6月3日~7日まで長野市真島総合体育館(通称:ホワイトリング)において東アジアバスケットボール選手権が開催された。FIBA ASIAカップ2017 東アジア地区予選も兼ねた大会とは言え、参加6チームのうち5位までが8月(於レバノン)の本選出場権を得る広き門。このため次代選手の経験の場と位置付けた韓国は平均24歳、中国は平均19歳という若いチームを送り出してきた。これに対しベストメンバーで臨んだ日本には『優勝』が大きな意味を持つ。ホスト国としてのプライドに懸けても「負けたくない」大会だった。
予選ラウンドの第1戦(対韓国)に勝利して幸先の良いスタートを切った日本は続く第2戦で格下のマカオを一蹴し、Aグループ1位で決勝ラウンドに進出。準決勝の相手となったチャイニーズタイペイ(Bリーグ2位)は日本と同様ベストメンバーを組んでの参加だったが、中国に大敗した試合では覇気を欠き、それを見る限り日本に分があるように感じられた。しかし、「出だしをソフトに入ってしまった」(比江島慎)という日本は目指すアグレッシブなバスケットが鳴りを潜め、前半26-40のビハインドを背負って折り返すことになる。後半に入ると比江島のシュートを中心に徐々に差を詰めていくも試合を覆すには至らず73-78でタイムアップ。最大の敗因はなんといっても31-46(内オフェンスリバウンドは11-21)と大きく水を開けられたリバウンドであり、インサイドで許した失点が終始重くのしかかる一戦だった。
だが、大会はまだ終わったわけではない。前日の敗因を「どこまで修正できるかが今日の課題でもあった」(竹内譲次)という3位決定戦では、2m台の選手を8人擁し高さで大きく上回る中国を相手にスタートから激しいバスケットを展開。注目されたリバウンドでも37-31と上回り、中国に付け入る隙を与えないまま76-58で快勝し3位入賞を果たした。
試合終了後の記者会見に登場したのはルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ、竹内譲次、比江島慎の3名。昨年の12月から短期の合宿を繰り返し、暫定ヘッドコーチとして指導に当たってきたルカコーチにとって最後の采配となった中国戦。「今日はルカコーチから学んだものを全て出し切り、コーチが求めるバスケットを表現したかった。それはチーム全員が思っていたこと。今日はそれができたのではないかと思う」と語る竹内のことばにルカコーチへの感謝とリスペクトの気持ちがにじんだ。
<会見コメント>
ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ
「日本代表チームを指導するにあたってBリーグの試合や過去の日本代表のビデオを見て、私がこのチームに植え付けるのはディフェンス面、ディフェンスのマインドだと思いました。世界のチームに比べて身長、身体能力で劣る日本が世界と戦っていくためには完璧なディフェンスが必要です。オフェンスがうまく機能しないときにも積極的なディフェンスで打開していくこと、その大切さを選手たちはよく理解してくれたと感じています。もちろんそれがまだまだ完璧ではないことをチャイニーズタイペイ戦で味わうことになりましたが、プログラムとして組み立ててきたことを今後に生かしてほしいと願っています。私は選手たちに1つひとつの試合に向けて準備させるのではなく、個々の課題に対して準備させてきました。優勝で締めくくれなかったことは非常に残念ですが、最後の試合を終えた今、冬から始まったこの取り組みは成功だったと思っています」
昨年12月から暫定ヘッドコーチとして日本代表チームを指導。厳しい合宿を通して世界基準のディフェンスを日本のスタンダードにするべく心血を注いだ。目指した優勝は叶わなかったが、中国に快勝した3位決定戦の後、最初に口にしたのは「今日、すばらしいパフォーマンスを見せてくれた選手たちにおめでとうと言いたい」という選手たちへの労いの言葉だった。
竹内譲次
「準決勝では自分たちのミスから相手に勝利を渡してしまったという悔しい気持ちがありました。予選ラウンドをいい結果で勝ち上がっても大事な試合で勝ち切る力がないのは今回に限らず、これまでも日本の課題であったので、やはりその壁を打ち破るようなバスケットをしていかなくてはならないと改めて強く感じています。ただ今日の3位決定戦では(前日の悪かったところを)修正でき、ルカコーチが追求する激しいディフェンス、リバウンドをある程度表現できたと思います。若いけれど高さがある中国に対しディフェンスでしっかりフィジカルコンタクトを取ることが重要だと考え、かけひきというより相手に身体をぶつけることを意識して臨みました」
大会前の最後の合宿ではコンディションが今1つだったのか、チーム練習の隣りのコートで1人別メニューに励んでいたが、本番では4試合全てのコートに立ち、32歳のベテラン選手として心技でチームを牽引した。
比江島慎
「昨日の負けからしっかり切り替えられたと思います。全員が(今日が)決勝のつもりでモチベーションを高く持ち、最初から相手にやりたいことをやらせない激しいプレーができました。今日のバスケットはルカコーチが求めるものであり、これからも日本がやっていかなければならないバスケットです。コーチが変わればオフェンスのシステムが変わったりする部分はあるかもしれませんが、ディフェンスでプレッシャーをかける意識やピック&ロールの守り方などはあまり変わらないと思うので、ルカコーチから学んだことを土台として次に繋げていきたいと思っています」
チャイニーズタイペイ戦に敗れた後「自滅でした」と唇を噛んだが、最終戦では出だしからアグレッシブなプレーで若い中国を翻弄する『比江島らしさ』を見せつけた。
橋本竜馬
3月に半月板を損傷して手術。だが、その後は執念のリハビリを続け約1ヶ月半という驚異的なスピードでコートに復帰した。3試合はベンチスタート、最後の中国戦はスタメン起用だったがいずれも熱いプレーでチームを鼓舞し続ける姿が印象的だった。
富樫勇樹
日本代表のエースガードとして『強気な姿勢』でチームを牽引した。1点差に詰め寄られた韓国戦、残り40秒を切った場面で躊躇なく放ち、決め切った値千金のジャンプシュートはまさに攻めるガードの真骨頂と言えるだろう。
アイラ・ブラウン
3位決定戦ではチームハイの21得点、11リバウンドのダブルダブルをマークして勝利に大きく貢献した。また非常にファンを大切にする選手であり、みんなが帰りのバスに乗った後も最後の最後まで笑顔でサインを続けていた。
馬場雄大
記者会見で馬場について尋ねられた竹内譲次は「ホテルの部屋が僕の隣りなんですが、夜中までうるさくて早く寝ろよ!と思っていた」と笑わせた後、「そういう若さを持ってコートの上で躍動していました。僕もこれまでいろんな有望選手を見てきましたが、隣りにいる比江島に匹敵するほどすばらしい才能を持った選手。まだ安易なターンオーバーもありますが、そういうミスを恐れず大きく成長していってほしいです」と、語り、名前を出された比江島は「後輩としては田中大貴以来のすごい才能を持つ選手が出てきたなあと思っています。1番の魅力はあのドライブ。まだまだのびしろがあると感じています」と賞賛した。
誰もが認めるのは高い身体能力、中国との3位決定戦ではスティールからのコースト・トゥ・コーストで豪快なダンクを見せて場内を沸かせた。
広がったバスケットの間口、ファンは強い日本を見たい
男子の国際大会が開催されたのは2012年のアジアカップ以来のこと。長野という地方都市、さらに会場となったホワイトリングは駅から遠く離れており、集客が心配されたが、3日(土曜日)の日韓戦には4000人のファンが集まり、平日の夜開催となった決勝ラウンドにも熱心なファンが詰めかけた。(最終日の観客動員数は2013名)。『熱心なファン』と書いたが、それはこれまでバスケットを見続けてきた『コアなファン』という意味とは少し違う。もちろんコアなファンは変わらず存在するが、今回感じたのはそこにプラスされた『熱心なファン』だ。
バスケットはあまり知らないが、『何かで目にした』バスケット、あるいは選手が気になり、生で見てみたいとやって来た新しいファンたち。日本戦が終了した遅い時間にも関わらず、会場と駅を結ぶシャトルバスの最終便が出てしまったにも関わらず、宿舎に帰る選手たちを見送るため大勢のファンが出待ちをしていた。そして、これまでの『出待ちの風景』と明らかに違ったのは選手たちに向かって叫ぶ黄色い声。バスの窓から選手の誰かが手を振ろうものなら一斉に「キャー!」という絶叫が湧き上がる。それはさながらアイドルを見送るファンのようでもあり、その熱狂的な姿にただただ圧倒されてしまった。
もしかするとBリーグの効果はこんなところに現れているのかもしれない。Bリーグ開幕で以前より格段に露出度が増したバスケットをテレビで、ネットで、雑誌で見かけて興味を持った人たち、遠い会場まで足を運んでも生で見たいと思った人たち、バスケットへの入口はそんなふうに少しずつ、だが、確実に間口を広げているのかもしれない。
「もう夜の10時を回っているけど、君たちはこれからどうやって帰るのかね」と余計な心配をしながらも、叫びながら選手に手を振るファンの姿がどこか嬉しくもあり、だからこそ日本はもっと強くならなければ!と改めて思った最終日の夜だった。
文・松原貴実 写真・安井麻実