今回のドナルド・ベック主催のトヨタバスケットボールアカデミー。講師は三菱電機ダイアモンドドルフィンズ名古屋のヘッドコーチ、アントニオ・“トニー”・ラング氏。ベック氏と友好な関係を昔から築く人物で、2人の友情と互いへの敬意が実現に結びついた形だ。
アメリカの名門DUKE大出身で、もはや伝説と言ってよいコーチKの元でプレーをし、NBAでも6シーズンプレーした経験を持つ。2001年に三菱電機に入団、選手引退後指導者の道に進んだ。
そんな“トニー”もベック氏同様、非常に熱のこもった指導スタイルで静聴する参加者を尻目に必要とあらば「ピック!みぎ!」と周りが飛び上がるほどの声をあげていた。
彼のディフェンス哲学と基礎が今回のセミナーの根幹部であったが、選手たちにいつも繰り返すのは“コミュニケーション”と“フィジカル”だという。しかも分かってもらえるまで何度も、何度も繰り返し、必要ならば練習を止める事もいとわない。そんな徹底した姿勢は「コミュニケーションはしすぎる事はない」という発言に集約されている。
セミナーに参加するだけで、長い日本での生活で培った日本語を時折織り交ぜながら、真剣に選手たちと向き合う現場が容易に想像出来た。
今回の参加者の中に、bj リーグ岩手ビッグブルズ 桶谷大ヘッドコーチの姿があったので話を伺ったところ、意外にも「自信につながった」という言葉が聞けた。トニーの哲学と共通する部分を確認出来て良かったという訳だが、勿論必ずしも共通しない部分からも参加者が自信を深め、刺激を得られるのがセミナーの良いところ。途中多くの時間を割いた、“選手の競争心を如何に引き出すか?”という部分で、桶谷HCは以前まで「選手達に罰を与える事に、以前までは抵抗感があった」と言いつつも、ゴールを明確化し競争させる環境づくりに新たに取り組む意欲をひしひしと感じた。
“There are many ways to get there, but the objective is to get there.”
(目的地にたどり着く手段は沢山ある。しかし、目的は“着く”事だ。)
今回、トニーが最初に言った言葉だ。
A地点からB地点に移るのに、あなたなら歩くだろうか?
自転車、自動車の人もいればヘリコプターで移動する人もいるだろう。ただ大事なのはB地点に着く事だ。
この理論をバスケットボールに置き換え、目標達成の為の試行錯誤は尽きない。5回目となった今回のアカデミーも互いを刺激し合う現場レベルでの交流の意義を強く感じた。