オールジャパン(男子)は東芝ブレイブサンダース神奈川が8年ぶりの栄冠を勝ち取った。トヨタ自動車アルバルク東京との決勝戦はセミファイナルに続き、またも最終盤までもつれにもつれた試合。今度は残り19秒で逆転を許し、スコアは78-79になっていた。
タイムアウト後、#7篠山のアシストを受けた#22ファジーカスが落ち着いてシュートを決め80-79と再逆転。相手にもう1プレイ残っていたが、そこで#14辻が見事なスティールを決め、そのままボールを持ち込んでレイアップシュート。スコアは82-79。トヨタ東京が最後の望みをかけた#35伊藤の3Pシュートが外れた瞬間、東芝カラーが圧倒していたアリーナは大歓声に包まれた。
コート上で喜びを爆発させる選手たち。その輪の中に大西選手(#24)の姿もあった。昨シーズン、パナソニックトライアンズの一員として16年ぶり10回目の優勝に貢献した。しかし、その時点でチームの休部は決定済み。複雑な思いを抱きながら戦い抜いたチームメイトとともに、将来が見通せない不安を抱いていたのではないだろうか。
「昨シーズンは、このチームで戦う最後のオールジャパンだとわかっていて、“みんなで頑張ろう”と結束していました。こうしてまた優勝でき、『最後のところでいいチームワークを発揮できたチームが勝つんだな』と、改めて実感できましたね。30歳を過ぎてから2回も優勝できるとは思っていませんでした。それというのも、こんなにいいチームに移籍できたからです。みんなで優勝をつかみ取れたことが嬉しいです」
パナソニックで長くプレイした大西選手にとっては、“バスケット人生リスタートの1年”になった。
「車での移動が少なくなりました。電車もほとんど乗りません。生活は変わりましたが、職場の皆さんも熱い応援をしてくださるのでとても感謝しています。練習環境もいいですからね(笑)」
対戦相手だったチームと、仲間になったチームとでは印象は違っていたのだろうか?
「昨シーズン、外から見ていても良いチームだと思っていました。一緒にプレイをするようになっても、その印象は変わりません。チームワークはいいですし、皆、練習熱心ですから」
優勝が決まり、一瞬にして歓喜の輪ができたコート上。大西選手は少し出遅れたように見えた。チームの一員になれたのかどうか、ちょっと意地悪な質問もしてみた。
「いろいろ感じることもあって……ワァーと行ってなかったですかね!? 一員になれた、かな? そう思ってくれれば嬉しいですよね、というか、みんな仲良くやっていますから、“一員です!”ね(笑)」
大西選手は終始にこやかに、そして静かにこの優勝を噛み締めているようだった。思いもよらなかった休部を経験し、さまざまな思いを胸の奥にしまって、東芝への移籍を決意しただろう。
静かなる男は、このチームの大事な一員として、パナソニックでは果たせなかった二冠達成に向けて闘志を燃やしている。かつてのチームメイトはライバルになったが、負けるわけにはいかない。お互いパナソニックで培ったキャリアもある。大西選手は移籍で新しいバスケット人生を得、これからも輝かしいストーリーを紡いでいくはずだ。
第89回天皇杯・第80回皇后杯 全日本総合バスケットボール選手権大会
東芝ブレイブサンダース神奈川
文・羽上田 昌彦(ハジョウダ マサヒコ)
スポーツ好きの編集屋。バスケ専門誌、JOC機関紙などの編 集に携 わった他、さまざまなジャンルの書籍・雑誌の編集を担当。この頃は「バスケを一歩前へ……」と、うわ言のようにつぶやきながら現場で取材を重ねている。 “みんなでバスケを応援しよう!”を合言葉に、バスケの楽しさ、面白さを伝えようと奮闘中。