ウインターカップはバスケットボールにおける国内最大級のビッグイベント。観客動員数はもちろん、メディアへの露出やTV中継の充実ぶりもピカイチだ。出場校のアンケートがベースになるメディア向け【報道資料】もチェックのしがいがあり、とても取材に役立つ。
パラパラページをめくっていくうちに気になったのが、『大会経験』という項目。登録選手15名の「ミニ(=全国大会)」「全中(=全国大会)」「Jr(=都道府県対抗ジュニアバスケットボール)」「総体(=インターハイ)」「国体」の出場歴を答えるもので、チェック(○)が多いほどキャリアが豊富ということで、チームの実力を計るバロメーターのひとつになるものだ。確かに下馬評の高いチームは、半数近くに○が付いていることもある。
男子で初出場を果たした6校のうち、最も○が少なかったのは県立生駒高等学校(奈良県代表)。『意気込みコメント』を見ると、29歳の植田直人コーチは、
“念願の全国の舞台で、厳しい練習を乗り越えてきた選手たちと一つでも多く試合がしたい”という言葉が記されていた。
インターハイ予選はベスト4
壁をぶち破った選手たち
──出場校の多くはインターハイや、全国レベルの大会経験者がいます。今夏のインターハイ予選はいかがでしたか?
植田:夏はベスト4。ウインターカップ予選でも決して優勝候補ではありませんでした。ただ、選手たちは向上心があり、チームワークを生かして頑張れる子が多かったんです。能力の高い選手が揃っているわけではありませんが、指導をしていても反応がいい。礼儀のことや勉強のこと、生活態度など厳しく接しているのですが、それぞれが考えて行動してくれます。
──就任2年目ですが、チームに手応えを感じていたのでしょうか?
植田:手応えというわけではありませんが、真面目な子が多い。目に見えて成長していく様子がわかりました。私自身、指導者としてはまだキャリアは十分ではありませんが、彼らと一緒に成長していきたい、そう思っていました。
──指導の際、特に強調していることはありますか?
植田:おとなしい子が多いので、目標を高く設定するという意味で“勝つ”ことに貪欲になれ、と言っています。勝てばいいというわけではありません。ただ、勝つためには努力を怠らない、最後まで諦めない、周りへの感謝を忘れない……そういうことの積み重ねが大事だと伝えています。1年をかけて、じっくりチームづくりに取り組めました。
──その成果として、いよいよ初戦を迎えます。緊張感やプレッシャーはいかがですか?
植田:ここまで来ることができたという達成感があります。気負いはありませんし、選手たちも特に緊張はしていないと思います。悔いのない試合をさせたいですし、いつも通りのプレイをして欲しいですね。
ハーフタイムのアップを終えるとコーチを囲んでミーティング。その後、選手たちだけで円陣をつくり、しばらく話し合っていた。自主性が芽生え、力がついてきた(植田コーチ)というのがわかる。
──コーチ自信のバスケットボールとの出会いは?
植田:近所の先輩に誘われてミニバスを始めました。面白かったですし、中学校の部活では県大会で優勝。高校(奈良育英)は推薦で進学しました。その後、大学は天理大へ進学し、バスケを続けましたが、指導者の道を考えていました。
──指導者としてのスタートは?
植田:中学の恩師の紹介で、中学校の外部コーチを務めました。教員になりたいと思っていましたし、もちろん、バスケ部のコーチも(笑)生徒の成長を実感できるのが、自分にとっては大きなモチベーションになります。
アンケートの『意気込みコメント』はコーチ、マネージャー、キャプテンが記入することになっている(コーチは先に紹介した通り)。マネージャーの矢野 開大くんは“選手が普段の力を出し切れるように、全力でフォローします”と記した。実は、同校には専任のマネージャーを置いていない。矢野くんはケガのため、しばらく一緒に練習ができないとわかり「スコア付けや雑用を引き受けよう」と、一時的にマネージャーの役目を果たしている。悔しさもあるが、コートサイドでウインターカップを体験できることをプラスに考え、練習合流に思いを馳せている。
キャプテン萩原 晋作選手のコメントはこうだ。“奈良県代表として精一杯プレイし、生駒高校の新たな伝統を築くため堅守速攻で頑張ります”……これはチームメイトやコーチ、スタッフ、父母など関係者も同じ思いだろう。
前述の通り、『大会経験』につく○は、現時点では少なくて当然。これから、“自分たちが新たな伝統をつくる”のだから、1ページ目は真っ白でいい。
試合前、満員のアリーナのコートサイドで試合を見つめる選手たちは落ち着いているように見えた。佐賀県代表・県立佐賀東と対戦した1回戦。なかなか得点できなかったが、開始3分、#7山中 将輝選手のミドルシュートが決まり、同校のウインターカップ初ゴールが記録された。
結果は55-88で敗退……初出場の余韻を味わったら、次なる目標は“全国大会1勝”へと書き換えられたはずだ。そう、“伝統”とはこうやって一つずつ積み重ねて出来上がっていくもの。最後まで諦めないこと、皆で頑張り抜くことの大切さを、身をもって体験しながらチームが成長し、大きな喜びへと変わっていくのだ。
文・羽上田 昌彦(ハジョウダ マサヒコ)
スポーツ好きの編集屋。バスケ専門誌、JOC機関紙などの編 集に携 わった他、さまざまなジャンルの書籍・雑誌の編集を担当。この頃は「バスケを一歩前へ……」と、うわ言のようにつぶやきながら現場で取材を重ねている。 “みんなでバスケを応援しよう!”を合言葉に、バスケの楽しさ、面白さを伝えようと奮闘中。