NBLファーストシーズン(2013-2014)の成績は10勝44敗。ウエスタンカンファレンス6チーム中4位。3位の三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋(29勝25敗)とは11ゲーム差。順位は1つしか違わないが、プレイオフにはほど遠かった。JBL2からトップリーグにステージを上げた昨シーズンだったが、旧JBLで活躍した選手は中川 和之選手ただ一人であり、経験の差が結果に現れたとも言える。
しかし今シーズンは、JBL経験者を5人増やして補強してきた。日本代表の岡田 優介選手(←トヨタ東京)をはじめ、地元茨城県出身の高島 一貴選手(←アイシン三河)、身長がありシュート力もある佐藤 託矢選手(←千葉)、加納 誠也選手(←三菱電機)、鹿野 洵生選手(←日立東京)を獲得。佐藤選手を除き、他の4名は土浦日大高校や筑波大学出身であり、茨城でのグラスルーツを持つ。
プロチームとしての意識が変わった今シーズン
まだJBL2のデイトリックつくばであった2012-2013シーズンに入団し、3シーズン目を迎える大金 広弥選手。昨シーズン、チーム内で54試合フル出場を果たしたのは、浅野 崇史選手と大金選手の二人のみ。プレイタイムは平均17.4分であり、バックアップPGとしてチームに貢献。つくばしか知らない24歳の大金選手にとって、経験豊富な選手たちの加入はプラスでしかない。
「練習からチームの雰囲気が変わりました。昨シーズンまでは、まだまだあいまいな部分がありましたが、今は意識を高く持って練習から取り組むことができています」
厚みを増したつくばだが、その反面、まだまだチームとしては未成熟。しかし、長いシーズンをともに戦って行くことで、足りない点は時間が解決してくれるはずだ。
「選手同士のコミュニケーションは多く取れているので、問題はありません。これからしっかりとしたバスケットができてくるでしょうし、移籍した選手が来てくれたことでチームは良い方向に向かっていると思っています」
同い年の加納選手以外、移籍組は年上ばかり。
「いろいろとアドバイスをしてくれますし、それを参考にしています。自分も気付いたことがあれば意見を言うようにしていますので、そこはお互いに良いコミュニケーションが取れています」
234人→975人、それでも良い活動だった
その中でも、ストイックな岡田選手から見習うことは多いそうだ。
「コート内でも、コート外でも本当にたくさんあります。お手本のような人間なので」
バスケットに関してもさることながら、昨シーズンのホーム開幕戦での234人という数字を打破するために、満席プロジェクトを岡田選手が発案。
「昨シーズンまでは選手からこのような活動をするという発想はありませんでした。岡田選手がアイディアを出してくれて、お客さんも昨シーズンに比べると(開幕戦は)多かったので、すごく良い活動だと思いました」
目標としていた1500人には届かなかったが、それでも確実に集客は伸び、応援される喜びを実感することができた。
つくばの印象は、明るいチームであることだ。ウォームアップから声を掛け合い、ハドルを組んで士気を高めて試合に臨む。試合中はベンチメンバーがしっかり盛り上げ、空席が目立つ会場を選手自身がホットにさせてくれた。一度見れば、“ともに戦いたい”と思ってもらえるような気がしてならないのだが──
ホーム開幕を終えたが、チームの経営状況は悪化
ホーム開幕戦を終え、第2節のアウェイ千葉ジェッツ戦を迎える前の10月18日。
“「つくばロボッツ」を運営する株式会社いばらきスポーツアカデミーの経営状況悪化に伴い、当該チームを当面リーグの管理下において運営することを決定”というリリースがNBLから流された。
思い出されるのは、2012年の大分ヒートデビルズだ。同じように経験豊富な選手を獲得し、つくばとは違って快調に勝ち星を積み上げていたのも束の間、経営難が表面化し、その年の12月に運営会社がリーグ退会を申し入れる。その結果、リーグが運営してそのシーズンを凌ぐ形となった。
もちろん審査基準に盛り込まれているとは思うが、スポンサー収入もさることながら、集客数も合わせて試算しなければならない。ホームとするその土地で、どれほど集客を見込めるのだろうか。
茨城県はバスケに熱い街であるのは間違いない。土浦日大高校があり、筑波大学もあり、クラブチームも盛んだ。WJBLには日立ハイテククーガーズが、そして以前はJBL2に属していた日立金属(現在関東実業団リーグ)もある。
しかし、試合を観に行くための公共交通手段は劣悪だと言わざるを得ない。
開幕戦が行われたサイバーダインアリーナは、つくば駅からほど近い好立地だが、そのつくば駅が走るつくばエクスプレスが結ぶのは東京だ。土浦や荒川沖、牛久といったつくばと隣接する街であり、茨城を縦に走る常磐線の駅とはつながっていない。バスの本数も多くはない茨城において、車が無ければ見に来るのは一苦労。隣町から迎えるのは、かなり敷居が高い状況なのだ。
茨城でも成功例はある。鹿島アントラーズは、オラが街のクラブとして一気にスタジアムを埋めた。今は分からないが、当時は鹿島まで行く道のりは1本しか無く、正月には鹿島神宮への参拝客で渋滞を引き起こすほど。アクセスの悪い立地条件ながら集客できている。
また年に1度だが、土浦全国花火競技大会には、これまた上野から一本しかない常磐線に揺られて多くの人がやって来る。
過去にはつくばが賑わった時もあった。1985年、つくばエキスポ(科学万博)が行われ、国内外から人が押し寄せた。当時はつくば駅やつくばエキスプレスはなく、電車など通っていなかった。土浦駅や荒川沖駅からシャトルバスが運行され2〜30分ほどかけて会場へ運ばれていった。一般人だけではなく、特設スタジオでは毎日のようにタレントが現地から特別番組を発信し、ライヴにはケニー・ロギンスがやって来た。まだトップガンは封切られてなく、フットルースで盛り上がったものだ。
つくば市民=22万人
つくば市の人口221,119人(2014年10月1日現在)。1シーズンに28回あるホームゲームにおいて、市民が1回しか来なくても毎試合約8千人を埋めることはできる。これは稚拙な単純計算であり、他のチームであれば10倍以上となる場所もあるので、集客は難しく厳しい作業だ。バスケだけに限らず、Jリーグでも言われてることであり、どのチームも様々なアイディアや地道な努力をしながら観客を集めることに必死だ。
つくばのホームページを見るとメインスポンサーにサイバーダインがあり、その他はメディアパートナーも含めて9社のみ。合計10社。平均2千万円を支払ってくれれば、ある程度は見通しが立つ話だが、そうではないから経営難になったのだろう。
茨城には、地域に根付いた企業がたくさんある。つくばに本社を持つ茨城県民の生活を支えるカスミ。隣町の土浦だがジョイフル本田は、東京進出を機に今では全国区となった。COCO’Sは、今でこそ港区に本社があるようだが茨城から大きくなっていったファミリーレストランである。他にも県民に愛される店舗や企業はあるが、スポンサーには名を連ねていないのが残念だ。
筆者は小学校1年の時に親の都合で強制的に引っ越され、その後12年間を茨城に住んでいた。だから、そのヘンピな土地柄はよぉ〜く分かっている。
今週末は、大金選手の母校がある水戸でホームゲーム
リーグ管理下となったつくばは延命処置が施され、試合は続く。
今週末に行われる第3節はつくばを離れ、水戸の茨城県立スポーツセンターでホームゲームが行われる。今回、お話しを伺った大金選手は、水戸商業高校出身。水戸と言えば、それ以外にも水戸工に水短(2つあったのだが“すいたん”と呼ばれていたのがどっちだったかは定かではなく、今は水戸短期大学附属高等学校→水戸啓明高等学校と水戸短期大学附属水戸高等学校→水戸葵陵高等学校となってるようです)と強豪校があった。アラフォー世代であり、同じ時代にバスケに青春を傾けた水戸市内の強豪校出身の方々にも、ぜひとも試合を見に行ってもらいたい。
「まずはプレイオフに出ること!そこに行けば何が起こるか分かりませんし、優勝を狙えます。イースタンカンファレンスに来たことで大変ではありますが、狙えない位置ではないと思っています」
大金選手を始め、昨シーズンにつくばでプレイした選手たちもNBLでの経験を積んだ。チームは厳しい状況ではあるが、コートに立てる以上、全力で勝利を目指さねばならない。
今後、チーム再建の見通しがあるかどうかは定かではないが、勝てば何が起こるか分からないのも、スポーツビジネスの醍醐味である。勝つことでその存在を知らしめ、地域に根付いて行くことが大切だ。
10月25日(土)15:00 つくばロボッツ vs リンク栃木ブレックス@茨城県立スポーツセンター
10月26日(日)14:00 つくばロボッツ vs リンク栃木ブレックス@茨城県立スポーツセンター
泉 誠一