以前、当コラムで紹介した「FID日本男子代表チームのオーストラリア遠征」について、チームを率いた小川直樹ヘッドコーチ(日本FIDバスケットボール連盟理事長)から報告書が届きました。支援していただいた皆さまへの感謝と、改めてFIDバスケットボールへの理解を深めていただくために紹介いたします(一部抜粋)。
前回の記事 ⇒ http://bbspirits.com/column/fid150128/
平成26年度の日本代表チーム強化事業の一環として、オーストラリア・メルボルンで開催されたU20 &Ivor Burge Championshipsに男子代表チームを派遣した。日本とオーストラリアとは良好な関係にあり、2000年のシドニーパラリンピック以降、過去同大会に日本代表チームを3回派遣している。アジア・オセアニア エリアの一員として、国際知的障がい者スポーツ連盟(以下 Inas)のバスケットボール界を牽引していく役目にあり、互いに切磋琢磨している仲である。また、障がい者スポーツの先進国として大いに学ぶ部分があり、ミーティングの機会を多く設け、情報交流を行っている現状にある。
現在、(公財)日本バスケットボール協会(以下JBA)が国際バスケットボール連盟(以下FIBA)から制裁を受けている中、我々連盟としてもJBAの公認団体の一員として、大会参加に関しJBAへ確認を行った。一度は制裁の理由から出場不可という決定であったが、再度JBA、オーストラリアバスケットボール協会(以下 Basketball Australia)、オーストラリア障がい者スポーツ協会(以下AUSLAPID)、FIBA Oceania等と情報共有し、結論として障がい者バスケットボールは上部団体がFIBAではないため、正式に参加の許可が下りた。
今大会は、オーストラリアのU20とIDクラス(知的障がいの部)の各州選抜による国内選手権が合同で開催されており、日本で例えれば国民体育大会が該当すると思われる。日本では考えにくいが、健常者、障がい者関係なく、各州選抜同士応援している光景は、やはりスポーツ大国ならではと感じる。
会場となったDandenong Stadiumは、メルボルン市内から車で約40分、WNBLのDandenong Rangersのホームコートでもあり、バスケットボールコートが12面。今大会以外にも、地元のクラブチームやDandenong Rangersのアンダーカテゴリーが常に練習をしている。豪華な施設ではないが、地域密着型の大型コミュニティー施設であった。
U20の男女予選リーグ、またファイナルを観戦したが、特に男子は見応えがあり素晴らしいゲームであった。大会最終日の男子FINALはVICTORIA vs TASMANIA。VICTORIAは9Jock Perryの215㎝を筆頭に平均身長194㎝。対するTASMANIAは200㎝の選手が最高身長であり、平均身長は188㎝。両チーム共に非常に優れた運動能力とバスケットボールIQが高く感じられ、10代の選手が活躍している姿を見ると将来は非常に有望である。特にどのポジションの選手もシュートが非常に上手い。朝のトレーニング時に隣のコートで練習しているときにはよく観察したが、シュート練習にかける時間が非常に多い。優秀な選手はアメリカの大学(デビジョン1)に留学をするケースもあるらしく、日本の大学生(U20)もこのような大会で武者修行するのも良いと思うが。
さて、日本代表チームであるが、昨年末の代表合宿以来の招集であるが時差ボケもなく、到着翌日には2部練習を行い、コンディショニングと戦術の整理に努めた。キャプテンの#9高木、#10中川を中心に国際大会を初めて経験する#6高山、#7土井俊、#21栗澤をスタートとして起用し、機動力を高めたチーム編成とした。サイズは小さいが、アグレッシブなオールコートプレスからペイントエリアを小さく守り、ディフェンスリバウンドから速い展開に持ち込むバスケットを徹底して繰り返した。またハーフコートオフェンスでは、今年度徹底して繰り返してきた1-4エントリーから2メンゲームへの展開とし、#9高木、#10中川のアウトサイドシュートが成功するケースが多々見られた。
#4菊池、#5鬼塚、#8土井裕はファウルトラブルに見舞われた#6高山のサポートをし、#15太田、#22白鳥は#9高木、#10中川の控えとしてよく機能した。
予選リーグの3ゲーム全敗でチームは危機感を募らせ、最悪のケースが予想された。しかし、トレーニング時に再度確認をしながら順位決定戦に臨み、環境にも慣れ始め、結果としては好転した。特にBリーグ1位のSOUTH AUSTRALIAとの順位決定戦は、予選リーグのディフェンスから若干変更し、#6高山、#9高木、#10中川がディフェンスリバウンドによく絡み、オフェンスリバウンドを併せトータル63本獲得した。ディフェンスに集中できている分、オフェンスへの入り方もスムーズで、90点取れたことは大きな自信につながったと思う。
また、準決勝のTASMANIA戦であるが、予選リーグで敗戦しているため、メンタルの部分で大きな心配があった。コーチ陣のサポートもあり、終始リードしながら勝利することができた。特に#9高木、#10中川の活躍が光り、オーストラリアの関係者からも非常に高い評価をいただいた。
決勝戦のVICTORIA METROでは、体力的に非常に厳しく、テクニックとしても相手が数段上手であった。
気持ちを入れ直し、最終日のオーストラリア代表チームとの対戦は、互いに国の代表としての誇りを持ちながら戦うことができた。前半は非常に良いペースで戦っていたが、精神的にも肉体的にも限界に近いほど戦っており、ゲーム終了間際には#10中川にアキレス腱断裂というアクシデントが生じた。オーストラリア代表チームの理学療法士が直ぐに対応してくれ、帰国後オペを行い、順調に経過している。
今大会を通じて、自分たちが取り組んできたことが良い結果に結びつき、成功体験を多くすることが出来たと感じている。本当に通用するのかという不安要素が少なからず解消された。しかし、ファイナル、代表戦では戦い方が同じであったため、スカウティングもあるが対応されてしまった。敗因を分析し、世界で戦えるバリエーションを増やさねばならない。また、メンタルの部分も更に強化をせねばならない。環境になれるまで時間がかかり、慣れたころには大会が終了したという過去の苦い思いもある。
今回はチームメイト同士で話し合う機会を多く設けた。諸外国では自分を守れるのは自分とチームしかないということを繰り返し選手に伝えてきた。国内合宿であれば、情報は安易に入手し、また、買い物等も含めた行動は自由にできる。そのような部分も国際大会を初めて経験した選手は痛感したことであろう。
今大会期間中に、Inasのバスケットボールの今後についてさまざまな議論を交わした。特にInas Vice PresidentのRobyn Smith氏、同じくInasのバスケットボールディレクターであるLorraine Landon氏とはInasバスケットボール界の現状および問題点、またパラリンピックに競技として復帰できない現状整理、今後のエリア活動を含めた中長期的ビジョン(3×3競技含む)についてである。以上の内容はこの報告書では省くが、熱い議論を交わし、同じ方向性で進むことを共に確認した。
今回の派遣については、今年度の日本パラリンピック委員会の強化費を利用せず、渡航から参加費についてはすべて自己負担として出場したため、選手、スタッフには大きな負担が掛かった。連盟としては限られた枠の中で他の事業もあり、余分に予算を割けない現状にあり、派遣前に関係各所、各位に対し活動支援を依頼し、心温まる支援金を頂戴した。また、現地ではFacebook、連盟ホームページ等で情報発信をしたが、日本国内から多くのご声援もいただいた。バスケットボールに浸れる時間がどれだけ幸せかと想う反面、チームが不調な場合は異国では特にスタッフも心細くなりがちである。そのようなときに叱咤激励を頂き、誠に感激した。
このように多くの方々のご支援ご声援を賜りながら決行した派遣であったが、今年度の目標としている代表チーム、各選手の成長には手応えを感じ、本年9月のグローバル大会が非常に楽しみである。
最後に、今大会派遣に際し、上記したInas Vice PresidentのRobyn Smith氏、Inas Oceania PresidentのWayne Bird氏、同じくInasのバスケットボールディレクターであるLorraine Landon氏、Basketball AustraliaのJennifer De Gabriele氏には多大なるご協力を頂いた。Lorraine Landon氏はNBLのSYDNY KINGSのAdministration Managerであり、プロ球団の運営にも携われている。
私自身も現在、日本国内でプロチームに関わっているが、これも人の縁である。日本国内ではプロチームのゲーム開催時にIDクラスのエキシビジョンゲームを開催していることを伝え、プロチームがIDクラスを含む障がい者バスケットボールを支援していかねばならないと同じ意見に至った。
また、会議には現地ボランティアの方々にも協力をいただいた。メルボルン大学の学生で高橋さんは会議の通訳、Chenさん、Tunaさんは日常的な通訳、そして常に我々の活動に帯同してくれたドライバーのBarryさん。オーストラリア男子代表チームのSimonヘッドコーチ、Georgeアシスタントコーチには献身的に日本代表チームをサポートして頂き、本当に感謝している。
多くの方々にご支援ご声援を賜り成し遂げた今遠征。チームを代表し感謝の意を申し上げまとめとしたい。
小川 直樹
■大会概要
主催:BASKETBALL AUSTRALIA
主管:BASKETBALL VIC
名称:U20 & Ivor Burge CHAMPIONSHIPS Dandenong 2015
期日:2015年2月21日(日)~2月28日(土)
出場:=U20 Men=7チーム AUSTRALIAN CAPITAL TERRITORY(Ave:188.0cm)/ NEW SOUTH WALES(Ave:192.9cm)/ QUEENSLAND(Ave:193.7cm)/ SOUTH AUSTRALIA(Ave:193.3cm)/ TASMANIA(Ave:188.0cm)/ VICTORIA(Ave:194.0cm)/ WESTERN AUSTRALIA(Ave:176.4cm)
=U20 Women=7チーム AUSTRALIAN CAPITAL TERRITORY(Ave:174.8cm)/ NEW SOUTH WALES(Ave:180.4cm)/ QUEENSLAND(Ave:176.2cm)/ SOUTH AUSTRALIA(Ave:177.1cm)/ TASMANIA(Ave:177.1cm)/ VICTORIA(Ave:180.0cm)/ WESTERN AUSTRALIA
=Ivor Burge Men=8チーム AUSTRALIAN CAPITAL TERRITORY(Ave:184.9cm)/ JAPAN(Ave:179.1cm)/ NEW SOUTH WALES/ SOUTH AUSTRALIA(Ave:186.1cm)/ TASMANIA(Ave:177. 8cm)/ VICTORIA COUNTRY (Ave:184.6cm)/ VICTORIA METRO(Ave:182.1cm)/ WESTERN AUSTRALIA(Ave:187.2cm)
=Ivor Burge Women=5チーム NEW SOUTH WALES COUNTRY/ NEW SOUTH WALES METRO/ SOUTH AUSTRALIA(Ave:147.2cm)/ VICTORIA COUNTRY(Ave:149.8cm)/ VICTORIA METRO(Ave:153.7cm)
■FID日本代表チーム