本文・松原 貴実 写真・三上 太
5月23日にスタートしたNBLファイナルは1戦目をアイシンシーホース三河(86-82)、2戦目をトヨタ自動車アルバルク東京(69-63)が勝利。1勝1敗で迎えた3戦目はアイシン三河が見事なスタートダッシュで1Q31得点の猛攻を見せ、トヨタ東京を寄せ付けないまま81-69で完勝した。
トヨタ東京が守りで勝ち抜いた第2戦
トップリーグの頂点を争うにふさわしい連日の白熱戦は日替わりでヒーローが誕生するが、2戦目で言えばアイシン三河のエース金丸晃輔をわずか2得点に抑えたトヨタ東京の菊地祥平の名が挙がる。試合後インタビューに答える菊地の顔にはこの日の仕事を成し遂げた達成感がにじんだ。
「やるべきことをやり切るだけ」(トヨタ東京#13菊地祥平)
今大会、菊地に課せられた使命は『金丸に仕事をさせないこと』。「金丸が自分と一緒に死ぬのであればそれでもいい」という気持ちで臨んだという菊地のディフェンスには鬼気迫るものがあった。
「金丸はレギュラーシーズンで平均20点マークしている選手。凄いシューターです。最初の1本が入ると次々決めてくる力があるので、その1本目をいかに嫌な状態で打たせるか、気持ちよくプレイさせないかがスタートで出る自分の役割だと考えています」
東芝ブレイブサンダース神奈川から移籍して2年目。プロ選手になりバスケットに向き合う時間が増えたことでコンディションも良好になり、自分の中に余裕も生まれてきたという。
「リーグ優勝というのは自分にとっても数少ないチャンスですし、勝ちたい、勝たなければという気持ちはもちろんあります。ですが、一方で勝ちにこだわり過ぎると視野が狭くなるという懸念もあるので、とにかく今はやるべきことをやりきる、それで結果がどう転んでも仕方ないと考えるようにしています。自分自身が変わったのはメンタル面で無駄に熱くならなくなったこと。もともと自分は熱くなるとファウルをしやすくなる選手だったのですが、このシーズン、チームで行っているメンタルトレーニングを受けたことで徐々に修正できてきたと感じています」
トヨタ東京では、専門のトレーナーをチームに招き、外国籍選手も含めた全員でメンタルトレーニングを行ってきた。
「たとえば自分を失いやすい要素をそれぞれが書き出し、そういう状況に陥ったとき、ある仕草で自分を取り戻す。そういう状況を自分自身でストップさせ、冷静な自分に戻る。そういった講義をずっと受けてきて、確かに変われたと感じています。前なら突っ込んでファウルをもらえないと引きずって次のディフェンスで逆にファウルをしてしまい、ファウルトラブルでベンチに下がるという悪循環もあったのですが、そういったことが今年は去年よりも少なくなり、このプレイオフでも気持ちに余裕が出てきたように思います。これはチーム全体にも言えることで、だれかが熱くなって審判に抗議しようとしたら周りが冷静に止めに行くというか、それが結果、チームにいい流れを与えていると思います」
3戦目以降への意気込みは?
「アイシンもこれからまた新たな対策を練ってくるだろうし、金丸もこのままでは終わらないと挑んでくると思いますが、自分がやるべきことに変わりはありません。エースに仕事をさせず、アイシンの勢いを止めること、それを最優先にして次戦に臨みます」
アイシン三河の攻め気が上回った第3戦
しかし、迎えた第3戦、菊地は「金丸もこのままでは終わらないと挑んでくると思います」という自身のことばを思い知る展開となる。
9分42秒、アイシン三河のファーストシュートを沈めた金丸はアウトサイドの長距離砲にこだわってはいなかった。ポストプレー、ドライブとパターンを変え果敢にリングにアタック。この変化にトヨタ東京の対応は遅れた。6分、インサイドに攻め込んだ金丸に菊地がファウル、これがバスケットカウントの3点プレイとなり17-6と差が開く。「スリーポイントに固執しなくても、オフェンスのバリエーションはいろいろある。とにかくリングに向かうことだけを考えていた」という金丸の姿勢が明確に表れたシーンだったと言えるだろう。リズムに乗った金丸は1、2戦の鬱憤を晴らすがごとく次々にシュートを沈め、終わってみれば29得点。これぞエースという圧倒的存在感を見せつけアイシン三河を勝利に導いた。
「攻めなければリズムには乗れない」(アイシン三河#14金丸晃輔)
「1戦目、2戦目は攻め気に欠けてリングに向かわず(ボールを持つと)パスを出すところばかり探していました。それはシューターとして一番やってはいけないことです。レギュラーシーズンは外、外とシュートを決めてそれで平均20得点とかしていたのですが、思えばそれに対してトヨタが対策してくるのはあたりまえのことです。その対策に対する対策が僕にはできていませんでした。それが1、2戦の結果です。昨日(第2戦)も外から狙うことばかり考えて、そこを守られるとボールにも触れない状況になってしまった。トヨタのスカウティングにまんまとハマってしまったわけです。シューターがシュートを打てなかったらお話になりません。そのお話にならない状況が昨日までの自分でした」
では、それを打開するためにはどうしたらいいのか。試合の録画映像を見ながらもう1度じっくり考えた。
「そのとき思ったんですね。レギュラーシーズンは外、外と攻めて、それで平均20得点できていたのは、なんていうか、それ自体が(自分の中の)誤算だったのではないかと。外に固執しなくてもオフェンスのバリエーションはいろいろあるわけで、リングに向かう、点を取るという意味ではどれも同じなんじゃないかと」
その思いが第3戦スタート直後からの金丸の『攻め手』につながった。
「僕の場合はシュートを決めてだんだん自分のリズムを上げていくタイプなんです。それがどういう形であれ攻めないことにはリズムに乗れない。だから、とにかく今日は攻めること、シュートを打つことを心がけました。幸い前半いいリズムをつかめたことで気持ちよくプレイすることができました」
エースが波に乗れば、おのずとチームも波に乗る。金丸が生きれば、チームに勢いが生まれる。アイシン三河の快進撃はまさにこの必勝パターンそのものだったと言える。
「でも、優勝するためにはあと1つ勝たなくてはなりません。次のゲームはこれがラストゲームだ、これに負けたら終わりなんだという気持ちで戦いたいと思っています。トヨタのディフェンスは手強いし、さらに強度を強めてくるでしょうが、負けません。たとえフェイスガード気味に守られても必ず打ち破ってみせます」
エース復活で手応えをつかんだアイシン三河がこのまま優勝へと突っ走るのか、それともリーグ随一のディフェンス力を持つトヨタ東京が待ったをかけるのか。力はまさに互角。大詰めを迎えた第4戦の攻防に期待が高まる。