四の五の言っても始まらない。経験の無さは、経験をすることで積み上げていくしかない。
インド・バンガロールでおこなわれている女子のアジアカップは2日目を終え、日本は韓国を【70-56】で破り、開幕2連勝となった。
第1Qこそ大崎佑圭が韓国のビッグマン、パク・ジスに対して立て続けにファウルを犯してリズムが狂うと、韓国のキャプテンで、ベテランフォワードのイム・ヨンフィには連続失点し、追いかける展開になってしまった。
その流れを変えたのは、ポイントガード2人による“ツーガード”である。まずは町田瑠唯が投入され、吉田亜沙美とのツーガードを組む。その後、吉田に代わって藤岡麻菜美が入り、町田とのツーガードを組んだ。
「第1Qの序盤は重かったでしょ。だから日本の速いペースにしたかったんです。ツーガードにするとペースが速くなるからね」
トム・ホーバスヘッドコーチは、ツーガードにした理由をそう語る。
実のところ、 “ツーガード”の練習はほぼしていないのだという。ぶっつけ本番。それを明かしてくれた町田が吉田と組んだのは国際親善試合のオランダ戦だけ。それでもできてしまうのが今大会の3人のガードでもあるのだ。
「シューターを使うフォーメーションや、ここで得点が欲しいというときのフォーメーションであれば動きが複雑だし、私が2番ポジションをすることは難しいかもしれません。でもガードが2人のときの動きはそれほど難しくないから、できるってこともあります」
町田はそう種明かしをする。
加えて「ガードが2人とだと安心感がある」とも、町田は言う。2人ともがポイントガードであれば、どちらがボールを運んでもいいし、どちらがオフェンスを作ってもいい。簡単にボールを奪われることもないし、オフェンスもスムーズに入っていける利点もある。
日本の正ポイントガードである吉田もまた、その“ツーガード”を個人的に楽しんでいる。それは本来のシューティングガードである近藤楓や水島沙紀を蔑ろにしているわけでは、もちろん、ない。
今日の韓国戦にしても「本来であれば近藤が3ポイントを決めていれば、その形(ツーガード)はなかったと思います。ただ今日は彼女の調子が上がらなかったので、やっただけ。近藤にはこれからも3ポイントシュートを打ち続けてもらわなければ困りますし、明日は期待しています」とエールを送っている。
そのうえで吉田が「楽しい」と言うのは、経験豊富なベテランならではの深い意味がある。
それはいつか自分が日本代表の司令塔の座を退いたときに、後を継ぐであろう2人に対して、日本のポイントガードの重責を、このアジアカップを通じて、しかも同じコートに同時に立つことで教えようとしているのだ。
「もう(町田も藤岡も)やっていかなきゃいけないんです。私と2人でコートに出たときに、私に頼ってばかりでは意味がないと思います。せっかく私が2番の役割をしているわけだから、彼女たちはポイントガードの役割を徹底しなければいけません。だからツーガードのときは、基本的に彼女たちの手助けをしないって決めています。2番ポジションとして好き勝手に攻められるってことだけを考えています」
もちろんゲームの流れをよく知る吉田だけに、文字どおりの「好き勝手に攻める」真似はしない。町田、もしくは藤岡が本当に困っていたり、競り合う展開になれば手助けもするが、基本的は彼女たちに任せようと考えている。つまり今大会の日本のツーガードは流れをアップテンポにするだけでなく、その裏に次世代へ向けた教育もあるのだ。
韓国戦では吉田と町田のコンビが合わなかったり、終盤は町田と藤岡がコンビを組んで、韓国に追い上げられるシーンもあった。前者については、吉田は「コミュニケーション1つで解決できる」と意に介していないが、後者についてはホーバスヘッドコーチが吉田らスタメンをコートに再投入することで流れを引き戻した。ヘッドコーチが「本来はあの場面でスタメンを戻すことは絶対にしたくなかった」と振り返る状況を町田、藤岡がどう捉えて、明日以降のゲームに臨むか。
アジアカップはチームとして3連覇を目指す大会である一方、日本の次代を引っ張る若い司令塔が厳しいアジアの戦いを勝ち抜くための術を、自らの“経験値”に加える大会でもある。
文・写真 三上 太