JBLがリーグ名を変えず、表向きはプロ化を目指した新体制で臨んだJBLをスタートさせた2007年。
bjリーグと2つのリーグがある中で、北の大地はJBLを選択し、レラカムイ北海道は産声を上げた。前年、トヨタ自動車を2連覇に導いた立役者である折茂武彦、桜井良太が移籍して来たが、初年度は8勝27敗の成績で、8チーム中最下位となる8位。
レラカムイ誕生と同じ、2007年。関東大学リーグ2部の大東文化大学が、1部への昇格を決めた。その勢いのままインカレも勝ち進んで行き、全国3位という好成績を残す。優勝した青山学院大学に準決勝で敗れたが、3位決定戦では関東3位の東海大学を破って勝ち獲った銅メダル。関東大学リーグ2部だった大東文化大学を1部へ上げ、そして全国3位へと押し上げた原動力となったのが阿部 友和だ。
19得点だった青山学院大学戦以外の4試合は全て20点以上、1試合平均27.4得点。東海大学戦は38点を挙げ、75-73で競り勝った。この活躍でインカレ得点王&3Pシュート王に輝いた阿部は、さらにディフェンス王やファン投票で決められるMIPも受賞し、注目を集めた。
“ゴムのような柔らかさと強さを併せ持つプレイヤー”という印象を受ける。隣で一緒に見ていた当時のレラカムイスタッフから「阿部を獲りに行く」と聞き、さらなる興味が湧く。
そして2008-2009シーズン、ルーキーとして北海道の地でプロ選手の道を歩み始めた。
取り戻したプレイスタイル
「ファイナルは会場で観ていました。他のチームや選手がまだシーズンを続けているのに、観客席から見ているのはすごく悔しいというか、その一言だけでは言い難い感情がありました。だからこそ、あの舞台に立ちたい気持ちはすごく強いです」
そう話す阿部だが、北海道で過ごしたこれまでの5シーズンは悔しさの連続でもあった。
レラカムイ経営陣のゴタゴタから運営会社が変わり、レバンガ北海道と名前を変えて再スタートした2011-2012シーズン。チーム最高位となる5位へと成績を上げ、最後の最後までプレイオフ争いに絡む。しかし一歩及ばず、プレイオフは夢舞台に終わった。その翌年であり、期待された昨シーズンだったが、ファーストシーズンに続き、再び最下位へと落ちている。
しかし、NBLへと変わった今シーズン。
北海道は2年ぶりにプレイオフ争いの真っ直中に身を置き、初進出に片手をかけている状況だ。
前節の東芝ブレイブサンダース神奈川戦で勝ち星を挙げられず、ここに来てチームは6連敗。プレイオフ争いのライバルは、同じくプロチームのリンク栃木ブレックス。日立サンロッカーズ東京に2連勝したリンク栃木が1ゲーム差で上回って入れ替わり、北海道はプレイオフ圏外となる4位に順位を下げた。
「プレイオフが目の前にあるのは分かっており、自分たちでつかみに行くためにも勝ちに行かねばいけません。周りの勝敗を考えず、自分たちのバスケットをやり通すだけ。プレイオフやリンク栃木のことをヘンに意識すると硬くなってしまうので、いつも通りやるだけです。練習中から一生懸命できているので、その状態のまま試合に入れれば良い。メンタル的にもここが正念場。メンタルの強さが勝敗を左右するとも思っています。技術どうのこうではなく、40分間タフにディフェンスをし続けることを基盤において、もっと攻める気持ちで臨みます」
好調な北海道の理由はいくつも挙げられるが、インカレ3位へと導いた時のようなアグレッシブな阿部が戻ってきたこともその一つだ。
「ここ2年間はケガのため、試合に出られない時が多かったです。でも今シーズンはこれまで全試合に出ており、倍以上の試合をこなすことができています。しかし今シーズンは54試合に増え、そんな明確に感じているわけではないですが、やっぱり疲れがあるのかなとは思います。でも、ここで僕がしっかりしないと勝利を呼び寄せることはできない。最近はシュートが入っていませんが、それでもタッチはものすごく良いんです。そこを信じてどんどん打っていきたいし、個人としては開き直って試合に対する準備はできているので、気負わず、考えすぎず、攻め続けたい。たぶんそれが、チームにとって良い状況に引っ張っていけることだと思っています」
これまでのキャリアにおいて、阿部の平均得点は昨シーズンの6.63点が最高であり、3〜4点台をさまよっていた。しかし、攻撃力こそが阿部の持ち味であり、学生時代に見たインパクトを忘れることはできない。
今シーズン、平均こそ7.7点(4月12日現在)だが、2月〜3月は2桁得点が続き、チームも西の首位アイシンシーホース三河に対して2連勝を挙げた。
「得点に関しては、自分の中で意識を切り替えたことが大きいです。毎年毎年、コーチは変わっていますが、どのコーチも僕の持ってるものを信じて、どんどん攻めろと言われてきました。チームをコントロールした中で、自分が攻めることが今シーズンはすごくできていると思っています。ここ数試合は攻め気はあるのですが、中途半端になってるのかもしれないので、開き直って攻めて行きたいし、それが僕のプレイスタイルです」
きたえーるが満杯になって、そこで僕たちが勝つ!
プレイオフ進出へ向けた不安材料として、未経験であることが一番最初に挙げられる。意識していなくても、見えないプレッシャーに押しつぶされて普段通りのプレイができなくなるというのは、よく聞かれる話だ。
「やっぱりプレイオフが見えて来た瞬間に、気持ちが入りすぎていたり、力が入りすぎるところが若干見え隠れしています。そこはもう、個人個人がいつも通りのプレイを心がけてやるだけです。絶対にプレイオフに行きたいので、力が入るのはしょうがない。気持ちが入ったとしても、これまで練習して来たことしかゲームでは発揮できません。チームをコントロールしながら、プラスになるエネルギーを与えていきたいです」
1ゲーム差でイースタンカンファレンスのプレイオフ最後のイスを争うリンク栃木と、今週末に直接対決を迎える。会場は北海きたえーる。レラカムイ時代に5000人を集客していた会場だ。
「直接対決であり、どちらがプレイオフへ行くかがほぼ決まる戦いです。絶対に盛り上がる試合にはなると思います。チケットの完売具合なども耳に入っており、きたえーるが満杯になって、そこで僕たちが勝つというのが、ファンの方たちへとっての恩返しになるはずです。今までこれだけ負けているのに、ずっと応援し続けてくれたファンの方たちへ恩返しするためにもホームで勝って、プレイオフに連れて行きたいという気持ちが強いです」
ケガ無く過ごしている今シーズン、そしてシーズン終盤まで張り詰めた緊張感の中でプレイオフを争うこの状況を楽しめているのではないだろうか?
「もちろんです。チームの仲間と一緒にシーズンを通してバスケットができる喜びを感じています。そう感じているからこそ、このチームでプレイオフに行きたいんです。今までずっとチームには迷惑をかけてきました。正PGと言われながらも離脱してきたので、ファンの方にももちろんですが、個人としてはチームの仲間たちにも恩返しがしたい。もっともっとハッスルして、プレイオフ進出を決めるだけ。プレイオフに行けば何が起こるかは分かりませんし、そこへ行くのが大前提。もっともっとチームを作り上げて行きたいです」
とどろきアリーナで行われたアウェイゲームながら、コートサイドはレバンガファンで緑一色となっていた。大一番を迎えるリンク栃木戦は、NBLオンラインチケットを見るとすでに指定席は完売。2連勝すればプレイオフ進出が決まるリンク栃木にとっても、譲れない戦いが待っている。
決戦までのしばしの間、ファンの皆さんにとっても、大きな期待と脳裏を過ぎる小さな不安が同居する心境ではないだろうか。
- 4月19日(土)16:00 北海道 vs リンク栃木@北海きたえーる
- 4月20日(日)14:00 北海道 vs リンク栃木@北海きたえーる
- 4月26日(土)18:00 日立東京 vs 北海道@大田区総合体育館、リンク栃木 vs 千葉@清原体育館
- 4月27日(日)15:00 日立東京 vs 北海道@大田区総合体育館、リンク栃木 vs 千葉@清原体育館
泉 誠一