もはや常套句のようであまり使いたくはないのだが、今夜のようなゲームを見ると、どうしても使いたくなってしまう。強い光には必ず濃い影が伴う。裏を返せば、影が濃ければ濃いほど、光もまた強く輝きを放っている、と――。
女子アジアカップの準決勝、日本代表は中国代表を【74-71】で破り、3大会連続の決勝戦進出を決めた。勝利の立役者はスタッツやFIBAサイトが示す「トップパフォーマー」を見るまでもなく、藤岡麻菜美である。ケガの吉田亜沙美に代わってスタメン起用されたフル代表初選出のポイントガードは、積極的なアタックとゲームコントロールでチームを勝利に導いた。個人スタッツも19得点・14アシストで「ダブルダブル」を達成。リバウンドも8で「トリプルダブル」まであと2つという成績を残している。
もちろん勝利に貢献したのは藤岡一人だけではない。攻守で活躍した宮澤夕貴や長岡萌映子も輝いていたし、ベテランとして安定した働きを見せた高田真希の存在も忘れてはいけない。
ただ、ここで取り上げたいのはセンターの大崎佑圭である。スタメンとして出場し、25分のプレイタイムで6得点はけっして称賛される数字ではない。それは本人も心得ているし、納得してもいない。
それでも彼女を“強い影”として表現したいのは、彼女のディフェンスでの奮闘ぶりにある。185センチの大崎がマッチアップするのは195センチのHUANG Hongpinであり、18歳ながらもフル代表入りした、201センチのLI Yueruである。出場メンバーのリスト(ロスター表)に体重は掲載されていないが、彼女たちは間違いなく大崎よりも重い。それでいて今大会の中国が見せる「走るバスケット」にもついてくるのだから、そんな彼女たちを守ることは並大抵のことではない。それを大崎は地道にやり続けたのだ。
「体を張るのが大崎の仕事だろう?」
もしかすると、そう言う人もいるかもしれない。確かにそうだ。身長の低い日本において大崎はフィジカルの強さと、それを厭わない精神力の強さで、日本代表にその名を連ねている。うまさもあるが、フィジカルの強さが彼女のプレイに中心にあることは間違いない。
そんな彼女が中国のビッグマンに押し切られ、その仕事をまっとうできなければ、藤岡のドライブも、宮澤の決勝3ポイントシュートも日の目を見ることはなかった。
大崎がインサイドで踏ん張ったからこそ、中国は簡単にゴール下で得点ができず、日本は持ち味である速い展開のバスケットに持ち込めた。だからこそ藤岡たちが輝いたのだ。
大崎は試合後にこう振り返っている。
「チャイニーズタイペイやオーストラリアの試合よりはディフェンスやリバンドを意識して、体を当てることはできたかなと思います。後半、いくつかポストアップから失点した場面もありましたが、前半はそこでの失点を抑えられたと思います」
相手は高さでも、パワーでも大崎を上回っているのだから、失点する場面が出てくるのは、ある程度仕方のないことだ。それでも大崎はけっして心を折らさず、次のディフェンスでも再び体を張って、相手の攻撃を阻止しようとした。そうして日本のボールになれば一転、フィジカルコンタクトで消耗した体に鞭打つように速攻にも参加した。ハーフコートオフェンスになればスクリーナーとして、その体を相手のディフェンスに晒した。それが日本のバスケットであり、それが日本のベテランセンター、大崎佑圭がこれまで培ってきた経験のなせる業でもあるのだ。
それでいて本人はディフェンスやリバウンド、スクリーンだけの選手であることに満足しない。今夜の6得点にも、だ。
「もっと得点に絡まないとトム(・ホーバスヘッドコーチ)も満足してくれないし、自分も満足できません。(大会3連覇まで)あと1つのところまで来たので、気持ちを切り替えて、ここで自分が今まで積み上げてきた経験を出さなければ、ここに来た意味がありません」
決勝戦に向けて、そう意気込む大崎だが、本人も認めるとおり、気負いすぎると彼女の良さは消えてしまう。彼女の高校時代の恩師がかつて「急ぐのと焦るのは違う」と言ったそうだが、焦らずに、それでいて素早いプレイでオーストラリアのビッグマンたちと対峙すれば、これまでとは異なる結果を導き出すこともできるだろう。
「今日みたいに地道にプレイして、それが相手へのボディブローになるように嫌がらせて、うまく駆け引きできればいいかな」
派手な得点はいらない。泥にまみれながら、地道に、コツコツと得点を重ねていけば、それが最終的に世界ランキング4位のオーストラリアを上回る貴重な得点になっていく。
文・写真 三上 太