第1ピリオド、18-21。第2ピリオド、15-17。前半を終わって、38-33と和歌山がリードを奪った。ところが第3ピリオド、21-9と東芝神奈川が盛り返し、54-47と逆転に成功。第4ピリオドに入っても東芝神奈川がペースをつかみ、このまま危なげなく勝利するものと思われた。
東芝神奈川のホームゲームのような雰囲気の代々木第一体育館は3階席まで埋まっている。前の試合の余韻が残ってはいたものの、東芝神奈川応援団は、ホッとしながら落ち着いて声援を送っていたに違いない。
──余韻を残したもうひとつのセミファイナル、アイシンシーホース三河vsトヨタ自動車アルバルク東京は、よもやの試合展開だった。第1ピリオドで32-15と大差をつけたアイシン三河は第2ピリオドも攻撃の手を緩めず、一時は28点差に。前半を終わって50-37とリードを保った。
しかし、後半はトヨタ東京が巻き返す。第3ピリオド残り4分、60-61と1点差にするともう勝負の行方はわからなくなった。そして第4ピリオド、4分を過ぎたところで77-75と、ついに逆転に成功。そこからはアイシン三河が追いかける形になったが、徐々に点差が広がり、89-83でトヨタ東京が2年ぶりのファイナル進出を決めた──
おそらく大勢の東芝神奈川ファンはその試合を観ていたのではないだろうか。“バスケって、これがあるから面白い!”という声も聞こえていた。ただ、「我が東芝神奈川に限っては、そんな試合展開にはならない。今日はもう大丈夫! このまま逃げ切りだね……」そんなムードだった。
第4ピリオドに入って徐々に点差を広げる東芝神奈川。残り5分を切り、#5山下のアシストを受けた#22ファジーカスが難なく決めて63-49。和歌山の頼みの綱は、当たりが出てきたエース#9川村。すぐに、この日22得点目となる3ポイントを決めた。そして、もう1本……ただ、逆転劇の主役になれるかどうかはわからなかった。2ケタ得点差が和歌山ベンチにも重くのしかかったままだった。
その後、#7リカートのシュートで57-65と1ケタ得点差に戻したのが残り3分を切った頃。ファジーカスのシュートが決まり、川村の3ポイントが外れた時点で、すでに2分を切っていた。
東芝神奈川ファンの安堵は、勝利への確信に変わったはずだ。しかし、ドラマはここから幕が開いたのだった。
「残り1分10秒⇒川村3ポイント成功」「残り51秒⇒ファジーカスが2ポイント」「残り45⇒ファジーカスがターンオーバー」「残り43秒⇒川村がスティール」「残り39秒⇒川村3ポイント成功、東芝神奈川タイムアウト」──この時点で69-66と、東芝神奈川のリードは3点になっていた。
タイムアウト後、「残り17秒⇒#篠山、ドライブインシュート失敗、オフェンスリバウンドを取ったファジーカスが2ポイント」「残り10秒⇒川村3ポイント失敗」「残り8秒⇒オフェンスリバウンドを取ったリカートが2ポイント、東芝神奈川タイムアウト」。この時点で71-68。「残り7秒⇒#33内海ファウル」──東芝神奈川はボールをキープすれば良かった。しかも、マイボールのスローインだ。
ところが次の瞬間、大観衆はハッとした。なんと、スローインした#9栗原のボールはそのままコートの外へ出て行ってしまったのだ。「残り7秒⇒栗原ターンオーバー」
“奇跡的なシーンを目撃”できるのはスポーツの醍醐味。“ブザービーター”というバスケ用語は誰もが知っている。ただ、この時点で和歌山に勝ち越す術はなく、3ポイント成功で、オーバータイムへも持ち込めるかどうか。東芝神奈川はファウルで止めても勝つ確率は高かった。
ここまで6本の3ポイントを決め、31得点の川村。和歌山ファンは川村のシュートを願っただろう。ところが、スローインのボールは川村へ渡り、そのままシュートは打てない。が、川村は冷静に#1木下へパスを回し、その木下は奇跡的な1本を決めてみせた。ほんの少し前、ハッと息を飲んだ大観衆だったが、今度はため息に変わっていた。ミスをした栗原の心は折れかかっていただろう。
残り0.7秒、誰もが延長戦を想像した。奇跡的なシーンがそう何度も起こるはずはない、とも思っている。タイムアウトを取った東芝神奈川は逆転劇の主役、#14辻か得点源のファジーカスにボールを入れて“ブザービーター”を狙った。スローインのボールを受け取ったのは栗原だった。
マークを外そうと必死に走る辻。その間にボールはファジーカスに渡り、ループシュートを成功させていた。73-71。コートになだれ込んだ東芝神奈川の選手たちは勝利を喜び合った。自らのミスを挽回し、最後に見事なアシストを決めた栗原は床に突っ伏した。
“奇跡的なシーン”は何度も起こる……だからバスケは面白いよね! その場に居合わせた幸運を噛み締め、たくさんのバスケが余韻に浸った。
その奇跡は、また今日も(女子決勝)、そして明日も(男子決勝)再演されることを切に願う。テレビ観戦6%以上、アリーナを超満員に……それがキャスト(選手たち)を何倍も勇気づけることになる。バスケの面白さはを味わうために、キャストとオーディエンス(観客)の一体感が不可欠なのだ。
訂正:「0:01」の表示は「1秒」ドラマは0.01秒からではなく“0.7秒から”
昨日UPしたコラムについて間違い(しかも見出し)のご指摘をいただきました。直接、お声を掛けていただいたのですが、その時点でも間違いに気づかず言い訳をする始末。ここに訂正させていただきます。誠に申し訳ありませんでした。
実は、書き始めた時は“0.7秒”にしていたにもかかわらず、ふと「?」が頭に浮かび、正確を期するために「プレイ バイ プレイ」を参考にすることに。ところが、気なり出すとますます混乱し、「最後のスローインは0.7秒からだったはずだが!?」と確信が持てなくなってしまったのです。
そんな時、目に飛び込んできたのが『0:07#9栗原ターンオーバー(3本)』の記述。それを見た瞬間、「0.07秒と読み間違えてはいけないぞ、危ない危ない」と思いながら最後のスローインを確認すると「0:01#22ファジーカス2Pシュート○(26点)」「#9栗原アシスト(2本)」──“危ない危ない”と思ったのは何だったのか?──ここで決定的な間違い、そう「0.01秒」と読み間違えていたのでした。
1秒未満なので「0:01」という記述になっていたのに、“えっ!! そんなに時間がなかったの”と、勝手にドラマの筋書きを変え、ひとり感慨にふけり……拙稿の上に勘違いを重ね、校正の甘さまで……反省しつつ、次なる拙稿に頭を悩ませ続けます。今後とも温かい目でよろしくお願いいたします。
文・羽上田 昌彦(ハジョウダ マサヒコ)
スポーツ好きの編集屋。バスケ専門誌、JOC機関紙などの編 集に携 わった他、さまざまなジャンルの書籍・雑誌の編集を担当。この頃は「バスケを一歩前へ……」と、うわ言のようにつぶやきながら現場で取材を重ねている。 “みんなでバスケを応援しよう!”を合言葉に、バスケの楽しさ、面白さを伝えようと奮闘中。