オールジャパン&オールスターブレイクを終え、1月21日(水)に行われた平日ナイトゲームからNBL後半戦がスタート。1月7日にチームの活動停止を告げるギブアップ宣言をした和歌山トライアンズだったが、県協会がサポートする形で何とか13チームが足並みを揃えて再開することができた。
最大オンザコート2(2Qと4Qは外国人選手を同時に2人まで出場できる)を採用するNBLにおいて、どのチームも2人以上の外国籍選手を擁し、勝利を目指す。経営破綻し、新体制となって再始動したつくばロボッツでさえ、昨年末に3人目のデューク・クルーズ選手と契約。綱渡りで延命した和歌山がポール・ビュートラック選手のみなのは致し方ない。しかしもう1チーム、外国人選手が一人しかいないチームがある。
外国人を補強することなく後半戦突入
昨シーズン、31勝23敗と大きく勝ち越した成績を収めたレバンガ北海道。勝率が並んだリンク栃木ブレックスとのプレイオフ争いは、当該チーム間の対戦結果によるゴールアベレージ(得点÷失点)に委ねられた。北海道0.98に対し、たった0.04だけ上回ったリンク栃木が3位となり、悲願のプレイオフ進出はならず。
チーム史上最高の勝率で終えた昨シーズンだっただけに、2年目のフアン マヌエル ウルタド ペレスヘッドコーチ体制への期待度は高い。しかし、思い描いたような結果を得られず、今シーズン開幕2ヶ月で4勝12敗。11月30日アイシンシーホース三河に79-90で敗れたのを最後に、ウルタドヘッドコーチは解任された。同時に、211cmのチャド・ポスチュマス選手との契約を解除したレバンガ北海道は、補強することなく後半戦に突入したのである。
後半戦、最初の試合はトヨタ自動車アルバルク東京とのアウェイゲーム。和歌山からトヨタ東京に移籍して来たマイケル・パーカー選手に16点を挙げられ、59-77で北海道は敗れた。水野 宏太ヘッドコーチ代行が指揮を執り、この日でちょうど10試合目。勝利したのはつくば戦だけに留まり、あとは全て黒星。このチーム状況やロスターだけを眺めていれば、致し方ないと目を瞑りたくもなる。
しかし、現場で見たチームは何とか勝利を挙げようと、必死になって戦っていた。トップリーグであり、プロチームとしては当然のことと言えば、その通りである。ジェロウム・ティルマン選手しか外国人選手がいない状況ではあるが、日本代表で活躍したベテランが3人もいる(折茂 武彦選手、青野 文彦選手、桜井 良太選手)。水野ヘッドコーチも、トーマス・ウィスマンHC(リンク栃木)の右腕として、日本代表のアシスタントコーチを務めた経験の持ち主。北海道の今の状況は、海外チームを相手に戦う日本代表にどこか通じるものがあり、それぞれの経験を生かせば勝機を見出すこともできるはずではないか。
自分たちの色探し
自らのミスで24秒バイオレーションとなり、パスが合わずにアウト・オブ・バウンズとなる連携の悪さが目立つ試合でもあった。ヘッドコーチが交代し、チームとして再建途中であるがゆえのミスなのかどうか、水野ヘッドコーチに質問を投げた。
「答えとして直接的に全部が結びつくとは言えません。ただ、全く関係がないわけでもないと思っています。ターンオーバーに関しては、どんな状況であってもミスはミス。これまでのスタイルを引き継いでいる部分と、チームの状況が違う以上は変わってる部分もあります。そこで浸透しているところもあれば、まだまだのところもある。その2つが共存しているので、その浸透度を増していかなければ、まだまだ勝ちにつなげるのは難しいと思っています。でも、チャンスがないと思っているわけではないですし、そこは諦めるつもりもないです。継続し続けながらも、課題の修正だけではなく、自分たちの色をどうやって出すのかを突き詰めていきたいです」
残念ながら、国内リーグの現状は大なり小なり、外国人選手または帰化選手の活躍如何で勝敗が左右してしまう。オンザコート1の時間帯となる1Qは17-15とリードし、3Qは一気に点差を離された場面がありながらも17-23と6点差で凌いだ。日本人が踏ん張っている以上、欲を言えば外国人選手が欲しいところでもある。
「そこに話の焦点を当ててしまうと、話はそれだけになってしまいます。オンザコート1だ、2だというのは考えないようにしていますし、そこを言っても何もチームは変わらない。戦い方の幅をどれだけ広げて、オンザコート2の時間帯に1人しかいなくてもどのように戦って行くか、プレイの幅や質を深めて、さらに増やしていく方法だってあると思います。ただそれらを増やすだけではなく、どう遂行できるか精度を高めながら、折り合いを付けることも大事。チームの指揮を執ってる中で、外国人が1人しかいない状況を言い訳にしたくないし、するつもりもないです。その中で自分たちがより勝つためにも必要なものを、より突き詰めていくことが自分たちに突き付けられている課題でもあります」
今後、外国人を補強する予定はないそうであり、「それを見越したチーム作りはしていない」と水野ヘッドコーチはきっぱりと話していた。
インサイドはティルマン選手と、日本人最高身長となる210cmの青野 文彦選手しかおらず、この2人の負担は大きい。ティルマン選手は、トヨタ東京戦で39分50秒とほぼフル出場であり、36歳の青野選手は27分56秒。
「確かに負荷をかけてしまっているので、サイズが小さい中でどういう戦術や戦略でうまく変えて行くかも必要となります。彼らの負担をどれだけ短くできるかがチーム力であり、周りの選手たちがステップアップすることで変えられる状況にあると思っています。そうなるように試行錯誤していきたいです」
このチームをどうにかしたい!
当の本人である青野選手はインサイドの負担について、「そんなことはない」と否定した。
「前半戦に結果を出そうと意気込んでいたところに骨折が見つかってしまい、自分としてもすごくショックであり、悔しさともどかしさがすごかったです」
出遅れた分、自責の念に駆られる青野選手は、「もっとどうかしたいという気持ちの方が強い」と続ける。
その行動はコート上でも見て取れた。見た目の通り、大黒柱となる青野選手が周りの選手たち、時にはコートサイドの水野ヘッドコーチへ駆け寄って、大きな背中を丸めながら次々と声をかけ、ディフェンスでは最後方から檄を飛ばす。
「このチームに来たときから言い過ぎというくらい若い選手たちに声をかけており、嫌われ役になっても構わないと思いながら、これまで僕がいろんな監督に教えてもらったことを、みんなに受け継ごうと思って伝えています。それが間違っていることかもしれないですが、とりあえず言葉を発していこうと思って声をかけています」
若い選手たちも勝利を目指し、持てる力を発揮。これまでの経歴やその後の成長を見てもポテンシャルは高い。だからこそ、青野選手も期待を込めて、全ての経験を彼らに注いでいるのだ。
「チームに合流した最初の印象として、みんな一生懸命に練習をするというのがすごく伝わってきました。あとは経験と知識を教えれば、もっと良いチームになるのではないか、と思ったわけです。本当に一生懸命取り組む選手ばかりなので、どんどん教えていけば、吸収して成長してくれると思っています」
青野選手がベンチに下がれば、小さくとも動ける選手が5人になることで、ゾーンディフェンスからフルコートでプレスに切り替わる緩急あるディフェンスは一つの武器であり、明るい兆しが見られた。
「今はコートに出てる選手たちそれぞれの特長を意識しながら、できることを引き出していきたいと思っています。その精度が良いときと悪いときのバラつきがまだあり、自分の中でもまだまだ課題は多いです。戦術に偏ってプレイさせるつもりはなく、一人ひとりの質に合わせた成長が大事であり、それがチーム力につながります。その両方をしっかり見てバランス良く成長につなげていきたいです」
水野ヘッドコーチが言うチーム力。それこそが勝機を見出すためにも最も必要な力である。
飛行機が嫌い……
昨シーズン、青野選手はウエスタンカンファレンスを制し、ファイナルまで進んだ和歌山トライアンズの一員だった。ファイナルでの前日会見で、「プロチームが勝った方が盛り上がるでしょ」と言っていたのが印象深い。しかし、その後の和歌山は経営難が表面化し、全選手との契約を解除。青野選手も自由契約選手として放り出されてしまった。路頭に迷う青野選手のもとには、いくつかのチームからオファーがあった中で北海道を選択。
「移籍を考えた時、他のプロチームを比べてもおもしろいと思ったは北海道であり、それが決め手でした。このチームがまだプレイオフに出たことが無いということも知っていたので、まずはそこを目標にしています」
本州とは陸続きではない北海道は、どこへ行くにも飛行機移動を余儀なくされる。大柄な青野選手にとっては一番過酷な選択だったはずだ。
「僕は一番、飛行機が嫌いなんです。これは今も変わらず、やっぱり慣れない。折茂さんにもそこは諦めろ、と言われてます(笑)」
その昔、日本代表合宿時に新幹線での移動も苦である210cmは、大阪から東京まで車で移動してきた。それほど公共交通機関の利用はあの体躯には苦痛であり、途中下車できない飛行機はその最たるものなのだ。さらに、愛息と戯れることが趣味の青野選手にとって、家族と離れて暮らす単身赴任。飛行機嫌いゆえに、おいそれと帰省するわけにもいかないほど遠く離れている。それでも、「このチームをどうにかしたいし、このまま終わるのは自分でもすごくイヤだ」と決意は固い。
今のチーム状況に言い訳をせず、どんな環境であれ、結果を出すのがプロである。勝つことこそが、周りを納得させる最善の策なのだ。
「ウルタドHCをすごく尊敬していました。彼から学んだことを含め、日本人選手の成長をより突き詰めていかなければならないでしょうし、そこを自分たちがどれだけできるのか、どれだけ戦えるのかというのを示すことによって、チームの存在価値や行動の是非をファンの皆さんに見ていただけると思っています」
リンク栃木の時も一時、ヘッドコーチ代行を務めた。しかし、状況はあの時とは全然違うとも言う。再び代行とはいえ、チームのトップに立つこの状況に対し、チャレンジ精神を持って真っ向勝負している。
「このリーグを見れば、日本人ヘッドコーチの数が少ないです。それが悪いことではなく、いろんな国のバスケ文化を学ぶことは、確実に日本の成長にとってプラスとなることを分かった上で、やはり自分が一人のコーチとしてどれだけ成長しなければいけないのかという現実に向き合いながら、このリーグで指揮を執れるという力をつけるためにも日々やっていかなければならない。自分にとってもすごくチャレンジだと思っているので、それに見合った成果や働きを突き詰めていきたいです」
日本人選手が台頭できるチャンス
Jリーグが発足し20年余り。今では3人の外国人枠をフルで使うチームも減ってきている。昨年のJリーグで優勝争いに絡んだ2位浦和レッズは先発メンバーに外国人選手は一人もいない。プロ野球も一昔前は4番打者はどのチームも助っ人外国人が居座っていた。しかし今では日本人選手がその重責を担うケースの方が多い。オールスターゲーム前の7月16日の試合では、前12チーム中9チームにおいて、日本人が4番を任されていた。
コンタクトスポーツであり、5人しか出られないバスケットではあるが、日本人選手が外国人とのチーム内でのポジション争いを制し、勝利することが望ましい。日本代表が強くなるためにも、早くその日が来なければならない。今、それに一番近いのが北海道であり、そこに一縷の希望を抱く。
ウエストバージニア大学での留学を経て、ウィスマンHC(リンク栃木〜日本代表)、シレイカHC(リンク栃木)、ウルタドHCなど様々な外国人指揮官の下で学び、日本代表でも経験を積んできた水野ヘッドコーチ。32歳と年齢こそ若いが、その経歴は濃い。己を信じ、仲間を信じて、北海道でその力を存分に発揮していただきたい。
他の記者の方々との囲み取材が終わった後、挨拶をするために水野ヘッドコーチに一歩近づく。
「悔しい……このチームで勝ちたい」と噛みしめるような言葉を発した。顔を上げたその目は、赤く染まっていた。
1月24日(土)18:00 北海道 vs 日立東京@ケーズデンキ月寒ドーム
1月25日(日)16:00 北海道 vs 日立東京@ケーズデンキ月寒ドーム
北海道の熱いファンは奮起しており、これまで集客数は1,516人でリーグ3位。ケーズデンキ月寒ドームでのホーム開幕戦は連日2千人を集め、これまで4度あった同会場での試合も3回は2千人を越えている。そして今週末には再びケーズデンキ月寒ドームで、イースタンカンファレンス首位の日立サンロッカーズ東京を迎え、ホームゲームが待っている。
多くのファンの声援は一人分のディフェンスとなり、一人分のパサーとなって必ずや勝利をアシストするはずだ。
泉 誠一