「JX-ENEOS(サンフラワーズ)はたぶん、1つは負けるよ」
シャンソン化粧品シャンソンVマジックの木村功ヘッドコーチは1週間前からそう予見していた。選手たちにもそのように伝えていたという。追われるものと追うものの精神状態を鑑みての発言だった。その言葉どおり、JX-ENEOSはレギュラーシーズンの最終戦で富士通レッドウェーブに敗れている。
その1時間ほど前にシャンソンはトヨタ自動車アンテロープスを下しており、もしJX-ENEOSが勝っていれば、シャンソンのプレイオフ進出が決まっていた。しかしJX-ENEOSが負けたことで、翌日の最終戦(JX-ENEOSと富士通の対戦カードだけ他の5試合よりも1日前におこなわれていた)で、再びトヨタに勝たなければならない状況に追い込まれてしまう。
2年目のポイントガード・三好南穂は、そのときの様子をこう振り返る。
「JX-ENEOSが負けたのを知った瞬間は正直『何で負けたの?』っていう雰囲気がチームの中にありました。自分たちとしてはトヨタに勝った時点で、もうプレイオフ進出を決めたいって思っていましたから」
木村ヘッドコーチに予告されていたとはいえ、選手たちはどこかで「JX-ENEOSが負けるはずがない」という思いもあったのだろう。しかしほかのチームの結果を嘆いても仕方がない。すぐに気持ちを切り替えて、「自分たちがもう1回トヨタに勝てばいいんだ。明日も勝とう」という話になったという。
果たして3月23日、「第15回Wリーグ」のレギュラーシーズン最終日、シャンソンは再びトヨタとの大一番に臨んだ。勝つか、負けるかで、今シーズンの終わり方が決まる。しかしシャンソンは【58-70】で敗れて、2年連続プレイオフ進出の道を閉ざされ、同時にシーズンが終わるブザーを聞くこととなった。
その最終戦、最大の敗因はターンオーバー、つまりミスの多さである。トヨタの「14」に対して、シャンソンは「20」。追う立場のチームがミスを繰り返していては、相手を追い越すことはできない。むろんそれは「勝ちたい」という強い気持ちから生まれたミスでもある。3年目の本川紗奈生は言う。
「昨日トヨタに勝ったとはいえ、自分自身は不甲斐なかったから、今日は自分で勝ちたいと思ったし、初戦を勝ってくれたチームにも恩返しがしたいって思っていたんです」
だから第1クウォーターでチームの得点が止まっているとき、また第4クウォーターの終盤に追い上げる場面で、本川はそれぞれ積極的にゴールへとアタックしていった。ただ序盤のそれはタフショットとなってゴールに嫌われ、終盤のそれは致命的なミスになった。
そこには、もちろんトヨタの“思い”もある。前の週におこなわれたアイシンAWウィングスとの2試合目とあわせて2連敗。レギュラーシーズンの最終戦でも負けることになれば、シャンソンのプレイオフ進出決定もさることながら、トヨタとしても3連敗をしてプレイオフに入ることになる。優勝を目指すチームとしては、それだけは避けたい。
「(連敗は)バスケットの細かいところがどうこうという問題じゃありません。気持ちの問題です。どこかでプレイオフ進出を決めて、気持ちが緩んでいたんだと思います」
トヨタのポイントガード・久手堅笑美はそう述懐する。だからこそチームの基盤でもあるディフェンスで、もう一度立て直しを図ろうと考えたわけだ。
「シャンソンは三好さんや林(眞未)さんをはじめ、みんなアウトサイドのシュートがうまくて、昨日はやられてしまいました。だからまずは私のところでプレッシャーをかけようと考えました。オフェンスもディフェンスも、自分のところから始まるので、どちらも自分が先頭を切って攻めようって思ったんです」
その結果、久手堅のプレッシャーに対して三好は「ドライブで攻めることもできたのに、煽られっぱなしで逃げの姿勢になってしまった」と悔やみ、本川もまたトヨタのディフェンスについて「前日とは全然違って、強かったです。それでも行こうとはしたのですが、一方で周りも使おうかなという迷いもあって、ミスになったのかもしれません」と声を詰まらせた。
再び木村ヘッドコーチ。
「選手たちに気持ちはあるんですよ。今日も終盤、彼女たちの口から『粘り強くやろう』という言葉が出ていたし。でもその気持ちとプレイが伴わないんだ」
このあたりがトップリーグで勝ちあがっていくチームと、そうでないチームとの差だといえる。つまり、どのチームの、どの選手も「勝ちたい」という気持ちを強く持って戦っている。そこに大きな差異はない。しかしそれを「結果」として残せるか否かは、もう1つ上の次元の話であるわけだ。それこそが今シーズンのシャンソンというチームの現状――限界なのである。
「まだね、バスケットがわかっていないんだ。“チームありき”ということがわかっていない。個人を優先しているんだよね。その手本を示せる上級生も、残念ながら、いない。だから、いくら若くていい選手がいて、彼女たちを鍛えても、また同じことの繰り返しになってしまうんじゃないかな。ただね、地力はついていると思いますよ。昨年のチームなら、今日のような展開だともっと点差をつけられて負けている。でも今日は一度追いついたわけだし、そういう力は間違いなくついてきていますよ」
三好も昨シーズンと比べて「競ったゲームで勝てるようになったことは大きな収穫」だと言っている。もちろん課題はまだまだ山積みだが、レギュラーシーズンの結果が最終戦までどうなるかわからない展開のなかで、そうした収穫を得られたことは次のシーズンにつながるはずである。
「今シーズンのような体験はなかなか味わえるものじゃありません。本当は勝ってプレイオフに出られれば一番良かったわけですけど、それでも終盤の戦いは今後のバスケットにも貴重な体験になったかなと思います」
三好は悔しさを含みつつ、それでもしっかりと前を向いて、そう言った。
プレイオフ進出の最後の一枠を巡って争われた戦いは、同じ勝敗ながら、直接対決で勝ち越している富士通に軍配が上がった。しかし最後までヒリヒリするような展開の中に身を置いて、そこで敗れた経験もまた、若いシャンソンを今後一段と大きく成長させる起爆剤となりうるはずである。
3月23日をもって「第15回Wリーグ」のレギュラーシーズンが終わり、4月5日からはプレイオフ・セミファイナルが始まる。そこでは出場4チームすべてが一線に並んだ状態でリスタートする。ここからまた彼女たちの戦いは熾烈を極めていく。
対戦カード
- JX-ENEOSサンフラワーズ(レギュラーシーズン1位)×富士通レッドウェーブ(レギュラーシーズン4位)
- トヨタ自動車アンテロープス(レギュラーシーズン2位)×デンソーアイリス(レギュラーシーズン3位)
プレイオフ・セミファイナル日程
- GAME1 2014年4月5日(土) @ぐんまアリーナ
- GAME2 2014年4月6日(日) @国立代々木第二体育館
- GAME3 2014年4月8日(火) @国立代々木第二体育館
*セミファイナルは3戦2先勝方式なので、GAME3はおこなわれない場合もある。
文・写真 三上 太