2年ぶりに“流(リュウ)”が 日本代表に戻ってくる――。 新キャプテン・吉田亜沙美
2014年2月、Wリーグのゲームで左ヒザ前十字靭帯を断裂し、同年9月におこなわれた世界選手権の舞台に立てなかった吉田亜沙美(JX-ENEOSサンフラワーズ)が、女子日本代表に復帰した。気迫を前面に押し出したプレイで、攻守にわたりチームをけん引する日本随一の司令塔。8月29日から中国・武漢で開催されるアジア選手権(リオデジャネイロ・オリンピック予選)を勝ち抜くためにも、彼女の復帰は必要不可欠だった。しかも若手を中心としたチーム構成のなかで、自身初の日本代表キャプテンにも指名された。
代表活動が始まった6月10日、その吉田が日本代表への思い、キャプテンとしての覚悟、そしてオリンピックに向けた思いを語ってくれた。
Text & Photo by F.Mikami
■2年ぶりの日本代表復帰
――2年ぶりに日本代表に戻ってきました。様変わりしたメンバーのなかで初日の練習を終えました。久々に練習をした感想を聞かせてください。
吉田 やはり楽しかったですね。ケガから復帰したWリーグの試合もすごく楽しかったんですけど、それと同じくらい、日本代表のみんなと一緒にバスケットができることがすごく楽しいと感じました。これから体力的にはしんどくなってくると思いますけど、このメンバーでやれることを誇りに思っています。また、ここに戻ってくることができたのはさまざまな人のサポートのおかげだと思っています。自分の1つのプレイがそうしたサポートのおかげだという感謝の気持ちを忘れずに、練習に取り組んでいきたいと思います。それは私だけでなく、日本代表に選ばれた選手1人ひとりがさまざまな人に感謝しながら、今ここでバスケットができることが当たり前ではないとしっかりと覚えておいてほしいと思っています。
――その楽しみを継続するためにはアジア選手権2連覇、そしてオリンピック出場を果たす必要があります。日本代表としては初のアジア選手権連覇に挑むわけですが、JX-ENEOSで「連覇」を達成している吉田さんが考える、連覇をするためのポイントとは何でしょう?
吉田 技術面はもちろんですが、最後は気持ちの部分が大きいと、バスケットを始めたころからそう教わってきました。JX-ENEOSが連覇をしているのも、チームのみんなが強い気持ちを持って、みんなのために、チームのためにと強く思っているからこそだと思っています。日本代表も同じで、まずは強い気持ちを持つこと。絶対に負けないという気持ち、相手に立ち向かっていく強い気持ち、そして試合には5人しか出られないわけですから、その5人がベンチで出番を待っている選手の分まで強い気持ちでプレイすることだと思います。ベンチで待っている選手もコートに立つ5人がよりよい状態で試合ができるよう、ベンチで自分のできることが何なのかを考え、なおかつベンチでゲームを見ながら、試合に出たときに何ができるかを考える。一人ひとりがそうした気持ちを持つことがチームに貢献することだと思いますし、それが1つの勝利につながってくると思います。自分のためではなく、まずは隣にいる仲間のため、チームのため、日本のため、そしてファンのために、試合だけでなく練習からしっかりと自分の役割を出し切ることが連覇につながるのだと信じています。戦術的なことはスタッフに任せて、選手は1つの勝利のために、求められる自分の役割を強い気持ちでおこなうことだと思います。
■日本代表キャプテンとしての覚悟
――今年度は初めてキャプテンに就任しました。内海知秀ヘッドコーチから打診されたときの気持ちと、引き受けた理由を聞かせてください。
吉田 最初に言われたときは「え…」って思いました。ずっと日本代表にい続けているのであれば、時期的にも自分のときかなと思ったかもしれません。でも昨年は足のケガで選ばれていなかったので、自分じゃないだろうと思っていたんです。ただ内海ヘッドコーチと話をして、内海ヘッドコーチの思いに応えたい気持ちになりました。また2年ぶりに日本代表に戻ってこられたことを嬉しく思ったことと、このチームを引っ張っていきたい…もちろんこれまでもポイントガードとして引っ張ってきたつもりですけど、もっと責任のあるポジションを今の自分が経験することで、自分自身を変えなければいけないという気持ちも出てきました。まぁ、半分は説得された感じで、お引き受けしました(笑)。
――これまでも日本代表は経験していますが、今年度のチームはこれまで以上に若手中心で編成されています。そのチームをどのようにまとめていきたいと考えていますか?
吉田 若い分、明るさは自然と出てくると思うので、その点は心配していません。ただJX-ENEOSが同じように若いチームになってポイントガードをしたときに「若いから負けた」という言い訳だけはしたくないとずっと思っていました。そこは日本代表でも同じで、それが第一に考えていることです。また今回の19名の中にはU16やU18、ユニバーシアードの日本代表を経験した選手もいますが、(フル代表という意味での)日本代表に入ったことは初めてという選手が多いと思うので、その責任感や重みというものを一人ひとりがしっかりと自覚をして、中途半端な気持ちではなく、最後まで気持ちをブラさずに「チャンピオンになる」、「オリンピックに必ず出る」という強い気持ちを持って、謙虚に、お互いを高め合いながら、切磋琢磨しながら、そういう強いチームを作っていきたいです。記者会見で間宮(佑圭)も言っていましたが、いいチームって練習を楽しみながらやるだけではなく、ダメなものをダメと言える、お互いを指摘し合えるチームだと思います。練習の内容はもちろん、練習に入る姿勢まで、一人ひとりがこのチームのために、そして1つの勝利のために練習をおこなっているんだとしっかり考えていけるようにまとめていきたいです。そういった面は私や三谷(藍)さんなどベテランが若手に伝えていくことだと思っていますし、言葉だけじゃなくて、私自身の練習に対する姿勢も影響してくると思うので、その点をしっかりやっていけたらなと思っています。
――それは誰かに教わったことですか?
吉田 いえ、自分で考えたことです。JX-ENEOSが若いチームになっていくなかで、私も少しずつ年齢を重ねて、ベテランと呼ばれる立場になったときに、やはり自分だけの考えで動くのではなく、ほかの選手のことも気にかけなければいけないと思ったんです。そうした気持ちがポイントガードとしてのプレイにも出てくると思っていたので、一昨年くらいから少しずつチームメイトのことを気にしながらやってきました。それは日本代表でも同じようにやっていなかければいけないことだと思っていましたし、そういったことを若手に伝えていくことも私を含めたベテランの役割だと思っています。
■世界への思い
――先日、渡嘉敷さんがWNBAデビューを果たしましたが、ほかのJX-ENEOSのメンバーと一緒に現地に行かれて、試合を見ましたか?
吉田 現地には行っていませんし、試合の映像も見ていません。私は私のことしっかりするだけだと思っていたので……自分自身の練習、つまり日本代表のために体を作っているときだでしたから。もちろん情報は入ってきましたし、渡嘉敷がWNBAのコートに立って、開幕戦でもしっかりとプレイをして、名実ともにWNBAの選手になったことはすごく嬉しく思っています。彼女が戻ってきたときに、一緒にプレイできることを今からすごく楽しみにしています。
――吉田選手自身も数年前からWNBAに行きたい、世界で戦いたいという思いをよりはっきりと口にするようになりました。昨年の世界選手権はケガで出られませんでしたが、今回のアジア選手権を勝ち抜けば、リオデジャネイロ・オリンピックです。少し気の早い話ですが、世界に向けての思いはどのようなものですか?
吉田 バスケットを始めたときからオリンピックに出場することは夢でしたし、3年前のロンドン・オリンピック世界最終予選では、あと1勝でオリンピック出場というところまで進みながら、その出場権を勝ち取れなかった悔しい思いがあるので、来年のリオデジャネイロ・オリンピックには絶対に出たいです。私にとっては最後のオリンピックになるかもしれませんし、リオのコートに立って、世界各国の選手と戦って、自分がどれだけ通用するのかを試してみたいと強く思っています。ケガする前は私自身もWNBAに挑戦したいという気持ちを強く持っていて、でもその道がケガによって閉ざされたときに、ならば日本代表として、世界に日本のバスケットの素晴らしさを表現しに、チームのみんなと一緒に行きたいと思うようになりました。チームとしてはもちろんそうですけど、私個人としても世界を相手にどれだけチームをまとめて、ゲームコントロールができるのかがすごく楽しみです。そのためにもアジア選手権で優勝して、ぜひその権利を勝ち取りたいと思います。
コートの上では人一倍勝利に対して貪欲な姿勢を見せるため、誤解を受けがちな吉田だが、実際には周りを気遣い、人を思える優しさも持ち合わせている。そんな厳しさと優しさを持っている吉田だからこそ作れるチームの色があるはずだ。その色が五色の輪と組み合わさってキレイな色彩を生み出したとき、女子日本代表は2004年以来のオリンピック出場を果たす。