3位デンソーアイリスが2位トヨタ自動車アンテロープスにアップセットし、創部52年目にして初のファイナル進出を決めた。その瞬間、トヨタ自動車の5シーズン連続となるファイナル出場は途切れ、同時に初優勝へ向けた挑戦が阻まれた夜でもあった。
ケガを押して出場した久手堅笑美だったが、スピードを失ったトヨタはいつものようなアグレッシブなディフェンスが形を潜め、リズムを作れない。逆にデンソーが得点を重ねて行き、59-43でトヨタを破ってセミファイナルを突破。すでに2連勝し、女王JX-ENEOSサンフラワーズが待つファイナルへ、デンソーが勝ち進んだ。
激闘を終えた翌日、ファイナルへ向けた記者会見が行われた。ファイナルへ8シーズン連続出場を果たしたJX-ENEOSにとっては、勝手知ったる舞台。
「セミファイルではディフェンスリバウンドが全く獲れていなかった。もう少しアウトサイドで待つ選手がシュートを打ちやすいように、リバウンドを獲るという課題ができたので、ファイナルではしっかりできるようにしたい」
課題点を挙げながら、自分の考えを話すJX-ENEOS#10渡嘉敷 来夢は手慣れたものだ。
デンソー側にマイクが渡り、トップバッターとなる小嶋 裕二三HCは、「終わったばかりで、正直なところまだセミファイナルを突破した実感があまり沸いていない。これから延長戦が始まるという夢も見た」と、率直な心境を吐露していた。
キャプテンの藤原 有沙に至っては、初めて登壇するファイナル記者会見は、対面して座るこちらまでその緊張感がビンビンと伝わってくる。何とか会見を乗り切り、お互いに極度な緊張からひとまず解放された。一息つき、リラックスした状態に戻った藤原に、ファイナルへ向けての話を聞かせてもらった。
オールジャパンでJX-ENEOSに敗れた時からチームが上向き始めた
ー 以前、JX-ENEOSに1勝したことが自信になったと伊藤恭子選手が話していたが、キャプテンとしてはどうか?
藤原「あの時は勝つという気持ちが全面に出ていた試合で、そして結果として勝つことができ、確かにチーム全員が自信に思えた試合でした」
ー オールジャパンは準々決勝でJX-ENEOSを相手に63-67で惜敗。そこから、調子を上げて行ったシーズンという印象があるが?
藤原「オールジャパンでJX-ENEOSに接戦で負けた後から、徐々に個々の役割が明確になっていき、それに対してチームとしても共通理解ができるようになっていきました。それぞれの役割が全うできた時は結果が付いてきますが、そこがあやふやになった時は誰か一人に偏ってしまい、チームプレイとして成立しない状況でした。それが、オールジャパン明けから徐々に良くなって行ったという実感はあります」
ー その積み重ねがセミファイナルを勝ち切れたことにつながったのでは?
藤原「昨日(セミファイナル第3戦)は、一人ひとりの強い気持ちが全面に出せていました。また、個々の役割も果たすことができた試合でした」
ー 個々の役割とは逆に言えば、リーグ戦の前半は髙田真希選手に頼りすぎていたということか?
藤原「髙田に頼ってしまって、周りの選手たちの動きが良くなかった点が大きかったです。それはPGの伊藤(恭子)が一番感じていると思います。今シーズンから先発出場し、責任も感じながらずっとプレイしていました。チームをどうしたら良くできるか、と常に考えてプレイし続けて来たシーズンでもありますので、やっぱり伊藤が一番がんばっています」
ー 初めてのファイナル記者会見でもメチャメチャ緊張していた藤原選手。初めて向かうファイナルの舞台は平常心で臨めそうか?
藤原「2年前のオールジャパンで決勝に行きましたが、最初の出だしでガツンとやられてしまいました(2012年/デンソー 58-72 JX)。あの時は、準備期間もなく準決勝を勝った翌日すぐに決勝を迎えてしまった……言い訳ではありますが、心の準備が全くできませんでした。初めての決勝戦は、自分たちのプレイを全く出せずに終わってしまいました」
一夜にして雰囲気が変わったオールジャパン決勝戦
同じ質問を小嶋HCにも投げかけたところ、やはりオールジャパン決勝の時を例に挙げていた。
「準決勝と同じ代々木第一体育館のコートで戦っているのに、一夜にして雰囲気が全く変わってしまってすっかりお上りさん状態になり、試合が始まって5分間は何もできなかったです」
小嶋HCも、藤原も、この経験を生かして臨むファイナルとなる。
藤原「今回は1週間の準備期間があります。5戦3勝方式と違う点はありますが、決勝という舞台は同じ。オールジャパン決勝では、私と髙田と大庭(久美子)が先発でコートに立っていた経験があるので、その部分を生かしながら、3人がしっかりしなければいけないという気持ちはあります」
小嶋HC「あの時と同じようなことが起きる危険性があることは選手にしっかり伝え、そうならないようにメンタルを指導していきたいです。そのためにも入り方が大事であり、だからこそ準備が大事。いつも通りの準備をするしかないです」
藤原「やっぱり出だしが大事!だからこそ、1週間でしっかり準備しないといけません。セミファイナルでは3戦とも出だしが悪かったので、そこはしっかり修正していきたいです」
ー 第1戦目に、藤原選手や大庭選手が1本目からスパッと外角シュートを決めれば、どんなに気持ちが楽になることか?
藤原「間違いないです。そこです!」
今シーズンの通算成績は、オールジャパンも含めて1勝3敗。3敗中2試合は僅差のゲームであり、直近の対戦となった2月8日は59-58で勝ちきった。しかしこの結果も、ファイナルの舞台だけは単なる数字に変わる。
戦績は1勝2敗だったトヨタをセミファイナルで破り、シーズンMVPを受賞した髙田真希を擁するデンソーには勢いが味方している。そして、経験ではなく、勢いだけで勝ててしまうのも、ファイナルの恐さだ。
もちろん、JX-ENEOSが6連覇を達成する確率の方が高いのは揺るぎない。
WJBLプレイオフ ファイナルは、4月17日(木)より開幕するが、どちらが先に追い風に乗り、15代目の女王の座を射止めるのか?
WJBLファイナル
- 【第1戦】4月17日(木)19:00 JX-ENEOS vs デンソー@秋田県立体育館
- 【第2戦】4月19日(土)13:00 JX-ENEOS vs デンソー@福島県営あづま総合体育館
- 【第3戦】4月20日(日)13:00 JX-ENEOS vs デンソー@代々木第二体育館
- 【第4戦】4月22日(火)19:00 JX-ENEOS vs デンソー@代々木第二体育館
- 【第5戦】4月23日(水)19:00 JX-ENEOS vs デンソー@代々木第二体育館
※全試合NHK-BS1にて生中継
※3先勝方式のため、第4戦以降は開催されない場合あり
泉 誠一