文・松原 貴実
8月29日~9月5日まで中国・武漢で開催された第26回FIBA ASIA女子バスケットボール選手権大会(兼2016年リオデジャネイロオリンピックアジア地区予選)で見事優勝に輝いた日本代表チームが6日に帰国(渡嘉敷来夢選手はWNBA出場のためそのまま渡米)。午後5時からヒルトン成田において凱旋記者会見が行われた。
決勝戦後は日付が変わるころ宿舎に戻り、眠る間もなく朝の4時に出発する強行軍だったというが、選手たちに疲れたようすはない。檀上に並んだのは3大会ぶりのオリンピック出場を決めた晴れやかな笑顔だった。
記者会見後、会場のあちこちで拾った選手たちの声を紹介したい。
■このチームのキャプテンだったことが幸せ!(吉田 亜沙美)
「試合で自分たちのペースをつかめなかったときも必ず波は来ると信じてディフェンスを全員で頑張れた。それがこのチームの1番の強みだと思っています。ディフェンスからブレイクというアップテンポのバスケットを常に目指していましたが、そのリズムに乗れなかったときもディフェンスを頑張り、全員でリバウンドを取りにいくことで流れを引き寄せることができました。そこから走って得点につなげるんだという思いは大会を通してブレることがなかったと思います。
本当にいいチームだったから、今は解散してしまうことがすごく淋しい。まだ一緒にプレーしていたい(笑)
これからWリーグが始まり、みんなそれぞれのチームに帰って今度はライバルとして戦うわけですが、そこで切磋琢磨して、またステップアップして(代表に)戻って来られるようお互い頑張れたらと思っています。何度でも言いますが本当にいいチーム。そんなチームのキャプテンだったことがすごく幸せです」
■ベンチでの役割をすごく意識していた(三谷 藍)
「選ばれた以上選手としてコートに立ちたいという思いは強かったですが、なかなかプレータイムがもらえない中、ベンチでの役割をすごく意識していました。もちろん葛藤はありましたが、このチームでまず自分ができることをやろうと心に決めて積極的に声出しもしました。何かにつけ37歳ということがクローズアップされていますが(笑)、年長者として若手を注意したり、ときには怒鳴ったりすることもありました。
予選ラウンド最後のタイ戦は自分たちがやらなきゃいけないことが徹底されておらず、リズムもすごく悪かった。その前の中国戦にいい勝ち方をしたので、次は格下だけどいい形で終わらせてプレーオフに行こうと話していたにも関わらず内容が悪すぎたので、思わず声を荒げました。プレータイムが少ない自分たちにとってコートに出られる試合は自分をアピールするチャンスでもあり、それが次のプレータイムにも関わってきます。何より控えが出ている時間帯(の内容)が悪いとチーム全体が締まらなくなってしまう。でも、頭ではわかっているのにあの試合は全然うまくいかなくて、あとから考えると自分のテンパリが(若手にも)伝染しちゃったのかなぁと反省しました。もう少し違う形でみんなのいいところを引き出すべきだったかなぁと。
私は4年ぶりの代表なんですが、4年前にまだ若手だった選手が今チームの主力になっています。プレーもメンタルも本当に成長していることに驚きました。特に吉田なんかキャプテンの重責を果たし、あんなにコメントまでできるようになっていてびっくりですよ!(笑)そういったことにもいちいち親目線で感動しています(笑)
このチームはオリンピックまでにまだまだ伸びるチームだと思っていますし、みんなとそのオリンピックに行けるよう自分も頑張っていきたいと思っています」
■バスケットをやっている間は成長しかない(高田 真希)
「このチームは誰もがすごく気持ちが強く、決勝であそこまで中国に大差をつけられたのも、その強い気持ちが攻め気となって表れたからだと思います。個人的にこの大会を振り返ると特に出来がよかったわけではありませんが、勝負どころで使ってもらったときは自分のプレーができたと思っています。
私はよく“飄々とプレーする„とか言われますが、実は普段から冗談を言ったりするのが大好きで、ムードメーカーとまではいきませんが、よくバカなことを言ってみんなを笑わせています(笑)。それはベンチにいるときも同じ。ベンチが盛り上がればチームに一体感が生まれるし、自分がコートに出るときもモチベーションが上がります。そのためにも声を出してムードをよくしようということはいつも意識していますし、そういう面でも貢献できる選手でいたいと思っています。
今のチームでは自分より年下の選手も増えましたが、自分自身歳を重ねていろいろ経験を積んだことで、下の代の子たちの気持ちもわかるようになりました。だから少しは(チームを)引っ張っていけるようになった気がします。大きなケガをしてバスケットができない時間が続いたときは辛かったですが、また復帰できたときの喜びはすごく大きかったし、こうしてまた代表に呼んでもらえたことも含め、自分を成長させてくれたバスケットには本当に感謝しています。バスケットをやっている間は成長しかないと思っているのでこれからも全力で頑張っていきます」
■今度は自分自身のリオ行きを勝ち取りたい(篠崎 澪)
「このメンバーで優勝できたことがすごくうれしいです。国際大会としてはユニバーシアードで結果を残せた(4位入賞)ことは1つの自信になりましたが、それからこのチームに合流して改めてレベルの高さを痛感しました。吉田さんのパス、間宮さんや高田さんの1対1の強さ、身体の使い方のうまさ、栗原さんや山本さんのシュート力…もう1人ひとり挙げていったらきりがありませんが、とにかく最初に参加した合宿から圧倒されることが多かったです。
この大会ではベンチスタートで、自分が出ていい流れに変えられた試合もありましたが、やはり最後の中国戦とかは大事な場面では出番がなく悔しかったというのが正直な気持ちです。でも、それはまだ自分に何かが足りないという証拠だし、まだコーチの信頼を勝ち得ていないという証拠でもあるので、これから努力していくしかありません。リオの切符は勝ち取りましたが、私自身がリオにいけるかどうかはまだわからないので、これからさらに努力して自分の切符を勝ち取りたいと思っています」
■メンタルがぐいぐい成長できた大会(本川紗奈生)
「このチームはガードと4番、5番がしっかりしているので、あとは2番、3番がどれだけ仕事ができるかにかかっているとずっと思っていました。その中で自分は今までの女子代表チームではあまり見られなかった強気なドライブとかを頑張ろうと決めていたし、強気で攻めるプレーは自分しかできないと言い聞かせてそこを全面に出すつもりでコートに立ちました。そういう気持ちのこもったプレーはできたと思っています。
セミファイナルのチャイニーズタイペイ戦では2ケタリードを逆転される展開になりましたが、我慢して、どれだけ競ったとしても最後は絶対自分が決めやてるという気持ちでした。大会を通じて自分がもっとやらなきゃいけないという責任感も芽生えてきたように感じます。もともとすごく負けず嫌いでかなり攻め気が強いんですが、この大会を経験してさらに負けず嫌いになって、さらに攻め気が強くなって、メンタルがぐいぐい成長できたかなと思っています。
本当にすばらしいチームで、決していい試合ばかりではなかったんですが、みんなのレベルが高く「リバウンドを取ろう」とか「ディフェンスを今はもっと頑張ろう」とか言うだけですぐに共通理解ができて、コートの中で解決できる場面も多かったです。決勝戦はそんなみんなの力が結集して120%の力を出しきることができました。
私があの決勝戦で印象に残ったのはソウさん(栗原三佳)の最後の3Pシュート。ソウさんはこの大会調子が上がらなくて、スタートメンバーからも落ちて精神的に本当に苦しかったと思うんですよ。それを乗り越えて最後に決めたあのシュート、あの1本を見たとき、ああよかったぁと、ものすごくうれしかったです」
■戦いながら伸びていったチーム
チームを率いた内海知秀ヘッドコーチは決勝の中国戦を振り返り「スタートの時点を除いて私がすることは何もなかった」と笑った。「最初の5分で(チームの)エンジンが全開になったあとは自分たちでどんどんリズムに乗っていきましたからね」
だが、決して油断はしなかった。「長崎(2012年アジア選手権)で大逆転された韓国戦(最大17点のリードを覆されて敗戦)を上から見ていましたから、20点差は安全圏ではないと思っていました。勝ちを確信できたのは4Qの最初のシュートが決まったとき(7分、70-38)です」
このチームが持つ底力は大会前から感じていた。「チャイニーズタイペイを招いて3戦行った国際親善試合で手応えを感じました。こいつら本気出したら行けるんじゃないかなと。
大会に入っても本川、山本、町田(瑠唯)と若手の成長を感じることができたし、オフェンスだけではなく、チームとしてディフェンスがしっかりしてきたのが大きかったと思います」
それにしても完全アウェイの対中国戦、35点差の圧勝となるとはさすがのヘッドコーチも予想できなかったのではないか。
「そうですね、さすがにここまでの展開になるとは(笑)。ただ、このチームに力があったことは事実です。もちろん、まだ好不調の波は大きいですし課題はいろいろありますが、その分のびしろもあって楽しみも大きい。少なくともこれまで私が見てきた中では1番、間違いなく最強のチームだと思っています」