アジア選手権ではファイナル4に残らなければ、5位でも16位(今大会は開幕直前にFIBAから制裁を受けたレバノンが出場停止となり15チーム参加)でも、その価値は変わらない。準々決勝を勝ち抜いて4強に入ると、ようやく世界の扉に手をかけられる。 今大会であればアジア3位以上にFIBA ワールドカップへの出場権が与えられ、2年後の次回大会の優勝チームはリオデジャネイロ・オリンピック出場、2位と3位には世界最終予選とはいえ世界の強豪との真剣勝負が待ち受ける。 その一歩手前に位置する準決勝こそ、アドレナリン出まくりの真剣勝負。勝てばアジアNo.1を決める決勝へ進み、敗れても3位決定戦で勝てば世界への切符が手に入るわけだ。この4チームによる2日間こそが究極の戦いであり、それを知ってるチームにとって準々決勝までは調整なのである。
アジア各国が躍起になって選手を集めて挑むのは、このアジア選手権のみ。昨年、日本が準優勝になったFIBA ASIA カップも、毎年夏に台湾で開催されるウィリアム・ジョーンズカップも若手の育成や調整を行うための国際大会でしかない。だからこそ世界を賭け、アジアの頂点を賭けた準決勝以降の舞台に立たなければ、本当の意味での経験にはならない。 準々決勝で敗れたり、決勝トーナメント進出を逃した後の順位決定戦では、かなりリラックスして試合に臨むチームも多い。連戦により体調不良やケガをすることも少なくはなく、上を目指す間は無理しても選手たちはコートに立つが、順位決定戦に回るとベンチで過ごすこととなる。ゆえに5位より下はどの順位でも同じなのだ。 今大会は9位で終わった日本だが、この低迷は今に始まったことではない。アジア2位で世界選手権出場を決めた1997年以来、準決勝に進んでおらず、16年間も世界を賭けた本気の試合から遠ざかっている。
開幕戦で敗れて以降、熱さを感じられずに終わった日本
様々な敗因が挙げられると思うが、技術的なことは専門家に任せるとして、一人のファンとして現場で感じたのは熱が伝わって来なかったこと。諦めていたわけでも、一生懸命やっていなかったわけでもない。他国と比べて技術に格段の差があるとも思えない。 しかし、勝ちたいという気持ちの熱さやチーム一丸となって戦う熱気が、相手を凌駕することは無かった。 日本の武器はスピードと言われるが、よっぽど218cmのハメド・ハダディを擁するイランの方が速攻を走っていた。 準優勝と躍進を遂げたフィリピンの平均身長は192.83cm。日本の195.75cmより約3cmも低い。PGは3人とも176cmしかないが飛び込んでリバウンドを奪う。チャイニーズ・タイペイの平均身長は190.92cmとさらに低い。しかし、シュートが決まればベンチから身を乗り出して全員で喜び、守ってはディフェンスコールをしながらチーム一丸となり、準々決勝で中国を破った。バスケットボールは身長が優位に立つが、身長差があっても闘志がなければメリットにはならない。 そして多くのチームがスローイン時にはボールを叩き、そして選手同士が手を合わせ、幾度となくバチンと大きな音を鳴らす。その一つひとつの動作にも仲間を鼓舞し、モチベーションを高めようとする熱さがビンビン伝わって来る。開幕戦こそ日本も少しは盛り上がりを見せたが、4Qにカタールに逆転を許して以降、そのようなシーンは終ぞ見られることはなかった。
松井啓十郎、太田敦也、竹内公輔、桜井良太、桜木ジェイアール以外、7名が初めてアジア選手権に出場。このメンバーで4強に入れば最高の結果を得ることとなり、大きな自信にもつながったことだろう。しかし、決勝トーナメントに行けなかったことで、そんなに甘い世界ではないという現実を突き付けられたのは、不幸中の幸いだったかもしれない。下手に5位や6位で終わって過信されるよりも良かったと言える。
経験をつなぐためにも鈴木ヘッドコーチの続投を
「もう一度、指導者も選手もみんなで努力していかなければ、どんどん厳しくなっていく」*と、危機的状況に警鐘を鳴らす鈴木貴美一HC。勝てない日本代表において、現時点でのバスケット戦術や選手選考に正解も不正解も無い。ただ、その試みに対しての反省や分析が死ぬほどされておらず、せっかくの経験が積み上げられていないだけだ。 世界に出られない日本にとって、本当の意味での真剣勝負は2年に1度のこのアジア選手権でしか体験できない。しかし、敗れる度にヘッドコーチを変えてきたこの状況では何もつながらず、同じ過ちを繰り返し続けてることは明白だ。鈴木HCも今回で2度目とは言え、6年の月日が流れており、その間もアジアの情勢も大きく変わっている。FIBA ASIA カップやジョーンズカップでアジアを認識したつもりだったかもしれないが、やはりアジア選手権での各国はそれとは違っていた。
準決勝進出は逃したが、日本を率いて7位になった前回大会よりも1つ順位を上げたのはカタールのトーマス・ウィスマンHC。前回大会でヨルダンを準優勝に導いたトーマス・ボールドウィンHCは、今年はフィリピンのアドバイザリーコーチとしてベンチ裏から駆け寄って選手やスタッフにアドバイスを送り続け、2大会連続準優勝。 日本が最後に自力でアジアを突破した時のヘッドコーチは小浜元考氏。1996年に日本代表ヘッドコーチに3度目の就任。1979年、1984〜1989年と間は空いたが長年務めていた経験がある。女子日本代表も中川文一ヘッドコーチは9年間に及ぶ長期政権で1996年アトランタオリンピックに出場し7位入賞。長ければ良いというわけではないが、せめて4年単位での強化は必要であり、この悔しい経験を糧にして鈴木HCの続投を希望する。