NBLのレギュラーシーズンは残すところ4試合。6チームずつに分かれた東西各カンファレンスの3位までに入れば、5月からのプレイオフに進出できる。残りは1枠。その1枠を巡り、1ゲーム差で熾烈な争いを繰り広げているのが、リンク栃木ブレックス(3位)とレバンガ北海道(4位)だ。
“生き残りを賭けて”……まさに今のチーム状況を表わしているが、北海道に所属する道産子、多嶋選手は何度もこの言葉を口にした。
多嶋 朝飛 Asahi Tajima
ポジション:G 身長/体重:173cm/73kg 生年月日:1988/10/8 出身地:北海道 出身校:北陸高-東海大
2011-2013:リンク栃木ブレックス/TGI D-RISE
2013- :レバンガ北海道
チームのオフィシャルサイトに掲載されているプロフィールにはこうある。ここに少し追加すると、出身地:北海道帯広市、出身校:大空小-大空中-北陸高-東海大。あるSNSの自己紹介によると(SNSを始めた当時の記載)、
『両親の影響を受け、物心がつかないうちからバスケットを始め、“習い始めた”のは小学3年生から』。“習い始めた”とはユニークな表現だ。一番悔しかったこととして挙げたのは、『2012-2013シーズンJBL2プレイオフで負けたとき』
シーズン中、同時に2チームに在籍!?
昨シーズン、JBL2 のプレイオフを取材した。D-RISEはセミファイナル、3位決定戦と連敗し、プレイオフには進出したものの4位。
「あの時はケガもあり、チームに迷惑をかけてしまいました。連敗は悔しかったし、悔いが残っています。どのカテゴリーであれ、優勝を狙えるチャンスがあったのに本調子ではなかった」。自分が腹立たしくもあるのだろう。
このシーズンはD-RISEの一員として試合に出ていたものの、練習はリンク栃木で行うことがほとんど。コールアップされ、15試合に出場したがプレイオフになるとD-RISEでプレイした。1シーズンで2チームの所属する、そんなシーズンを送りコンディションづくりやチームプレイの面で難しさはなかったのだろうか?
「何事も経験ですから。行ったり来たりでしたが、自分が生き残るためにはどんな状況であれ、頑張るしかありません。シレイカHCの下で(大きな括りで言えば)ヨーロッパスタイルのバスケに触れられたし、それは今シーズンにつながっています」
今シーズン、多嶋選手はステップアップし、トップリーグでプレイオフ進出争いを続けている。
チームメイト、ライバルが成長の糧
苦しい状況、難しい局面を乗り越え成長するのが多嶋選手の真骨頂。では、初めて壁にぶつかったのはいつだろう。それは高校1年の時だった。
前述した自己紹介で『今までで一番うれしかったこと』として挙げたのは、高校3年のインターハイ優勝。北陸高校から東海大というバスケエリートの道を歩んでいるが、
「周りから見ればエリートかも知れませんが、僕自身そう思ったことはありません。中学までは田舎に居て、バスケでそこそこ行ける、そう考えていました。ところが北陸へ入って思い知らされたんです。全国から上手い選手が集まってくる。ここで生き残るにはどうすればいいのか!? って。それには練習しかありません。ただ、自分ひとりが頑張るのではなく、いい仲間に恵まれました」
東芝神奈川の#7篠山 竜青選手もチームメイトのひとり。彼と切磋琢磨したことが今でも財産になっているという。そして2人はトップリーグでプレイするライバルになった。
「アイツはどう思っているかわかりませんが、彼のおかげで頑張れたところはあります。大学でも別々のチームで競い合いました。プライベートでは仲がいいですが、マッチアップすればライバル。ゼッタイに負けたくないですね(笑)」
次のマッチアップは、北海道がプレイオフに進出しなければ実現しない。
地元での飛躍を誓って決断した移籍
篠山選手はルーキーシーズンからトップリーグ入り。チームは出身地・神奈川に本拠地を置いている。多嶋選手は(コールアップでは経験したが)、遅れてのトップリーグ入りだった。そのきっかけは北海道からのオファー。
「経営状況や練習環境など、いろいろなことを確認しました。が、すぐには決断できませんでした。2年間お世話になったリンク栃木の環境に満足していましたし、田臥さんを始め経験のある先輩たちと一緒にプレイできる。竜三さん(安齋/現アシスタントコーチ)からは多くのことを教わっていましたし……」
悩んでいたとき、その先輩から「お前ならどこへ行っても大丈夫だよ」と背中を押された。トップリーグのコートでプレイすること、地元の期待を背負ってプレイすることを選んだ。それは、プロとして生き残りを賭けた決断だった。
「正直なところ、最初は地元出身というのはあまり意識していませんでした。札幌ではなく帯広ですから(笑)。でも、イベントがあれば道産子選手として呼ばれることが多く、地元出身者として熱心に応援してもらっているんだな、と。大学卒業時、“プロ選手としてやって行こう”と決めていましたが、地元に帰って実現できたのは嬉しいですね。今シーズンもプレイオフ進出のチャンスがあります。プレイタイムが増え、信頼されていると実感しています。とにかくファンの声援に応えられるよう、最後まで頑張ります!」
いよいよ残り4試合、チームの生き残りを賭けた戦いが始まる。チーム発足以来、初のプレイオフ進出のチャンスだ。北海道への移籍により、着実にステップアップを果たした多嶋選手。どんなに難しい状況に追い込まれても常に前を向き、生き残るために戦い続けている。そんな道産子、朝飛が真骨頂を発揮する時が来た。
北海道の桜前線は5月に入って本格化するようだが、その前に「サクラサク」の吉報、合格通知ではないがプレイオフ進出決定という嬉しい知らせが、レバンガファンに届けられるかも知れない。
- 4月19日(土)16:00 北海道 vs リンク栃木@北海きたえーる
- 4月20日(日)14:00 北海道 vs リンク栃木@北海きたえーる
- 4月26日(土)18:00 日立東京 vs 北海道@大田区総合体育館
- 4月27日(日)15:00 日立東京 vs 北海道@大田区総合体育館
文・羽上田 昌彦(ハジョウダ マサヒコ)
スポーツ好きの編集屋。バスケ専門誌、JOC機関紙などの編 集に携 わった他、さまざまなジャンルの書籍・雑誌の編集を担当。この頃は「バスケを一歩前へ……」と、うわ言のようにつぶやきながら現場で取材を重ねている。 “みんなでバスケを応援しよう!”を合言葉に、バスケの楽しさ、面白さを伝えようと奮闘中。