昨シーズン、ファイナルの舞台で敗れた悔しさを原動力とし、一番優勝に対する欲求が強いチームがライジング福岡であるはずだ。
「優勝に対して一番モチベーションが高いのは福岡だ」
いつもチームメイトにそう言い続けているのは、東京サンレーヴスより移籍した青木康平であり、移籍を決めた理由の一つでもある。
bjリーグ創生期には青木とともに東京アパッチでチームメイトとして活躍してきた仲西 淳も同じ気持ちだ。
「昨シーズン、(ファイナルの舞台である)有明(コロシアム)へ行き、そして有明で負けた悔しさを一番知ってるのは俺たちです。でも、有明は全21チームが目指している場所だし、そう簡単には行ける場所ではない。もっと必死にやって、今の状況を打破しないといけないし、強いチームにも勝てるようなチームにしていかなければいけない」
突然ヘッドコーチ不在となった開幕戦
リベンジに燃える福岡であったが、開幕日に突然予期せぬ自体が起きた。
アウェイの高松ファイブアローズ戦へ向かう当日、ヘッドコーチがいない。急きょ10月5日にリリースが出された内容は、「マック・タックHCが家庭の事情により緊急一時帰国することになりましたのでお知らせいたします。なお、再来日は来週を予定しております」(ライジング福岡オフィシャルサイトより)。
再来週と発表された10月19日の浜松・三河フェニックス戦の試合後、「自分たちのできが悪かった」とコメントを残したのは、開幕から代理で指揮を執り続けている佐野 公俊アシスタントコーチであった。
「最初はどうなるかと思ったし、ヘッドコーチがいないということはチームのトップがいないということだから、すごくタフなシチュエーションから始まったシーズンでした。でも、キャプテンとしてステップアップさせなければならないし、チームをまとめるのが自分の仕事。コート内もそうだけど、コート外での役割が今はすごく重要だと感じている」
キャプテンを務める仲西はヘッドコーチ不在だった開幕当初を振り返った。
結局、タックHCは戻って来ず、11月19日に佐野 公俊氏をヘッドコーチに就任することが決定。仕切り直しとなった11月23日(土)に行われた群馬クレインサンダースとのアウェイゲーム。72-71で辛勝し、連敗を脱出。新体制となった初戦を白星で飾ることができた。
35分間は群馬の時間だった。ホームで声援を送る群馬ブースターは、3勝目を喜ぶ準備に入っていたことだろう。しかし、最後に見せた起死回生のゾーンプレス。佐野HCと仲西キャプテンの話し合いからこのディフェンスを仕掛けることを決めたそうだ。
「最後のディフェンスは、実は前のHCの時、オフシーズン中にずっと練習していたことです。シーズン中は一度も使ったことはなかったディフェンスですが、オレの頭の中にパッと浮かんで、ちょっとやってみようと言ったのが見事にハマッた。あのディフェンスが良かったというよりも、ディフェンスで後手になるのではなく自分たちから仕掛けること、相手のオプションを奪い、やりたいことをやらせないことをしたかった。そうすれば自ずとオフェンスも走れるし、バスケットは流れのスポーツなので自然と流れも出て来る。悪い時間ももちろんある。今シーズンはその悪い時間が長すぎて、良い時間が短い。それを逆にできればもっと良いパスケットができる」
35分間の福岡は選手同士がチグハグしており、フラストレーションを抱えながらプレイしているようにさえ見えた。実際、#2レジナルド・ウォーレンはテクニカルファウルを取られている。しかし最後の5分間は、プレイに集中したことで一気に逆転し、勝利をつかむことができた。
“経験が無い”と言う佐野HCをサポートする31歳同い年の仲西キャプテン
「すごく内容の悪いゲームだったけど勝てた。じゃぁ、勝てた原因は何かと言えば、残り5分ですごく良いディフェンスをがんばってプレッシャーをかけたら一気に流れが変わって、トランジションで走ってイージーポイントを稼いだ。短い時間にそれだけやっただけで試合に勝てたのだから、これを40分間続けたらどうなる?俺たちはメチャメチャ強いチームになれるし、昨シーズンよりも良いチームになれるはずだ」
試合後のロッカールームでチームを鼓舞させる話をした仲西キャプテン。
翌日の同カードは81-62と点差を開いて勝つことができた。佐野HCも、「40分通して最初から最後まで選手たちがエナジーを出して戦ってくれた結果が点差にも出ている」とコメントを残している。
佐野HCと仲西キャプテンはともに31歳の同い年。勝利を呼び込んだディフェンスの一件もそうだが、試合中は二人で相談するシーンも多く見られた。
「アシスタントコーチもいないですし、同い年の佐野HCは自分でも『まだコーチとして経験が無い』と言ってるので、チーム全員がそれを理解して彼を支え、お互いがお互いを支えていかなければいけない。タイムアウト中も常にコミュニケーションを取って、いろいろとアドバイスもさせてもらいながらも、決めるのはもちろんHCの役割です」
青木康平を地元で男にしたい!
青木の加入はチームにとってどう変化が生まれているのだろうか?
「康平君が入ったことはチームにとってすごくプラスになってる。プレイもそうだし、彼のキャリアやプロ意識はチームにすごく伝わっている。彼の取り組む姿勢などはみんながその背中を見ているし、良い影響をもたらせてくれている。彼の発言力もチームの支えになっている。オレと康平君はbj1年目から同じアパッチでキャリアをスタートさせたけど、東京はオレの地元でありそこに福岡出身の康平がいた。逆に今は康平君が地元の福岡に帰って来て、東京出身のオレが福岡にいる。これも運命を感じるし、また同じチームでプレイできるというのもやっぱり運命なのかな。一緒に優勝して、彼の花道を作ってあげたいし、地元で男にさせたい」
bjリーグができる前、青木がストリートボールシーンを切り拓いて行ったFAR EAST BALLERSの名を全国に轟かせた沖縄ツアーでもこの2人は一緒だった。旧知の間柄であり、再び仲間となってともに優勝を目指す。
「難しいことをやらないで、シンプルにディフェンスをがんばれば、メンバーを見ても余裕で100点を獲れるチームだと思うんですよ。どうしても今シーズンは得点が入っていない。それはディフェンスから走っていないことで6〜70点台になってしまってる。それを8〜90点台に伸ばしていけばライジングらしいバスケットが戻って来る。シーズンが終わった時に、今のこの苦しい時期を乗り越えたから強くなれた、と言いたい。そのためにも、このままズルズル行かず、もっと修正していきたい」
昨シーズン、仲西が手応えをつかんでいた福岡らしさが、ようやく目を覚まし始めた。
佐野HCが正式就任し、群馬に2連勝を挙げ7勝7敗とし、勝率を5割に戻した。今週は福岡に戻って、同じく7勝7敗の滋賀レイクスターズを迎え、ホームゲームが待っている。
11月28日(木)29日(金)@福岡市民体育館での開催は中4日での平日ゲームになるが、良いイメージのまま勝ちきりたいところだ。
文:泉 誠一