2021年4月19日、うれしい知らせが届いた。渡邊雄太がNBAのトロント・ラプターズと本契約を結んだ、というのである。
今シーズンは「エグジビット10」と呼ばれる無保証の最低年俸でラプターズとの契約をスタートさせ、その後、過去2シーズン、メンフィス・グリズリーズと結んだのと同じ「ツーウェイ」契約に切り替わった。満足いくプレータイムを得られない時期もあったが、見切れるベンチの端で、味方のシュートにほとんど毎回立ち上がり、両手を突き上げる彼の姿があった。主力がケガ人に見舞われ、プレータイムが増えたときも、スタメン、ベンチスタートに関わらず、コート上で映される彼の表情はいつも爽やかだった。アメリカでも評判になった、1月29日のサクラメント・キングス戦での女性審判に見せた優しい笑顔は、「これこそが渡邊雄太だよな」と思わせるシーンだった。世界最高峰と言われるNBAでも、渡邊雄太は僕らの知る渡邊雄太だった。
その一方で変化も見てとれた。身体の大きさやスキルはもちろんのこと、何より顔つきが精悍になってきたことが、どこかうれしかった。世界最高峰の舞台で戦うことの意義を彼自身がハッキリと見出しているからだろう。それが2月20日のミネソタ・ティンバーウルブズ戦、アンソニー・エドワーズのダンクシュートをブロックにいったシーンにもつながる。現地では不評だったようだが、数日後の記者会見で「あのダンクにブロックに行かないという選択肢はなかった」とキッパリと告げている。こうした意志の強さもまた、やはり僕らの見てきた渡邊雄太である。
つまり、渡邊雄太は、僕らが見てきた渡邊雄太のままで、でも僕らの知らない苦悩と、それを乗り越える努力を重ねに重ねて、あの本契約にたどり着いたのである。これを表彰しないわけにはいかない。
今年も我々はMVPから選考を始めたのだが、まず挙がったのは、B.LEAGUEを初めて制した千葉ジェッツの富樫勇樹やセバスチャン・サイズの名前だった。宇都宮もいいかもしれませんね。そんな声にライアン・ロシターや遠藤祐亮の名前も続く。そんなときに「渡邊雄太も候補に入れちゃダメですかね?」という発言が飛び出した。
「いいと思う。でも渡邊雄太はMVPとは別枠じゃない?」
「特別賞とか? でもそれだとMVPよりも薄れませんかね?」
「MVPよりも上ですよね?」
「MVPよりも上って何ですか?」
「キングじゃない? スピリッツのバスケットボールキング(笑)」
「それはバスケットボール・キングさんに申し訳ない」
「いや、バスケットボール・キングの編集長にかけあって、コラボしたらいいんじゃない?」
そんな他愛もない会話を繰り返しながら、結局、バスケットボール・キングさんに打診することなく、「Basketball Spirits AWARD」という、滅多にはないだろうけど、MVPを越える活躍をした選手に与える弊サイト最上級の賞が生まれたのである。もちろん史上初の「Basketball Spirits AWARD」は満場一致で渡邊雄太である。