今シーズン開幕戦直後、チーム運営会社の経営状況悪化が表面化し、リーグ管理下となったつくばロボッツ。厳しい状況はさらに続く。12月1日には新運営会社との契約締結に至らず、ロスター15人中11人が自由契約選手リストに名前が載った。
12月6日にホームゲームが待っているにも関わらず、選手が4人しかいない。キャンセルゲームという汚点を残してしまうのかと心配されたが、スタッフと残った選手が奔走し、千葉ジェッツ戦までには10名を揃える。60余万人の競技者登録数を誇るバスケだけに、ロスターの座を虎視眈々と狙う選手もまた多い。
試合前々日の12月4日、NBLへの入会承認が下り、滞りなく試合日を迎える。そして、少なからずファンが会場へ足を運び、声援を送ってくれた。
選手主導で「満席プロジェクト」を行い、975人を集客した開幕戦以来となる本拠地・つくばカピオアリーナでのホームゲーム。12月19日(金)は302人、翌20日(土)は414人と集客面はあいかわらず振るわない。
自由契約となった選手たちが連名で、今回の件についてSNSを通じて声明文を投じた。情けをかける声は多いが、次なる契約に漕ぎつけたのは、今のところ加納 誠也選手(千葉ジェッツ)ただ一人である。
この状況に、“同情するなら金をくれ”というセリフを思い出す。
各々の心にあるバスケ愛を全うする形でチームを離れた選手、そして残った選手がいる。後者はどのような思いで、コートに立っているのだろうか──。
何もせぇへんかったらそれまで(#19中村 友也選手)
チョモの愛称で人気は高く、昨シーズンはオールスターにも出場した中村 友也選手。一度は自由契約となりながらも、つくばとの再契約を果たす。
「もう一回バスケットをしたかったからです。そして、家族や周りの人たちの後押しがあったからこそ、戻って来られました。自分の中でどうしたい、どうしたら良いのかを考えましたが、ここで辞めてしまったらゼロになってしまう。一度、自由契約者リストに載りましたが、こうしてまたコートに戻ってプレイできていることに対し、周りの方々にホンマに感謝しています」
今シーズンのつくばは、経験豊富な高身長の選手たちを補強。「モチベーションが高かったです。練習していても楽しく、刺激的でした。自分の中の闘争心がメラメラと燃えていました」と中村選手は振り返る。しかし、期待された選手たちがチームを離れたことでプレイタイムは自ずと増加。昨シーズンは平均8.8分だった出場時間が、12月以降はスタメンで起用されており、20分を軽く越える。ラマー・サンダース選手がケガで欠場中のここ3試合は、30分以上コートに立ち、奮闘している。
「やはり外国人とのマッチアップは当たりも強いですし、そこは大変です。でも、勝つ試合を早く見せたいですし、会場に来てくれた人を感動させたい、そういうゲームをしたいです。まだ練習もそこまでできておらず、新しい外国人も来るので、これから上げていきたいです」
最後までファンからの要求に応じる中村選手ならではのプロフェッショナルな姿が、今回のつくばでも変わらずに見られた。
「こういう状況ですけど、みんなで一緒になってがんばっていかなければいけない。ホンマに家族にもだいぶ負担をかけていると思います。子供も二人いるんでね。それでもがんばってプラスに変えていくしかないですし、何もせぇへんかったらそれまでです。とりあえず、お父ちゃんががんばるしかないです。つくばを応援してください」
僕としてはやり続けることがプロ(#10中川 和之選手)
「最初から残ると決めていました」
他の選手たちの判断を尊重しつつも、中川 和之選手は自らの意見を説く。
「このような状況はアメリカで経験しています。(ロングビーチ)ジャム(当時ABA、現NBA Dリーグ)の時には、田臥(勇太)さん(リンク栃木ブレックス)だけ残して選手が総入れ替えになったり、bjの福岡(2008年)の時も厳しかったですし、いろいろな経験をしています。ビジネスはビジネスとして考えなければいけない部分があるので、僕の価値観はみんなとは少し違っていたのかもしれません。それはしょうがないところです」
大学を卒業した2004年からアメリカへ渡り、明日の契約や生活さえ分からないプロの道を歩んできた。そんな中川選手にとってのプロフェッショナル論とは?
「チームの看板を背負ったからには、やり通すところだと自分は思っています。みんなそれぞれのプロフェッショナル論があると思いますが、僕としてはやり続けること」
キャプテンとしての責任があったのかもしれない。大きく変わったチームを一つにまとめようと尽力している。
「経験の浅い選手が多く、緊張したり気を遣ったりするところがあると思うが、そこをできるだけほぐせるように、毎日コミュニケーションを取るようにしています。チームを一つにするのは時間をかければできることですが、今のつくばにはそんな時間ももう無いので、そこは意識して取り組んでいます」
まだまだ苦しい状況が続いているが、それでもファンは声援を送ってくれた。
「ものすごくありがたいことです。もちろんこれまでもファンの皆さんには感謝してきたつもりでしたが、この状況だからこそ今まで以上にその気持ちが強くなっており、もっと大事にしなければいけないと思わされています。今ごろ気付いている場合ではないですが、本当にその気持ちは強くなりました。そのためにも、とにかく戦う姿勢は絶対に見せていき、その中で必ず1勝できる日が来ると思っています。ケガをしたら元も子もないので、そこは気をつけていきたいです」
このまま終わりたくない(岩下 桂太ヘッドコーチ代行)
選手だけではない。急きょチームの指揮を執ることとなった岩下 桂太ヘッドコーチ代行にも、少なからず葛藤があった。
「ダンテ・ヒルHCとは3年間一緒にやってきましたし、兄弟のように仲が良かったです。彼との関係も良好だったのですごく迷いましたし、難しい判断でした。でも、迷ったのは一瞬であり、次のステップを踏み出すためにも、このオファーを受けようと決めました。チームが危機的状況であり、プロの世界であれば当たり前のことだ、とダンテも理解してくれていました。今、この環境でバスケットができているのは、本当にありがたいことです」
現在26歳、リーグで一番若い指揮官が誕生した。ヒル前HCに学んだことをベースにしながらも、岩下HCが目指すべきバスケットとは?
「選手一人ひとりの能力にあったバスケをさせたい。シューターが少なく、他のチームに比べてサイズが低いので、スローテンポにして両チームの攻撃回数を減らし、そこから確率の高いところでシュートを打っていこうとしています。もちろん選手によって、スタイルは柔軟に変えていきます。それが僕のコーチング哲学です。まだまだ目指しているものにはほど遠いですが、確実に今日の試合でもチームは良くなったところがたくさんありました。それが、やっていて楽しいところです」
練習環境はまだまだ十分とは言えない。観客がいなくなった試合後のコートでは、36分54秒出場したジャスティン・レイノルズ選手が黙々とシュートを打ち続ける。35分52秒出場した中村選手も、「今日は全然シュートが入らなかった」と言いながら、同じくシューティングをしていた。新しく来たメンバーたちは、少しでも上手くなろうと練習を続け、いつまでもコートを去らない選手たち。
「今日の試合、残り16秒でつくばのオフェンスでした。これだけ差がついていれば(最終結果53-79)、そのまま流して終わらせて良い場面ですが、マイボールであれば最後のワンプレイで少しでも良いプレイをお見せしたい。だから、絶対に流して終わらせたくないんです。絶対に最後のワンプレイで得点を決めて終わろうぜ、と。小さいことですが、熱い気持ち、熱いプレイをファンの皆さんに届けたいですし、僕がファンの立場だったらそれがうれしいと思うんです」
コートに立って会場を見回すとファンがいる。「涙が出そうでした」と言う岩下HC。
「ここから新たに応援してくれるファンをどれだけ獲得できるかが、僕らに課されている使命です。がんばりたいです。このまま終わりたくない」
悲しかったけど……
ファンもまた、様々な思いを巡らされた。
チームが無くなりそうになった時、「悲しかった」と言うのは、サンタ服を着て声援を送っていた陣内 麻衣さんと千葉 昌代さん。
「応援するのをやめようとも思いましたが、残ってくれた選手がいますし、その選手たちのがんばってる姿を見て、応援し続けようと思いました」と陣内さんが続けた。
しかし、選手がガラリと変わったチームに対しては、「今シーズンは、新しく来た選手たちもすごく良い方たちばかりでしたので、すごく楽しかったんです。だから余計に残念でしたし、悲しかったです」と寂しい表情を見せる。
それでも、「茨城県民としてつくばロボッツを愛し続けて行こうと思います」と千葉さんがチームへのメッセージを残し、ハーフタイムが終わると再び声援を送り続けた。
デイトリックつくばから経営者が変わってつくばロボッツとなり、1シーズンを終えた。2シーズン目、再び経営者が変わるも、つくばロボッツは存続する道を選んだ。
石の上にも三年。
鳴かず飛ばずの中でも三年継続すれば、道が開けることはこのことわざ通りよくあることだ。
経営破綻、11人もの自由契約選手を出したことで信頼を失い、つくばはマイナスからの再出発を余儀なくされた。さすがは茨城県のチームであり、自ら茨の道を選択したわけである。
しかし、ここでプレイする選手たちにとっては、最大のチャンスを手にした。県外の雑音を黙らせ、茨城県民やつくば市民の信頼を回復し、さらなるファンを増やすための戦いが始まった。そのためにも、早く1勝目を挙げたい。プロは結果が全てである。そして、地域がチームを誇れる財産だと思ってもらえるよう、この逆境を乗り越えねばならない。
自由契約選手としてチームを離れなければならない自体を巻き起こしたことについても、うやむやにすることなく、同じ轍を踏まぬよう検証していく必要があることもまた忘れてはいけない。
泉 誠一