。そこに五輪を戦った藤高の矜持を見つけることができる。
もちろん夫・藤高宗一郎の存在も忘れてはいけない。
「一番近い存在だし、安心できます。しんどいときも支えてもらってきているし、少し愚痴を聞いてもらうこともあります。彼も彼で頑張っているので、それを見て私も頑張らないとなって」
シューターはたとえ最初の10本が落ちても、さらに打ち続けなければならない。10本外したあとに10本決めれば確率は50%なのだ。そのためには強いメンタル、心の平静が求められる。五輪を経験し、相次ぐケガを克服し、さらにはよき伴侶を得た今、藤高三佳は以前よりも爽快にシュートを決めてくれるはずだ。
文・写真 三上太