今年のバスケ界の流行語を挙げるとすれば、「ガバナンス」ではないだろうか。
そのガバナンスを発揮できずに、2リーグ併存状態に端を発した問題は解決せず。FIBAから資格停止処分を食らったまま、年を越すこととなってしまった。FIBAに先導される形で特別チームが組まれ、来年1月より日本バスケの改革が始まる。
特別チームのメンバーとして、川淵 三郎氏の名前を報道で見た。Jリーグを誕生させた決断力こそ、バスケ界が振るえなかったガバナンスを補ってくれることに期待したい。反面、川淵氏自身が選手として活躍されたからこそ、サッカーの発展のためになりふり構わず情熱を傾けられたはずである。畑の違うバスケにおいて、同じような熱量で取り組んでいただけるのだろうか。もう一つ、当時と時代背景が大きく異なる点も不安要素である。Jリーグ発足へ向けて始動していた頃は、終焉を迎えつつあったとは言え、バブル時期であった。川淵氏だけではなく、広告代理店など強固なチームがスクラムを組んで押し進めたからこそ、プロ化を勝ち獲ることができた。様々な有識者たちがバスケに情熱を傾け、冷静に決断していくようなタスクフォースの誕生を望む。願わくば、財務関係のスペシャリストがグレーなお金の問題をクリアし、さらなる融資を受けられるような絵を描いてもらいたい。
プロスポーツチームのオーナーはビリオネアか大企業
最近、新聞紙面やスポーツセミナーのテーマとして「企業チーム」「企業スポーツ」というワードを目にする機会が多い。2リーグ併存状態において、バスケでは足かせのように扱われているが、日本でホットなのは企業チームの方だ。その大きな理由として、2020年東京オリンピックが決まったからに他ならない。ビッグイベントが東京にやって来たときに、企業としてどう関われるかを画策しており、アスリートへの投資が始まっている。
欧州サッカーリーグにおいて、大多数のプロチームのオーナーは資産家か大企業だと言う。これはアジアサッカーも、NBAも同様であり、今後はスポンサーからの資金をどう上乗せしていくかが課題となっている。逆に言えば、スポンサー収入など無くても、自らの資産で回すことができてしまう。プロスポーツチームのオーナーは、ビジネスでの成功者や揺るぎない資本を持つビリオネアばかり。
急激な成長を見せている東南アジアでは、1国の大統領がサッカーチームのオーナーとなり、ポケットマネーでスタジアムを作ったり、スター選手を買ってくるという話も聞く。アジアのバスケリーグを見ても企業に支えられており、韓国KBL、台湾SBL、フィリピンPBAではチーム名に企業名が付く。フィリピンはビールなどでおなじみのサンミゲル社が、「Barangay Ginebra」「Beermen」の2チームを持って参戦させている。
日本でも、プロ野球は全12球団に企業名が付いており、Jリーグもまた企業色は拭いきれていない。
さらに日本の企業は、海外のプロスポーツには積極的だ。スズキやトヨタはアジア各国で行われるサッカーのカップ戦やリーグ戦の冠スポンサーとなり、ヒューストンロケッツの本拠地がトヨタセンターというのはご存じの通り。
クラブ(プロ)と企業が混在する国内リーグ
スポーツセミナーとともに、他のアリーナスポーツの試合にも足を運んでみた。バレーボール、ハンドボール、フットサルを観戦。まず驚かされたのはフットサルだ。都心から離れた駒澤体育館で、平日開催にも関わらず、ほぼ満員だったのは見習わねばなるまい。ハンドボールも、千人ほどしか入らない体育館であったが、9割は埋まっていた。
2階席に座るとバスケ観戦時に生じる不具合が、他のスポーツも同様に見受けられた。得点板やコートが見切れてしまう視角は同じように存在する。アリーナスポーツ全体で問題視し、環境改善を求めて声を上げていかねばならない。
プロ化を目指すフットサルは別だが、バレーボールもハンドボールも、今回見られなかったアイスホッケーも、企業チームとクラブチーム(プロ)が混在しており、NBLと同じ構図だ。
2リーグ併存状態にある男子バスケは統一プロリーグを目指すわけだが、明確な審査基準を設けて確固たる箱となるリーグ環境さえ作れば、そこに入るのは企業チームでも、クラブチームでも構わない。平等を求めると話はこじれるだけであり、それぞれの良いところを補うような道標を作り、お互いの着地点を見出すことで、他競技も追随できる。
バスケプロリーグのモデルがスタンダードとなれば、日本スポーツ界を牽引できる存在にだってなれる。
bjリーグに所属するチームはいずれも株式会社であり、言わばベンチャー企業チーム。琉球ゴールデンキングスや秋田ノーザンハピネッツのような成功例が、世界では主流の大資本が支えるチームと真っ向勝負する舞台にこそ夢がある。他競技や他国の状況を知るにつれ、「企業チーム」と言うこと自体がそもそもおかしいと感じた。
競争社会の幕開けに期待
プロ野球やJリーグにおいて、戦力外通告というプロならではのシビアなトピックスが並ぶオフシーズン。チーム数が増え続けるバスケ界では、志願して引退や移籍をする選手ばかりであり、クビという話はあまり聞いたことがない。本当の競争社会が幕開けすれば、自ずと2つ目に指摘されている男子日本代表の強化に対する解決の糸口となるはずだ。
インカレやウインターカップで熱い戦いを見せてくれた有望な学生たちは、卒業後にどの道へ進むのか?それが一つの答えとなる。
ウインターカップ男子決勝戦。終了間際の同点の場面で、福岡大学附属大濠の牧 隼利がドライブからリードをもぎ取るべくダンクに向かって離陸した。同じ2年生であり、明成で同じ8番をつける八村 塁が、牧のさらに上を行きブロックで阻止。この2人は、U-17世界選手権に出場している。惨敗したという結果だけでは量れない、大きな経験をしてきたことがこのプレイで思い知らされた。市立船橋や福岡第一がシード校を破ったのもまた、単なるフロックではなく、やはり世界を経験した平良 彰吾(市立船橋)、武藤 海斗(福岡第一)がいたからだと思いたい。
新しい息吹をひしひしと感じ、1日も早くFIBAからの制裁を解除させなければいけないと強く感じた。子どもたちに夢を与え、日本が強くなる環境作りへ迅速に対処することが、バスケに関わる大人たちの役割だ。
荷物を運ぶのにも長けている馬に甘えるように、問題を先送りしてしまった午年がまもなく終わる。
やって来る未年は、その字の如く未来に向かう年にしよう。
泉 誠一